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[連載:Hackers] Retty・長束鉄也氏「技術の素人でも、誰よりもサービス視点を持って成長し続けることで開発をリードできる」

公開

 
隆盛を極めるスタートアップベンチャーの現場において、最も渇望されているのが組織のけん引役となるようなリーダーエンジニアの存在だ。必要なスキルセットはスタートしたばかりのスタートアップにおいて、技術、経営、採用など非常に広範に渡る。本連載では、創業期のスタートアップを支えるエンジニアへの取材を通して、彼らの持つスキルセットをインキュベーター・木下慶彦氏の視点から明らかにしていく。
インタビュアー

インキュベーター
木下慶彦

1985年生まれ、2009年早稲田大学理工学部卒。大手証券会社系のベンチャーキャピタルを経て、現在インターネット系のシード・アーリー企業様への投資・インキュベーションに特化したベンチャーキャピタル インキュベイトファンドにてアソシエイト。創業支援型インキュベーションプログラム『Incubate Camp』のプロジェクトリーダーも務める。日本発のテクノロジーやカルチャーをグローバルに発信する企業、プロジェクトを支援するインキュベーター。

記念すべき第一回目に登場するのは、ソーシャルグルメサービス『Retty』の取締役・長束鉄也(なつかてつや)氏(@natsukate)だ。2010年11月法人設立、2011年6月のサービスリリース後、同年8月にサイバーエージェントなどから2200万円の資金調達を実施し、現在は事業拡大の真っ只中だ。

長束氏は、創業と同時にエンジニアへ転向し、現在もWebサービス開発をしながら2名のエンジニアを取りまとめる役割を担っている。エンジニア歴1年に満たない彼が、開発チームのリーダーとしてスゴ腕エンジニアたちを率いることができるのは、技術力だけではないスキルセットを持っていたからだった。

僕らは本気だった~Rettyの創業とサービスリリースまで~

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代表取締役の武田氏(写真:右手前)と取締役の長束氏(写真:左奥)

『Retty』のアイデアが生まれたのは、代表取締役である武田和也氏(@kazuya_takeda)が前職である投資・広告代理店ngi groupを退職後、1年間渡米していた時期にさかのぼる。

彼は米国でFacebookに代表されるソーシャルメディアが爆発的に拡大していく現状を見てきたことにより、今後インターネット上の発信者が増加していくことが大きな変化になる感じていた。

ネット×ローカルビジネスをつなぐ消費者の発信プラットフォームを謳う『Retty』の構想が生まれたのは、この時だった。「食」という分野を選んだのは、大きな市場で、生活においてなくてはならないものだと感じたからである。

ビジネスモデルが決まり、創業を決意した武田氏は日本に帰国。その際すぐに連絡を取ったのが長束氏だ。武田氏と長束氏は前職時代に先輩後輩の間柄だった。当時から、互いに起業したいと考えていたこともあり、武田氏は彼を口説いて法人を設立、『Retty』のリリースを進めていくこととなる。

「自分が社長をやりたいと思っていたが、武田は自分にない『周りを巻き込む力』を持っていると感じた」と長束氏が語れば、武田氏は「前職で一緒に仕事していたこともあって、彼の仕事ぶりをよく知っていたので一緒に働くイメージを具体的に持てたのが大きい」と語る。

2人で創業した当初は、武田氏が企画・採用・デザインを、長束氏はエンジニアとしてWebサービス開発を担当していた。しかし、初心者からスタートした長束氏だけがエンジニアリング担当では開発スピードが上がらないことから、武田氏がプログラミングのトレーナーを連れてきたそうだ。

また、その後も思いを発信し続けることで、ボランティアで支援してくれるエンジニアやデザイナーのサポートメンバーが集まり、2011年6月のサービスリリースまでこぎつけた。

「僕らは本気だった。だから人が集まった」と武田氏は語る。サービスのリリースから今に至るまでのストーリーは、その武田氏のブログにも詳しい。
(参考:Retty代表ブログ「Retty立上げの経緯。2011年を振り返って」)

