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[連載:Hackers] 『FindJPN』林寛之氏「すべての技術領域にコミットする半面、でしゃばらないバランス感覚が重要」

公開

 
隆盛を極めるスタートアップベンチャーの現場において、最も渇望されているのが組織のけん引役となるようなリーダーエンジニアの存在だ。必要なスキルセットはスタートしたばかりのスタートアップにおいて、技術、経営、採用など非常に広範に渡る。本連載では、創業期のベンチャーを支えるエンジニアへの取材を通して、彼らの持つスキルセットをインキュベーター・木下慶彦氏の視点から明らかにしていく。
インタビュアー

インキュベーター
木下慶彦

1985年生まれ、2009年早稲田大学理工学部卒。大手証券会社系のベンチャーキャピタルを経て、現在インターネット系のシード・アーリー企業様への投資・インキュベーションに特化したベンチャーキャピタル インキュベイトファンドにてアソシエイト。創業支援型インキュベーションプログラム『Incubate Camp』のプロジェクトリーダーも務める。日本発のテクノロジーやカルチャーをグローバルに発信する企業、プロジェクトを支援するインキュベーター。

連載第2回目である今回は、今までにない外国人旅行者向けアクティビティ予約サービス『FindJPN』を運営する、エンターテイメント・キックの代表取締役の高橋理志氏と取締役CTOの林寛之氏にインタビューした。同社は2011年1月に法人設立。2011年8月のサービスリリース後、2012年3月に資金調達を実施するなど、これからが楽しみな会社だ。

ツアーにない地元体験の魅力~パックパッカーが創業のキッカケに

アイドルのライブを見に行ったり、空手を習ったり、日本のリアルなカルチャーを味わえるのが、『FindJPN』の魅力だ

アイドルのライブを見に行ったり、空手を習ったり、日本のリアルなカルチャーを味わえるのが、『FindJPN』の魅力だ

FindJPN』のサイトを訪れたユーザーは、茶道や書道といった伝統文化の教室から、原宿でのギャル風のメイク体験などの今風なポップカルチャー、そして一般家庭での夕食まで、今までのパッケージ化されたツアー旅行では触れることのできなかった体験をここで予約することができる。

これは、学生時代に30か国以上を旅し、タイではマッサージ教室に通い、インドでも道に迷った末にヨガ教室に通い始めるなど、ガイドブックには載らない世界中の場所を回ってきた高橋氏の経験がもとになっている。こうした旅先での体験を、日本において横断的に提供しているのが当サービスの一番の魅力だ。

『FindJPN』の発想を思いついたのは、高橋氏がコンサルティングファーム勤務の後に、前職でベンチャー企業にて働いていた2010年ごろ。世界中の貸し部屋を検索できるサービス『Airbnb』を利用して自身の空き部屋に泊めていた旅行者の要望に応えられるようなものを提供したいと思い、サービスとして固まっていくこととなる。

 

自身のバックパッカーとしての経験から、旅行ガイドに載っていない現地の人たちとの出会いや、その土地ならではの体験が、外国人旅行者にとって価値あるものと考えたのだ。

こうして『FindJPN』のビジネスアイデアを得た高橋氏は、休日を用いて事業として成立するかどうかのテストマーケティングを開始。その後に事業計画を詰め、確信を得て開発を進める。

しかし、エンジニア経験のない彼の限界はすぐに訪れた。知り合いのつながりでエンジニアをかき集めるも、フルタイムでコミットできるエンジニアが不在だったため、サービス開発の進捗は思うように進まなかった。2011年2月にはエンジニア数名を集めて合宿型で開発を進めたものの、開発は難航することに。

さらに、2011年3月11日に発生した東日本大震災の影響で、日本への観光客も激減する。サービスリリースは遠のいたかのように思えた。

あきらめムードが漂うエンジニアメンバーとは対照的に、粘り強くリリースを模索した高橋氏を見て、当時は休日や空き時間を利用して開発にかかわっていたエンジニアの1人だった林氏は、『FindJPN』へのコミットを決意する。

経済的不安も、『FindJPN』の魅力が拭い去る

林氏は当時、外資系証券会社のゴールドマン・サックス証券で金融システムコンサルタントとしてサービスの設計から開発、管理、運営までを担っていた。そのころから、週末を利用して数件のWebサービス作成を手伝うなど、Webサービスの開発には興味を持っていたという。

「週末での活動を通して、起業家にはたくさんのアイデアがあるけど実際に形にできず、サービスをリリースできないという現実も見てきました。このような現実に対して自分が何かしたいと思っていた矢先に、友人を介して高橋と出会ったんです」(林氏)

