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話題の「グロースハック」、エンジニアは結局何をやればいいのか、朝7時の渋谷で学んできた

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IT・Web業界で、今、ホットなバズワードを挙げるとしたら、必ず出てくるのが「グロースハック」だろう。

FacebookやDropboxなど、シリコンバレー発で世界的サービスに成長した企業が「グロースハッカー」なる役割の人を置いていたことが広く認知され始めてから、日本でも少なくない数のWeb・アプリサービスがグロースハックの手法を導入するようになった。

代表的なデータ分析フレームワークの「AARRRモデル」など、さまざまなノウハウがネットで喧伝されているが、サービスやプロダクトが成長していくには経営者からマーケター、BizDevなど「かかわるすべての人たち」の打ち手が重要になる。その中で、そもそもエンジニアは何をやり、どこまでを守備範囲とするべきなのか。

この疑問を解消すべく、起業家ファンドSkyland Venturesの主催で、『Growthengineer Camp』という勉強会が始まった。

すでに2回行われている同会は、早朝7:00~9:00に東京・渋谷のThe Startup DOJO(MOVIDA JAPAN運営)で開催。

《出社前に学べる早朝グローサソン(=グロースハッカー版ハッカソン)》

をテーマに、主にエンジニアに向けた情報発信を行っており、理論より実践を重視した内容になっている。

エンジニア向け早朝グローサソン『Growthengineer Camp』のFacebookページ

毎回、講師に注目のWebサービスやアプリ開発を手掛ける企業のエンジニアを招き、彼らの実践してきたグロースハック事例を共有。さらに、講演の最後には参加者同士でワークショップを行い、「自分ならどんな打ち手を採るか」を議論する場も設けている。

2月5日に開催された初回は、ニュースアプリ『NewsPicks』を提供するユーザベースの杉浦正明氏と、撮った写真をスライドショームービーにできるアプリとしてヒット中の『SlideStory』で知られるナナメウエCEO瀧嶋篤志氏が、それぞれ実践しているグロースハックのノウハウを披露。

続く2回目(2月26日開催)は、女性を中心に月間300万人が利用しているというファッションコーディネートアプリ『iQON』を運営するVASILYのCTO今村雅幸氏と、リリースから4カ月で世界累計100万DLを記録した美肌美白加工アプリ『CunPic』(コミュニティファクトリー運営)のグロースハックを手掛けたヤフー・アプリ開発室の卯西寛明氏が、具体的な打ち手を明かした。

このレポートでは、VASILY今村氏とヤフー卯西氏の話から、「エンジニアによるグロースハック」とは何なのかを紐解いていこう。

グロースさせる仕組みを「プロダクト内に組み込む」のが最大の仕事

PV5億、会員は71万人、コーデ投稿は多い日で1日3000程度にもおよぶという『iQON

結論から言うと、両社ともに重要視して行っているのは、

【1】データ収集
【2】開発
【3】検証
【4】改善

の仕組みづくり。

「仕組みづくり」と書いたのは、【1】~【4】の各フェーズを社内の専任部署と分業して行うとしても、そのためのツールづくり、基盤づくりはエンジニアの役目だからだ。

今村氏は、「VASILYの考えるグロースハックとは、数値やユーザーの声を分析し、ユーザーの数と質をグロースさせる仕組みをプロダクトの中に組み込んでしまうこと」と話す。

仕組みとして組み込むのは、エンジニアにしかできないことだろう。

VASILYはさらに、開発・運営チームとは別に「グロースチーム」を作り、各OSごとのアプリ開発者+インフラエンジニア+データマイニング担当それぞれが、【1】~【4】のすべてでリーンな開発を行えるよう、社内体制も整えているという。

「グロースハックには『これをやればOK』という定説がなく、VASILYの経験だと100個の施策を打っても効果があるのは5個あるかないか。成長のトリガーになる施策を探り当てるのは、宝探しと同じくらいの確率です。それゆえ、手数と折れない心が大事になります」(今村氏)

ヤフーの卯西氏も、「グロースハックは万能ではないし、グロースハックすることでサービスが優れたものになるわけでもない」と強調する。あくまでも「優れたサービスの成長を加速させるための手段」である以上、やはり開発チームの全員が【1】~【4】にかかわる必要があるのだ。

