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アプリ単機能化の流れに一石を投じる、『グノシープラットフォーム』のUX構想

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KDDIによる「Syn.」構想発表から1カ月。「新たなスマホポータル」をめぐる、もう一つの大きな動きがあった。11月11日に行われた、ニュースキュレーションアプリ『グノシー』による『Gunosy Platform(グノシープラットフォーム)』構想の発表がそれだ。

新コンセプト「Gunosy5,000万人都市構想」では、ユーザー数5000万人という目標を掲げるとともに、「スマホポータル」を従来のような単に情報が集まる場としてではなく、実生活の行動基点として再定義している。

「G Development」と名付けられた新たな提携モデルの下に、au、DeNA、リネット、グルーポンなど発表時点で11社14サービスが参画。『グノシー』上で、さまざまな情報接触・購買体験が可能になるという。

累計700万DL、提携媒体200以上と、ニュースキュレーションアプリとして着実に歩を進めてきた『グノシー』だが、このタイミングで「スマホポータル」、「情報キュレーションアプリ」へと姿を変えようとしている。

その背景にはどのような考えがあるのか。代表取締役・最高経営責任者の福島良典氏、取締役COO竹谷祐哉氏に話を聞いた。

ニュースアプリ市場の上限2000万人を超えるための戦略

―― ニュースキュレーションアプリとして始まった『グノシー』がプラットフォーム化を発表したのは驚きでした。このタイミングで大きく舵を切ったのは、なぜですか?

竹谷 法人化してからのこの2年間は、ニュースキュレーションアプリとしてユーザーさんに使ってもらい、そこに広告を入れることで収益化し、そこからプロモーション活動につなげて事業を回していくという流れを作ることができた期間でした。

同時に、ユーザー数は1000万人に届くところまで来ており、ニュース事業だけで2000万人程度の規模まで大きくなるイメージは、すでにできています。

2年前の時点で、いずれはニュース以外の情報も取り扱いたいという思想自体はありましたが、広告事業が軌道に乗り、1000万人という規模も見えてきた今が、そのタイミングだったということです。

―― 発表会でも2000万人という数字を出していらっしゃいましたが、どういった概算で算出しているのでしょう?

福島 ボトムアップで考えた場合の現実的な数字という意味でもそうですが、市場規模をロジカルに算出した結果でもあります。

ニュースポータルの最大手であるYahoo!のユーザーが約8000万人おり、公式発表によれば、PCとスマホの割合はほぼ半々です。つまり、国内のスマホニュースアプリ市場のアッパーは現時点でも4000万人くらいだと見ることができます。

その中で、FacebookやTwitterのユーザーが約2000万人。PCで高リテラシーとされていた、積極的に情報を取りに行く人たちがスマホに流れてきた結果、Facebookでさえこの数字ですから、ニュースだけで2000万人を超えるのは難しいと考えられます。

その上となると、有名ゲームアプリの5000万人。この5000万人という数字に到達するべく、より多くの方に魅力を感じていただくためのいろいろな顔を持とうというのが、今回の「5,000万人都市」というコンセプトです。

少なくともゲームだけでそれを実現できている会社が日本にあるわけですから、決して非現実的な目標だとは思っていません。

企業側から見たスマホ最大の課題=集客コストを解決する

利用頻度の少ないサービスとユーザーを『グノシー』上でマッチングさせることでつながることで、集客コストの問題を解決する

利用頻度の少ないサービスとユーザーを『グノシー』上でマッチングさせることでつながることで、集客コストの問題を解決するのが狙いだ

―― 先日の発表時点では14サービスとの提携ということでしたが、プラットフォーム化することで、ユーザーはどのような情報にアクセスできるようになるのでしょうか。

福島 「コンテンツ系」と「購買・予約系」の2軸で、それぞれパートナーとなっていただける企業を探していくつもりでいます。

「コンテンツ系」というのは、これまでの『グノシー』の拡張路線です。ニュースを1日中見る人はいませんが、スマホは一日中見るもの。そう考えると、ニュースだけでは提供するコンテンツとして十分でないことが分かります。ラジオやマンガなど、エンターテインメント系のコンテンツを増やすのは、そのためです。

そして今回大きく打ち出したのは、もう一つの「購買・予約系」で、例えばクリーニングやタクシーを外で呼び出す、といった使い方が想定できます。

『グノシー』を見るだけで、そういったさまざまなサービスにアクセスできるようにするということです。

―― 一方で、提携する企業側のメリットはどこにあるのでしょう?