その後数カ月間、開発にかかわってきた中で、林氏は前職を辞めてエンターテイメント・キックのCTOに就任することになる。

林氏のジョインは「お互い想定外だった」と、当時のことを振り返り、苦笑いを浮かべる二人

林氏のジョインは「お互い想定外だった」と、当時のことを振り返り、苦笑いを浮かべる二人

「林君が入るとは思いもしませんでした。『僕が入るのはアリなの?』と言われた時は、本当にびっくりした」と高橋氏が話すように、林氏のジョインは予想外のものだった。

「僕自身、まさかジョインするとは思ってもいませんでしたから(笑)。外資の証券会社から先の分からないITベンチャーに行くには、経済的にも不安が強かったですしね。でも、先に話したようにWebサービスを自分で作ること自体に興味がありましたし、『FindJPN』の構想を知り合いに話すと本当に絶賛されて、すごく応援してくれたんです。自分がこういうサービスにかかわった以上、完成とリリースまでは絶対に達成したいと思いました」(林氏)

林氏が語る、「スタートアップ技術者 3つのスキルセット」

「わたしがジョインする以前のことを考えても、『フルタイムでコミットするエンジニアの不在』と『責任の所在が不明確』という理由で、自分自身もなかなか力を注げなかった経験があります。アイデアを持っている人は多いけれど、実際にやり切る人は少ない。そんな中では、『自分がやらなきゃ誰がやる』と考えてやり切ることが重要だと思います」

「前職ではWebサービスの開発をメインにしていたわけではないため、片っ端から技術系の勉強会に参加し、分野を問わずとにかく貪欲に幅広い技術を学んでいました。自分にとってWeb技術の多くがブラックボックスだったこともあって、使える技術・使えない技術、ではなく、それ以前に『とりあえずその技術自体を知る』必要がありましたからね。

また、自分以外の開発メンバーがまだフルコミットできる状況ではないため、わたしが各分野の知識をある程度理解し、それぞれのメンバーに開発を依頼するなどしてバランスを保つためにも、ゼネラリスト的なスキルが求められると感じています」

「『FindJPN』開発チームは、かかわるパートタイムのエンジニアメンバー以外にも、これまで参加してきた勉強会で知り合った多くのエンジニア仲間がいます。そうした中には、大企業で専門的な技術を担う人も少なくありません。

ですから、スタートアップのCTOにはこうした外部のスペシャリストを巻き込む力が必要だと思っています。ネット上で調べれば多くのツールが出てきますが、大きな構想においては対面で相談できる経験者に聞いた方が良い。この人にはこれを聞こう、と思えるネットワークや仕組みが本当に大事。

例えば、本業の開発で社内の古いシステムであったり、いろいろな制約下で開発を行っている場合、最新の技術を試せないことが多いそうです。その分、スタートアップでの開発では、そうした制約がないだけでなく、常に最新の技術を応用していける。そんな環境が、経験豊富な技術者の方々にとっても魅力的なようで、お互いのニーズが合えば喜んで手伝ってくださるんです」

Find JPNの今後、そしてCTOとしての今後の展望

2011年8月のリリースから約半年の『FindJPN』だが、サイト上だけでなく、FacebookやTwitter上でも確実にユーザーの評判は広がりを見せている。こうした熱い反響を背に、今は夏の観光シーズンに向けて、さらなる体制の強化やコンテンツの拡大に力を入れている。

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まだ公にはできないが、新しい仕掛けを続々とリリースする予定だという

「国内外の旅行会社から複数の引き合いをいただいており、認知されてきた実感があります。外部との連携のためにも作りたい機能はたくさんありますが、まだリソース的に作れないので、一緒に作れる仲間、開発の体制を整えたい。

アジャイル開発を行うには、よりしっかりしたチームが不可欠なので、フルタイムメンバー(デザイナー、プログラマー)も絶賛募集中です」

そう林氏は語り、機能改善と開発体制の向上に余念がない。

「観光地に行くだけの旅行から、体験を探し、現地の人と共に経験することを当たり前にする。世界中の旅行のスタンダードを自分たちの手で作り変えたいですね」(高橋氏)

『FindJPN』の利用者の声には、「日本の滞在で一番の体験だった」という実際のユーザーの声もあり、旅行者の中には一人でたくさんのプログラムへ申し込みを行うコアユーザーもいる。一般家庭での夕食に、外国からの旅行者が参加するような時代は、すぐそこかもしれない。

【インキュベーターの視点】

「外資系に勤めていた時、社内の外国人に日本ならでの文化やアクティビティについて聞かれても説明できずにいた。だからこそ『FindJPN』は面白い」と、林氏が語ったのは印象的だった。

世界にサービスをリリースしようとするスタートアップも多い中、日本に外国人を呼びこもうとしているサービスである点は興味深い。また、林氏は数年前ベンチャーのCTOをやることは想定していなかったという。少しでもサービスの立ち上げに関心がある方は、本業の傍らでもベンチャーの現場にかかわってみると、視点も変わるのかもしれない。

撮影/小禄卓也(編集部)