「『CunPic』は5人のチームで開発していますが、機能企画からUI/UXまで、すべて全員で決める体制を採っています。可能な限り、1週間に1回のペースでアップデートしていくようにしており、そのためには日々データを収集して判断材料を集めなければなりません」(卯西氏)

【1】のデータ収集は、どんなツールで、どの程度まで行うべきか

VASILY今村氏による、「なぜ計測が大事か?」を説明するスライド

『iQON』では、アプリ内のログは「すべて収集する」という徹底ぶりだ。

誰が、いつ、どのタイミングでタブやボタンを押したか、特定の条件で出るViewはどれを押すのか、ユーザーはどこまで画面をスクロールして見てくれて、どこで離脱するのかetc……。 数でいうと577種類のイベント(今村氏によると『iQON』のほぼ全画面だそう)でデータを収集しているという。

「特定の条件で届くプッシュ通知や、任意で送るプッシュ通知も、ユーザーがどういう状態でプッシュ起動したかを逐一調べます。そのデータを見ながら、タイミング、文言、すべてをチェックして、最も効果的なものを抽出するのです」(今村氏)

これだけ膨大なログを収集し続けると、何を重視して分析すればいいのか迷ってしまう気もするが、「そこはツールをうまく活用することで解消している」と今村氏。

具体的には、VASILYではスマホアプリ解析ツールの『Localytics』や自社開発のDLトラッキングツールを利用しており、一方の『CunPic』は『Flurry』などを使ってログ解析を行っている。

「『Localytics』はたくさんのログが取れる上、アプリページごとだったり、ユーザー属性別に細かくグルーピングできるので、数値の推移もそのグループごとに追っていれば分析できるようになっています。全イベントの生ログを(クラウドストレージの)Amazon S3に流してくれるのもオススメポイントです」(今村氏)

検証・改善では、「How」だけでなく「Why」の振り返りも大切

CunPic』はわずか4カ月で100万DLを突破(リリースより)。そのグロースハックについてはSlideShareにUPされている

こうして収集したログを基に、【2】開発、【3】検証、【4】改善のサイクルを回していくわけだが、エンジニアが陥りがちなのは「作ったら放置」のパターンだと卯西氏は指摘する。

「『CunPic』では、アイコンのA/Bテストなど、それぞれのパターンを1週間ごとにテストしてみることで、リリース当初のものから109%アップに成功しています。ほか、プッシュ通知の文言、時間などを分析して、『CunPic』ではある時間帯に語り掛け口調で出すのがベターだと突き止めました。こうして、一度作ったものをさらに良くするための取り組みが、SNSでの口コミを含めた評判を広める上で大切です」(卯西氏)

加えて、実装したものを検証するには、「何を目的に実装したのか」をチーム全員が記録しておき、すぐ共有できる体制づくりも大事になる。

チーム内、部門間で情報が断絶していると、【3】検証や【4】改善時にいちいち次の打ち手をゼロから考えなければならず、実行のスピードが遅れるからだ。

「VASILYでは、Confluenceに『なぜやったのか』、『どうやったのか』、『その結果』などの情報をすべて記入しておき、チーム全員がいつでも見れるようなフローを徹底しています。そうすることで、一つ一つの打ち手がなぜ当たり、なぜダメだったのかまで共有するのです」(今村氏)

このフローの徹底により、チームの意識も変わっていくと2人は話す。

「すべての打ち手は、作業になってしまうと意味がない。ユーザーのために何が必要かを考え続けることが大切」と異口同音に語る裏側には、データという事実をもとにユーザーを知り、行動心理まで推察しながら仮説検証を続ける仕組みが重要だという経験則が秘められている。

つまり、グロースハックのやり方は、対象ユーザーやサービスの特徴などによって、変わってしかるべきなのだ。

『Growthengineer Camp』は今後も定期的に開催予定とのこと。さまざまな事例を見聞きして、自社サービスに活かせるグロースハック法を探りたいという読者は、以下(『Growthengineer Camp』Facebookページ)で開催情報をチェックしてみては?

『Growthengineer Camp』Facebookページ

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)