福島 スマホの最大の課題は、集客コストの高さです。ここでいう集客コストとは、アプリのインストールコストとリテンションのコスト、この2つを指します。

サービスを提供したことがある人なら分かると思いますが、アプリのインストールコストは非常に高い。通常だと数百円、高いものだと1000円を超えることもあります。

PCの世界では、この問題が「ブラウザ×検索」で解決されていました。すべての端末には共通してブラウザがありますし、そこで検索することで、サービスに簡単にアクセスすることができた。

しかし、スマホにはそれがないので、集客することが非常に難しいんです。

例えば、クリーニングは毎日必要なわけではありませんよね? 利用するのは2週間に1度程度。しかしそれでは、アプリの存在を思い出してもらえないし、運よく検索してもらえたとしても、その先にはインストールというさらなるハードルがある。

『グノシー』のように毎日訪れてもらえるアプリはほとんどありません。利用頻度の少ないサービスは、『グノシー』上でつながることで、集客コストの問題を解決することができます。

具体的な仕組みとしては、一つは、そのサービスのチャンネルをフォローしたユーザーに対して送るプッシュ通知機能です。

『グノシー』上で、宅配クリーニングの『リネット』をフォローしたユーザーに対して、ちょうど2週間くらい経ったタイミングで「そろそろクリーニングはどうですか?」とプッシュ通知を送れば、ユーザーにサービスを思い出してもらうことができます。

ユーザーにそのサービスをフォローしてもらうというのは、アプリをインストールする行為とほとんど同義ですが、どちらがコストが低いかといえばもちろん前者です。

そしてもう一つは、チャット・インターフェースによる提案機能。これまで検索が担っていた「比較」の役割をより簡単にするというものです。

例えば、ゴールデンウイーク(GW)の旅行を計画する際に、「沖縄に行きたい」といった感じでハッキリと行き先を決めた上で情報にあたる人は、1割くらいしかいません。多くの人が抱いているのは、「GWに旅行に行くのに、どこかいい場所ないかなあ」というあいまいな欲求です。

その際、検索だと1万件以上ヒットしてしまいますが、人なりbotなりがチャットで答える形なら、3件に絞って提案することもできます。

多機能化がもたらす、「リテンション」というメリット

「今回のUI変更により、多くのタブが横に並ぶために遷移を促すのが難しかった従来の課題も解決した」と竹谷氏

「今回のUI変更により、多くのタブが横に並ぶために遷移を促すのが難しかった従来の課題も解決した」と竹谷氏

―― しかし、シンプルだったニュースキュレーションアプリとしての『グノシー』が、多機能化して複雑になることの弊害をどのように考えているのでしょうか?

福島 私としては、よく言われる「多機能になるとユーザーが離れる」というのは嘘だと思っています。

そう考える理由は、多機能であればあるほど、思い出される確率が高くなるからです。

マーケットインの段階では、機能はシンプルな方がいいのは事実。ですが、LINEにしろFacebookにしろ、多くの人によく利用されているサービスというのは、進化の過程でどれもみな多機能になっています。

あったらいいなと思うサービスはたくさんあるのに、なぜそれが伸びていかないのか。それは、見つけてもらえないから、あるいは思い出してもらえないからです。

単機能なものは、シンプルになりやすいがゆえに使いやすいというのは事実だと思います。けれども、サービスを見つけてもらい、継続的に思い出して使ってもらうということは、サービスをシンプルに保つことと同じくらい重要なことだと思います。

「使ってもらう」フェーズだけでなく、その前にある「どうやってアプリを知ってもらうか」、「どうやって思い出してもらうか」を経て、初めて「体験」になるのです。

竹谷 『Facebookメッセンジャー』が単機能だけ切り出してもなぜ成り立っているかといえば、Facebook本体と同程度か、それ以上に使われる頻度が高いから。それだけでも思い出されるという判断があって、単機能化されたのだと思います。

一方で、記事を閲覧することに特化した『Paper』は、UIだけはすごくきれいにできていたけれど、次第にまったく露出しなくなりました。おそらく、リテンションにつながらなかったという数字が出ていて、静かに閉じる方向に進んでいるのでしょう。

単機能化して切り出せば必ずうまくいくかというと、それは間違っている。その先にもう一つ、考えなければいけないことがあると思っています。

福島 アメリカは市場規模が日本の10倍あるので、切り出しても成り立ってしまうという単純な側面もあると思いますね。

―― では、『グノシー』上に「何でもある」ことの弊害はない、と?

