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1年で工数は4分の1に。グリーのゲーム開発部門がUXテストの効率化に取り組んだ本当の理由

タグ : HCD, UX, グリー 公開

 
HCD-Net認定の人間中心設計専門家でもあるグリーのゲーム開発部門UXデザインチームマネジャー村越悟氏

HCD-Net認定の人間中心設計専門家でもあるグリーのゲーム開発部門UXデザインチームマネジャー村越悟氏

最高の「ユーザー体験(UX)」をデザインできるかどうかが、Webサービスの成否を分ける——。こうした考え方は、いまやサービスの作り手にとって常識となりつつある。

しかし、「UXデザイン」という、ある種あいまいなものに組織として真剣に向き合うためには、越えなければならない、いくつかのハードルがあることも確かだろう。

ネイティブゲームの開発に人員を大きくシフトし、注力し始めたグリーでは、同時に最適なUXを実現するための新しい体制づくりを、この1年で進めてきたという。

グリーのゲーム開発部門UXデザインチームマネジャーで、HCD-Net認定の人間中心設計専門家でもある村越悟氏に、1年にわたる挑戦と、その根底にある考え方を聞いた。

プロフィール
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グリー株式会社 Japan Game事業本部 UX Designチーム マネジャー
村越 悟氏

大手Webサイト制作会社での情報アーキテクチャ設計などを経て、2013年にグリー株式会社に入社。14年1月より現職。社内でモバイルゲーム開発におけるUXデザイン活動の推進を行う傍ら、執筆、寄稿などを通じてUXデザインや情報アーキテクチャの普及、啓蒙にも積極的に取り組んでいる。情報アーキテクチャの国際カンファレンス「World IA Day」2014年ローカルコーディネーター、米国Information Architecture Institute会員。HCD-net認定 人間中心設計専門家

UXの「評価」と「設計」を担う新チーム

村越氏によれば、ゲーム開発部門UXデザインチームは、大きく分けて2つの機能を担っているという。

一つは、すでにスタートしている開発プロジェクトについて、βテスト前などのタイミングでユーザーテストを行い、UXを「評価」する機能。もう一つは、新規プロジェクトの立ち上げ時からチームのメンバー1人をプロジェクト専属としてアサインし、企画から具体的なUI設計までがスムーズに進むようファシリテートする、UXの「設計」機能だ。

昨年、ゲーム事業に大きくリソースをシフトしたことに伴い、プラットフォームサービスのUXチームがゲーム開発部門へと移籍する形で発足。現在7人のメンバーは、ディレクター色の強い人からグラフィックデザイナーまで、その出自はさまざまという。

マネジャーを務める村越氏は、もともと情報アーキテクチャの専門家で、2013年3月にグリーに入社後は、社長室付きでコーポレートサイトの運用業務などを行っていた。UXデザインチームには立ち上げ時にメンバーとして加わり、今年1月から現職に。チームの活動は、そこから本格化していくことになる。

要件定義とレポートの見直しでテスト工数を短縮

HCD的手法にのっとったUXに関するユーザーテストでは、被験者の操作を「観察」すると同時に、その操作を選んだ動機を「質問」することで、より本質的な課題をあぶり出していく

HCD的手法にのっとったUXに関するユーザーテストでは、被験者の操作を「観察」すると同時に「質問」を重ねることで、より本質的な課題をあぶり出していく

先述したUXデザインチームの2つの機能のうち、村越氏がより重視しているのは「設計」機能だ。しかし、マネジャーに就任して最初に手を付けたのは、「評価」機能の見直し。まずはそのプロセスを見ていこう。

UXに関するユーザーテストは、各ゲーム開発チームからの要請を受ける形で実施される。コストを抑えるべくDIY的に行われているのは一つの特徴で、場所は社内の会議室、被験者は管理部門の社員など、テスト対象タイトルに直接関わりがない社員が務める。

端末の利用状況をカメラで上から撮影し、被験者がどう操作するかを「観察」するのは一般的な手法だが、同時にインタビュアーが「なぜその操作をするのか」、「なぜそういう気持ちになったのか」を随時「質問」していく。

「『観察』と『質問』を併せて行うことで、UXに関するより本質的な課題をあぶり出すのが狙い」(村越氏)だ。

テストの後は、課題に合わせて要件定義を行い、改善案を導き出し、リリースして検証するという一般的なHCDプロセスに沿って進めていく。ただ、チーム立ち上がり期の体制には、レポートして開発チームにフィードバックするまでに非常に多くの時間を要するという課題があった。

「モバイルゲーム開発のスピード感はとても速いので、実査まで1カ月、レポーティングまでにさらに2、3週間も掛かるようでは、ゲーム開発チームの状況がガラッと変わってしまっているため、役立ちません。UXデザインチームの工数としてもそうですが、組織内で受け入れてもらうためには、ゲーム開発チームへの負荷を減らす必要がありました」

村越氏はまず、テストに掛かっていたすべての工数や人月の洗い出しに着手。特に時間が掛かっていた要件定義とレポーティングの工程を重点的に見直し、圧縮を図った。

その結果、従来はテスト全体で40人日掛かっていたものが、平均10人日まで短縮。実施回数でも、FY2014下半期の8回から、FY2015上半期は10月末時点ですでに14回と、倍以上のペースにアップした。