長束氏が語る、「スタートアップ技術者 3つのスキルセット」

サービス開始から半年以上が経った今も、フルタイムの開発メンバーは長束氏を含めエンジニア3名のみ。インフラ、Web版・iPhone版・Android版をそれぞれ分担し、加えてデザイナー1名に社長である武田氏が主に企画や採用面を見るという構成だ。

前述のように、武田氏も長束氏も、それまでWebサービスの開発経験がなかった。だからこそ、「超ユーザー視点」がスローガンでもある。そんなRettyの開発チームを率いる長束氏が重視している3つのポイントはこれだ。

「エンジニア歴1年のわたしは、純粋な技術スキルに関してはほかのメンバーにはかないません。その差を埋めるためにも、有名なWeb系企業のエンジニアブログや各技術コミュニティのブログなどで最新技術の導入事例や動向をベンチマークし、どの技術を使えば『Retty』の性能が向上するかを常に考えるようにしています。チームを率いるためにはいろいろなことを知っていないといけませんし、知らないことについて率先して学ぶ姿勢は、ほかのメンバーも認めてくれているのではないでしょうか」

「わたしは基本的に、自分がほかのメンバーより優れているとか、上に立っているという感覚はまったくありません。ただ、軸をぶらさずにいようという気持ちは強いです。『Retty』が目指すべきものは何なのか、ほかのサービスとの違いはどこにあるのかなどを、昨年の夏に行った合宿で共有したり、ビジョンを示すことで、チームの軸となって常に一貫した方向性を指し示していける存在でありたいですね」

「『Retty』は複雑なテクノロジーを扱うサービスではない分、技術バックグラウンドよりも一緒に働く感覚が大切。だからこそ、技術分野においても『自分しか知らないこと』を減らすことを心掛けています。週に1回勉強会を開き、バックエンド・フロントエンドを問わず、それぞれの担当分野を共有し、みんなが一通りのことを理解できる体制を作っています」

「誰よりも『Retty』を使っている自信がある」(長束氏)

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「行きたい店は700軒くらいある」と話す武田氏。Rettyを始めたことによってグルメ好きが加速しているようだ

「僕にはプログラミングの師匠以外に、餃子の師匠もいるんです」

突然そう話し出した長束氏をはじめ、『Retty』はメンバー全員がグルメ好きであり、『Retty』のヘビーユーザーでもあるという。

武田氏は焼肉担当、長束氏は餃子担当など、それぞれが得意な”食”分野を持っており、長束氏にいたっては、名刺に「餃子担当」と記載するほどだ。

これまで3回ほど『Retty』ユーザーのコミュニティ活動である「RettyNight」を行うなど、メンバーが日々ユーザーとリアルにコミュニケーションを取ることで、そこで得たフィードバックを元にサービスの改善を進めている。「今後メンバーを増員していく際にも、『Retty愛』は重要になりそう」と、長束氏はサービスに対する愛情を示している。

「『Retty』はユーザー同士のお店リストを共有するので、友だちがいない状態で広がっても楽しくはありません。当面は一気にユーザーを増やすというよりも、徐々に会員数を広げていきたい」と語った。

サービス立ち上げ以降、大きなシステム障害もほとんどなく、非常に安定した運用・機能改善を繰り返している『Retty』。今年は海外展開も視野に入れており、さらなる飛躍のためには、長束氏の柔軟かつ筋の通ったリーダーシップが大きなカギとなるだろう。

【インキュベーターの視点】

「創業のその日からエンジニアに転向し、エンジニアを名乗っている」。この言葉が印象的だった。ITインフラが整うことにより、年々起業のハードルは下がっている。ここ1~2年で学生起業家も増えている現実もある。しかし、どこの会社も「腕のあるエンジニアが採用できない」という苦労話を聞く。そのような環境だからこそ、長束氏のように、起業と同時にエンジニアとしてスキルを伸ばしていきながらサービスを大きくしていくというキャリアが、もっとあっても良いのではないだろうか。

『Retty』の場合、創業者の武田氏、長束氏ともに営業出身であるためか、ユーザー(お客さま)からの意見を積極的に取り入れようとするマインドの強さはプロダクトに表れているように思う。『Retty』の今年の躍進を大きく期待している。

撮影/小禄卓也(編集部)