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明治大学新キャンパス発・アウトプット志向なクリエイターが、日本のモノづくり構造を変える【五十嵐悠紀×宮下芳明×渡邊恵太①】

公開

 

日本の家電メーカーの凋落や、個人でどこでもモノづくりができる「メイカームーブメント」に多くの注目が集まるなど、モノづくりを取り巻く環境は今、劇的に変わろうとしている。

そして、そんな激変のモノづくり時代が到来することを予測していたかのように、2013年の春に、明治大学が東京・中野に新キャンパスを作り、総合数理学部を開設するというニュースが流れた。

東京都心に2013年4月より新たに開校する明治大学中野キャンパス

注目は、その中に設けられる先端メディアサイエンス学科だ。「まだ誰も経験したことのないモノ・コトを世の中へ」と書かれたビジョンには、スティーブ・ジョブズのような思想が見え隠れしているようにも思われる。そして、教員陣にはメディア研究や拡張現実感、プロダクトデザイン、インタラクションデザインなど……、近年のモノづくりに重要だとされている分野の第一線で活躍する研究者がずらりと並ぶ。

そんな明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科に、当サイトでもおなじみの五十嵐悠紀さんが迎えられることになった。そこで、同学科の中心人物である明治大学准教授・宮下芳明氏と、計らなくて済むスプーン『smoon』をはじめ斬新なプロダクトデザインで知られ、五十嵐さんと同様に新学科の教員を務める渡邊恵太氏と、五十嵐さんによる座談会を行った。

「未来を作り上げることそのものが学問」という宮下氏を筆頭に、従来の大学の教育構造を大きく変えようというチャレンジが見られる中野キャンパスはいかにして作られたのか。気鋭の若手研究者3人の会話から、イノベーションが起こり得る「空間」の作り方が見えてきた。

プロフィール

明治大学理工学部情報科学科 准教授
宮下芳明氏

音楽、映像、CG、ゲーム、メディアアートといったデジタルコンテンツに関する領域をはじめ、既存の枠組みにとらわれない研究を展開。ユーザー参加型研究のための学会、ニコニコ学会βの発起人の一人。今回、明治大学総合数理学部の先端メディアサイエンス学科立ち上げに際し、中心的な役割を果たした

プロフィール

筑波大学システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)
五十嵐 悠紀さん

2004年度下期、2005年度下期とIPA未踏ソフトに採択された、『天才プログラマー/スーパークリエータ』。筑波大学システム情報工学研究科コンピュータサイエンス専攻非数値処理アルゴリズム研究室(NPAL)に在籍し、CG/UIの研究・開発に従事する

プロフィール

独立行政法人科学技術振興機構 五十嵐デザインインターフェースプロジェクト
渡邊恵太氏

ロボット扇風機『AirSketcher』でグッドデザイン賞を、待ち時間に合った動画コンテンツを流すオーブン『CastOven』でMashup Awards 7の優秀賞を獲得するなど、多数の受賞歴あり。ネットやロボットと融合した次世代家電の創出で注目を集めている。東京芸術大学の非常任講師も兼任

「ユーザー体験元年」「CGM元年」2007年がすべての始まりだった

五十嵐 わたしたち3人は、「ユーザーインターフェース」や「ヒューマンコンピュータインタラクション」といった分野の学会で、よく顔を合わせている間柄です。それが来年の4月から、明治大学の先端メディアサイエンス学科で一緒に教壇に立つようになったんですよね。ということで、まずは新学科の旗振り役を果たしている宮下さんに、設立の背景を伺いましょうか。

研究分野が近いということもあり、3人は学会でもよく顔を合わせるという

宮下 それこそ、時代の変化に合わせた改革の必要性は、着任前の「模擬授業」のときから強く訴えていました。当時発売直前だったWiiのプロモーション映像には、ゲーム機本体もゲーム画面も現れず、テレビの前で笑顔で遊んでいるユーザーだけが映し出されている。情報科学やIT産業が扱ってきたハードウエア・ソフトウエアはもう売り物ではなくなり、『ユーザー体験』そのものが売られる時代が訪れつつあるのかもしれない。そのために教育の改革もしなくてはならない、と。

ちょっと偉そうですかね……(笑)。

五十嵐 なるほど。

宮下 そして明治大学に採用されたのが、2007年のことでした。その後、情報科学科のカリキュラム改革や、新大学院の立ち上げにも参加しました。この時の理念を、設置大綱案のベースにしています。

渡邊 最初は任天堂のゲーム機『Wii』がきっかけだったんですね。

宮下 そうなんです。振り返ると、2006~2007年っていうのはすごい時期でしたよね。ニコニコ動画(2006年12月にサービス開始)、iPhone(2007年1月に発表、6月発売)、初音ミク(2007年8月リリース)が始まったのが、まさにこの時期。誰もがモノづくりに参加できるプラットフォームが、いくつも誕生した時期であることがまず指摘できます。CGM元年と言ってもいいんじゃないでしょうか。

渡邊 考えてみれば、5年以上前にはスマートフォンすらなかったんですよね。

宮下 ガラケーが「カメラが何百万画素」などと勝負していたような時代に、スティーブ・ジョブズがiPhoneを出してすべてを変えてしまいましたよね。スペックではガラケーより劣っていたけれど、iPhoneはユーザーに新しい体験を提供して驚かせた。あの年は、ユーザーエクスペリエンス元年とも呼べるんじゃないですか。

五十嵐 新しい学科を作る時に、大学から要望されたことはあったんですか?

宮下 設置大綱の段階では、受験生からの人気などは一切考えなくていいと言ってもらいました。とにかく、「世の中に必要とされているものは何か。そして、そのために大学として取り組むべきものは何か」という理念だけを、しっかり考え抜くように言われたんです。これは、本当にありがたかったですね。

渡邊 それからわずか5年で、ここまでこぎ着けたんですね。ただ、この間に世の中は大きく変わったと感じます。例えば、当時は世の中に存在しなかったスマートフォンが、今では生活に深く入り込んでますからね。

宮下 あと30年もすれば、世の中はもっと変わるでしょうね。例えばコンピュータは、もっと“無色透明”になってるんじゃないでしょうか。

五十嵐 というのは?

宮下 言葉などのように、使われて当たり前の存在に変わるはずだと思うんです。「コンピューティング」などの言葉が学科名に入っていないのは、そういう未来を見据えているんですよ。
(次ページへ続く)