テストの改善は「設計」にコミットするための布石

実は、UXデザインチームは立ち上げ当初、この「評価」の機能のみを担う部署だった。「デザイン」の冠はあるものの、実質的には「リサーチャー」にとどまっていたと村越氏は振り返る。

「UX評価としてのテストはそもそもデザイン工程というよりは、デザインの後工程という側面が濃いものと思っています。もっとデザイン工程全体にコミットしていかなければ、UXデザインとは呼べないだろうという課題意識がありました。加えて、UXの改善はさまざまな外部要因が重なった結果として成立するため、リサーチだけでは結果へのリーチ率が判然とせず、組織内で評価されないという危機感もありました」

つまり、村越氏が本当に力を入れたかったのは、最初から「設計」機能の方。「評価」のプロセスの効率化は、「設計」により多くの労力を割くための布石だったというわけだ。

低コストで有用なテストを実施できた実績が積み上がると、組織内でのチームの認知度が向上し、さらなる引き合いにつながるという好循環も生まれる。

こうしてチーム内外の環境が整ってきたことで、先月末ごろからはいよいよ、「設計」に深くコミットするために動き始めているという。

本質的な議論の促進にはアナログツールが有効

本質的な議論を引き出すためには、イメージを可視化し、共有できるアナログツールが有効という

本質的な議論を引き出すためには、イメージを可視化し、共有できるアナログツールが有効という

では、UXデザインチームがいよいよ取り組もうとしている「UX設計にコミットする」とは、具体的にどのような業務を指すのだろうか。

村越氏はその役割を、「チーム内のコミュニケーションを最大化するファシリテーター」と表現する。

「企画の前段を詰めるというよりは、仕様の固まっていないところ、こぼれ落ちそうなところをキャッチアップして、設計の中に落とし込む手伝いをするのが僕らの役目です」

村越氏によれば、ゲームは開発者各自の頭の中にあるイメージが強く作用するプロダクトであるため、関係者がそれぞれの想像力に基づいて会話をすると、議論がかみ合わずに、企画の本質がブレてしまうことが往々にしてあるという。

そして、一度ブレた会議は肝心の全体像を置き去りにしたまま、各人がイメージしやすいディテールの方へと落ちていく。こうして「空中戦」になりやすい議論を、イメージを共有させることで創造的な議論へと昇華するのが、UXデザインチームの役目だ。

そのためにはイメージを絵に書き起こしたり、ホワイトボードを使ったり、ペーパープロトタイプを作ったりと、一見するとアナログで非効率そうなツールを利用することが有効なのだと村越氏は言う。

「テクノロジーやツールが進化し過ぎたことにより、効率化してはいけないことまで効率化されてしまっているのが現状のように思います。企画のプロセスは、その最たる例。そこは、デジタル、アナログのツールをうまく使い分けることで改善できるものだと思っています」

こうしたノウハウには正解はなく、村越氏自身も試行錯誤を繰り返しながら最適な方法を探している段階。それでも、HCDの学習で得た知見や、それを通じて知った人たちとの交流が多くのヒントをもたらしているのも事実のようだ。

組織内に「広く」、「深く」意識を浸透させる必要性

「UXデザインに対する関わり方は、個人の力だけでは限界がある」と村越氏は強調する。

「最近になって徐々に増えてはきているものの、HCDやUXデザインの専門家は、まだまだ人材のパイが少ない状況です。どうしても属人化しがちで、ノウハウは組織に蓄積されない。その1人が会社をやめれば、またゼロに戻ってしまいます」

同時に、組織内での認知という「広がり」がないと、仕事が正当に評価されないという問題もある。

「活動の影響力は、案件の数そのもので決まるのではなく、組織内での認知や、組織全体で課題意識を共有できているかどうかに左右されるものだと思っています。組織にいる人全員がUXを専門的に正しく理解している必要はありません。しかし、その人なりの課題意識があった時、その解決策として常にUXが選択肢に入っている必要はあるのです」

テストを効率化することでより「広く」、設計からコミットすることでより「深く」意識改革を促すのが、村越氏とUXデザインチームの取り組みのようだ。

その挑戦は、まだ始まったばかり。村越氏は「今後は半年スパンで目標を設定し直し、自分たちがかかわって世の中に出て行くモノを1本でも増やしていきたい」とチームとしての目標を語る。

同時に「個人的な思い」として掲げるのは、「描いて議論する」文化を実践し、浸透させていくということだ。

「現状は、企画の早い段階からUnityを使ってエンジニアがインタラクティブなモックアップを作るケースも多く見られます。もちろん、それが必要なケースもあると思います。でも、企画や仕様を詰めている段階においては、企画の全体像が詰まり切らないまま、エンジニアがひたすらモックアップを実装するような状況に陥ってしまい、企画側やデザイナーとエンジニアの間のコミュニケーションコストも大きくかかってしまい、効率的ではないことの方が多いように思います。

企画段階であれば、ペーパープロトタイピングや静止画をつなげて画面遷移を確認する方法でイメージをすり合わせ、ある程度全体像が詰まってきたら、エンジニアと連携してインタラクティブなモックアップで操作感も含めて設計を詰めて行く、というように段階を踏むことが必要に思います。フェーズと手法の最適化は、最高のUXを生み出すために必要なこととして、声を大にして主張したいところです」

取材・文・写真/鈴木陸夫(編集部)

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