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「BtoBサービスも使い勝手が命」鮮魚流通の新たなUXづくりに乗り出す八面六臂【特集:2B Hack】

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BtoBビジネス分野におけるIT革新の一例として、今、マスコミからも大きく注目されているベンチャーがある。“鮮魚流通のAmazon”を目指す八面六臂だ。

昨年10月に弊誌でも取り上げたとおり、同社はアプリ&プラットフォームの組み合わせで鮮魚流通の需給バランスを最適化するビジネスモデルを確立している。

ITで一次産業を変えるには何が必要か? 「鮮魚流通のAmazon」八面六臂の戦略

食材を提供する漁師や漁業市場と、飲食店との間に存在する中間業者を排するのではなく、発注業務にかかわる人的・物理的な中間コストの削減に徹することで、順調に顧客を獲得してきたのだ。

同社が現在のサービスを開始したのは2011年4月。それからわずか3年で、取引店舗数は300店超を達成(2013年12月)。今年4月末の時点では600店超と、その勢いは加速している。

スマートデバイスを駆使した鮮魚流通ビジネスの確立という初期目標を達成した今、同社では中長期の事業計画を策定。独自アプリを通した情報提供を拡充させて“メディア化”を図るとともに、取り扱う品目を水産品から農産物など他の食材へも広げ、最終的には飲食店の「ヒト・モノ・カネ」全体の管理をプロデュースするビジネスモデルの確立へ動いている。

新規飲食店開拓の基盤づくりの一環として、今年5月にはクレジットカード大手のジェーシービー(JCB)との提携を発表。同社および同社子会社の営業担当とも連携してクレジット加盟店に営業し、さらに同加盟店向けの専用アプリも共同開発。専用アプリでは、発注~決済処置の手間を省くべく、JCBの企業間決済サービスが利用できるという。

組織・人員面の強化にも積極的だ。今年に入り、靴とファッションのECサイト『ロコンド』の元CTOで、同社のシステム構築を手掛けた齋藤健一氏をCTOとして、デザインファーム『NOSIGNER』の太刀川英輔氏を事業のUXデザインを手掛けるアドバイザーとしてそれぞれ招いた。

2人のスペシャリストのジョインで、使い勝手のよさの実現とUX向上を目指すという同社の新機軸について紹介しよう。

アプリを「メディア」に進化させるべく、独自レコメンドエンジンも開発

八面六臂株式会社のCTOに就任した齋藤健一氏(左)と、代表取締役の松田雅也氏(右)

UXの見直しに力を入れる理由について、代表取締役の松田雅也氏はこう話す。

「これまで、八面六臂は顧客である飲食店の調理師さんや発注担当者のニーズを最優先に、アプリ開発やオペレーション体制の整備を進めてきました。それがほぼ一段落してきたので、さらにきめ細かなニーズに応えていくことで、スケールアウトしながらもサービスラインアップの拡充を目指したいと考えました」

八面六臂のアプリは、発注時の入力作業でキータッチ入力以外に「手書き入力」も可能にするなど、アナログな世界で生きてきたユーザーでも使いやすいUIになっていた。

こういった施策が奏功して取引店舗数を増やしてきた次のフェーズとして、現在のアプリを「ソーシャルメディア化」するのを検討しているそうだ。

「魚は季節や地域、天候によっても獲れる種類や大きさが違います。つまり、産地からの供給ニーズがあって、顧客である飲食店にはメニューに沿った需要ニーズがあります。我々はその両方のデータをかなり蓄積してきましたので、需要と供給をさらに密接にマッチさせるようなコンテンツの提供を考えています」(松田氏)

具体的には、調理師には食材としての魚だけでなくメニューやレシピ、売れ筋の種類など、そのまま店舗経営に役立つ情報をレコメンドして提供。受発注のためのアプリから、日々アクセスしたくなるようなメディアへとアップグレードしていく計画だ。

合わせて、このレコメンドの精度を高めるために、独自のレコメンドエンジン『ハチロクエンジン(仮称)』の開発にも着手していく。その陣頭指揮を執るのが齋藤氏だ。

「入社前に話を聞いて、顧客である調理師さんと日々コミュニケーションを取っている営業担当者と、その内容を日々蓄えているオペレーション担当者とで、かなり活用できそうなデータが蓄積されていることが分かりました。それに産地側から上がってくる旬の魚に関する情報もあるので、それらをうまく整理・統合して調理師さんにとって役立つヒントやアイデアをうまく発信していきたいですね」(齋藤氏)

顧客が毎日活用したくなる便利さや使いやすさを具現化するには、文字通り「メディア」として日々見たくなるアプリに刷新するのが肝要だ。

「『ロコンド』はファッションのサイトだったので、UI/UXには力を入れていました。八面六臂の場合は扱うモノも顧客も違いますが、満足度の高いシステムを作るという意味では同じだと考えています」(齋藤氏)

サービスの黎明期から「ブランドづくり」を意識する理由

松田氏は過去のインタビューで「Appleのジョナサン・アイブみたいな人材がほしい」と語っていた。その真意は?

冒頭でも軽く触れたように、同社が推進する中長期計画には、取扱品目を鮮魚以外の食材にも広げつつ、顧客である飲食店へ向けての人材紹介や派遣、さらには資金調達のサポートをするといったプロデュース業への進出も盛り込まれている。

このため、今取り組んでいる受発注管理システムの拡充は、最初から“最終形”を考慮した設計・開発が望まれる。

「今後の開発ではRuby on Railsを取り入れていこうと思っています。開発を効率化するのが狙いですが、合わせて採用面で優秀なRubyエンジニアにPRするのも目的です。開発を効率化するためには、例えばGitHubを利用した開発フローを導入するなど、仕組みを整備することが大切です。加えて、あまり負担がかからずに情報共有できる仕組みを作るなど、エンジニアが働きやすく高い生産性を発揮できるような環境づくりも重要だと考えています」(齋藤氏)

ユーザー向けのアプリ開発から、受発注を管理するシステムの強化まで、すべてにおける使い勝手を高めていく――。そこに同社らしさをどう反映させていくかが、一番の課題だという。

「これまでの取り組みで社名とビジネスモデルがかなり浸透してきたので、このタイミングで積極的なブランディングに取り組みたい」と、松田氏は明言する。

ブランド力の確立は主にBtoCで重視される企業戦略の1つだが、松田氏はBtoBビジネスだからこそ戦略的なブランドマネジメントが必要と説く。

「顧客の満足度を高めることによって信用され、信頼される。それを『八面六臂』という社名とリンクさせて、“当社=飲食業界のトータルプロデュース会社”というイメージをできるだけ早く確立したいんです。企業イメージの普及・浸透には時間がかかりますから、今この段階から取り組むべきだと思っています」(松田氏)

明快な事業計画の下、ITを駆使して一次産業の流通革新に取り組む八面六臂 。 その社名とビジネスモデルは今、圧倒的なスピードでマーケットの隅々へと浸透しつつある。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/ 小林 正

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