福島 従来の形の「ポータル」にすることの一番の弊害は、あらゆる情報がトップページに表示されることにより、自分の見たくないものまで強制的に見せられることではないでしょうか。

であるなら、答えは非常に明確で、その人の興味に即した情報だけが見られるようにすればいいだけです。

『グノシー』では、ユーザーが能動的にフォローしたチャンネルだけが表示されますから、その点はクリアできていると思います。

竹谷 そこで大切になるのは、どういうユーザーシナリオでフォローを促すか、というところです。「旅行」が好きなユーザーであっても、マンガを読みふけっているタイミングで旅行会社のチャンネルを薦められたら、フォローしてくれない可能性が高いですから。

ユーザーの興味関心に合ったチャンネルを最適なタイミングで薦めるというところには、これまでのニュースキュレーションアプリとしてのデータの蓄積やアルゴリズムが非常に活きてきます。

相当数の記事を配信して、相当数のユーザーフィードバックを受けてきたからこそ、プラットフォーム化してより多くの情報を扱ったとしても、うまく交通整理することができるのです。

―― ポータル化することでチャンネルの数が増えると、UIの面でも、従来のように横に多くのタブが並ぶ形だと、遷移を促すのが難しくなってきますよね?

竹谷 そこは、これまでのログを見ていて課題と認識していたところです。FacebookもTwitterも、基本的にはずっと親指の縦の動きだけで閲覧できる。6、7回と横に動かさないとたどり着かないページには、ユーザーはほぼ到達してくれないんです。

今回のUI変更では、親指の半径領域内にチャンネルボタンを常駐させ、そのボタンを押せばフォローしているチャンネルの一覧ページが表示される仕様にしました。ご指摘の問題も、この変更によって解決できると考えています。

Gunosyは一方通行モデル。相互送客の『Syn.』とは競合しない

左の画像内、右下にあるアイコン(写真の上にあるアイコン)が、各チャンネルへの入り口となるボタン。クリックすると右の画像のようなチャンネル一覧に行く導線だ

―― 今後、パートナー企業はどういった方針で増やしていくのですか?

竹谷 公式チャンネルと『G Development』の2軸が考えられると思っています。

一つは、従来通りの公式チャンネルを、オウンドメディアを持っていてユーザーを囲い込みたいニーズのある企業などに使ってもらう。これはRSSを提供してもらってフォローを促すシンプルな形ですから、一つのメニューパッケージで提供します。

一方で、新たに発表した『G Development』は、仕様を固め切らずに、APIのつなぎ方やプッシュを出すタイミングなども、各パートナー企業と話し合って逐次決めています。

「スマホポータル」は、まだどれが最適解かが見えていない世界です。なおかつ、Gunosyの考え方はカテゴリーアライアンスではないので、同業種でも制限なくさまざまな可能性のある企業と付き合っていければと考えています。

例えば、「旅行」のカテゴリーの中に、複数の旅行会社のチャンネルがあるというのもOKです。ひと口に旅行サービスと言っても、各社サービスの強みは違いますし、ユーザーのニーズにもいろいろあります。

ユーザーが1000万人いるのに、各カテゴリー1社ずつしかチャンネルがないようでは、需要に対して供給が不足しているといえるでしょう。チャンネルは多ければ多いほど、Gunosyが追求してきた、うまくマッチングさせることの価値も高まってくると思っています。

―― 最後に、「スマホポータル」を目指した取り組みとしてはKDDIが先月発表した『Syn.』がありますが、両者の関係をどのようにお考えですか? 競合はしないのでしょうか。

「同じスマホポータルでも「Syn.」とは競合しない」と両氏。レイヤーの違う両者は補完的な関係になることも可能という

「同じスマホポータルでも『Syn.』とは競合しない」と両氏。レイヤーの違う両者は補完的な関係になることも可能という

福島 競合はしないものと考えています。『Syn.』は『グノシー』よりも一つ上のレイヤーにあるからです。

アプリ間をどう回遊させるか、アプリそのものをユーザーにどう見つけてもらうかを追求しているのが『Syn.』。対して、僕らが取り組んでいるのは、アプリを開き、情報に触れてからの行動をどう深くしていくかです。

竹谷 僕らが目指すのは「中心のあるポータル」なので、『グノシー』は一方通行でパートナー企業に送客する役割を担います。相互送客を狙った『Syn.』とは、そこが明確に違う。補完的な存在として、十分共存できると考えています。

―― なるほど。今日はありがとうございました。

取材/伊藤健吾(編集部) 文/鈴木陸夫(編集部) 撮影/竹井俊晴