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「少年のころの熱狂」が発想の源~福井の溶接工場が鉄のテーマパーク『アイアンプラネット』を作るワケ

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福井県坂井市春江町。最寄り駅である西長田駅から農道を通り、のどかな田園風景を10分ほど歩くとその会社はある。

工場の入り口につながれた柴犬。駐車場に停められた軽トラック。奥からはサンダーで金属を切断している音が聞こえてくる。よくある町工場の風景だ。

ただ、一つ、この会社が「よくある町工場」と大きく違うところは、クラウドファンディングを使って鉄のテーマパークを作ろうと乗り出したところにある。

その会社の名は『長田(おさだ)工業所』。加工機械のフレームや足場、手すりなどの製造を得意とする、社員数12名の溶接工場だ。

『アイアンプラネット』プロジェクトは資金目標を達成したが12/17までは支援することができる

『アイアンプラネット』プロジェクトは資金目標を達成したが12/17までは支援することができる

長田工業所がクラウドファンディングサイト『zenmono』で公開した「鉄のテーマパーク『アイアンプラネット』プロジェクト」は2014年11月1日、期日の約3分の2を残す、23日間という短い期間で資金目標を達成した。

しかし、地方のテーマパークというと、経営難で立ち行かなくなり、最終的には廃墟化、という負のイメージが付きまとう。

しかも「鉄のテーマパーク」というニッチな題材で、果たして集客は見込まれるのだろうか。

『アイアンプラネット』のプロジェクト主である小林輝之氏に、その目的を聞いた。

アイアンプラネットのきっかけは休眠リソースの有効活用

鉄のテーマパーク『アイアンプラネット』を企画したおさだ工業所の代表取締役、小林輝之氏

鉄のテーマパーク『アイアンプラネット』を企画した長田(おさだ)工業所の代表取締役、小林輝之氏

小林氏が思い描く『アイアンプラネット』の完成像はこうだ。

「アイアンプラネットは自社の工場の中に作るつもりです。工場の1Fはそのまま工場として、2Fは鉄の科学館のような、金属加工について学ぶことができるスペースにしようと計画中です。1Fの工場内には作業スペースを設け、そこでは金属製のおもちゃやイスなどを作るワークショップを開催します」

小林氏が工場をテーマパークにしようと考えたのは3年前、彼が父から会社を継いだことがきっかけだった。

「私が工場を継いだ時、まず、工場内を把握するところから始めました。すると工場内にはめったに使わない資材や機械・スペースがあることに気付いたのです。それをそのまま眠らせておくのはもったいないと思いました」

これら余ったリソースを有効活用できないかと考えた結果が、テーマパークとして工場を開放することだった。

10歳のころの思い出が導き出した「自分が本当に作りたいモノ」

しかしながら、なぜテーマパークを作るという発想に至ったのか、その経緯について小林氏は、ある本に出会ったから、と振り返る。

「弊社は下請けの業務が9割以上を占めていたため、経営の安定のために自社製品への移行を模索していました。弊社が得意とする玄関用の手すりのビラを作り、近隣の住宅のポストに入れてみたりもしましたが、全く注文が入りませんでした」

そんな状況に悩んでいた時、小林氏が書店で手に取ったのが『マイクロモノづくりはじめよう』という本だった。その内容に感銘を受け、自身のブログに書評を書いたところ、その書評が著者の目に留まり、Twitterで交流するようになったのだという。

「著者の方の会社がやっている自社製品を作るためのビジネススクールに通うことになったんです。その受講費と東京までの交通費・宿泊費などを足すと、20万円をゆうに超えるので、もう後に引けないという覚悟で臨みました」

当初は「何をしたらいいか分からなかった」という小林氏。ビジネススクールに参加して強く印象に残っていることは、「自分が10歳のころのことを思い出せ」と言われたことだという。

「自分が10歳のころ、寝食を忘れて夢中になっていたものから、自分が本当に作りたいものを導き出せる、ということでした。そこで私は自分が10歳の時、父の工場で溶接機などの工業機械を遊びがてら触らせてもらっていたことを思い出したのです」

10歳の頃、自分が工場で感じた興奮を他の人にも体験して欲しい、と話す小林氏。自然と顔がほころぶ

幼少期に自分自身が工場で感じた興奮を他の人にも体験してほしい、と話す小林氏。自然と顔がほころぶ

自分が心底やりたいことを「工場でのワクワクを伝えること」だと理解した小林氏。まず思い付いたのは、溶接をショーにした『火祭(ひまつり)』を開催するというものだった。

「しかし、1回のショーでは工場の楽しさを伝えきれないことに気付きました。実際触れることで初めて伝えられるものもあるのではないかと。普段の生活からしたら別世界である“溶接”の世界を、そのまま体験してもらうだけでも十分に面白いのではないかと」

また、別の問題もあった。

「また、ショーという形にすると職人さんが嫌がるという問題もあります。普段寡黙に仕事をしている職人さんに、いきなりエンターテイナーになれというのも酷でしょう(笑)」

その問題点に気付いた小林氏は、クラウドファンディングにプロジェクトをUPする一歩手前だった『火祭』を取り下げた。それと同時に、非日常の、まるで他の星に来たような体験ができるという意味で名付けた『アイアンプラネット』プロジェクトを公開したのだ。

アイアンプラネットがもたらす、自社製品のヒントと職人のレベルアップ

北陸新幹線も開通することなどから『火祭』の時点では、全国からの観光客誘致を目的に考えていたという小林氏。しかし、その目的は地域産業の発展への貢献に変わった。

「一過性のショーから体験型アトラクションに切り替えたので、その目的も変わりました。今まで触れる機会がなかった溶接を子どもたちに体験してもらうことで、福井の産業の後押しになるのではないかと思うようになりました」

また、このように体験型テーマパークに切り替えたおかげで、自社にもメリットが生まれると考えた。

業界の外の人との邂逅がイノベーティブな製品を生むと小林氏は考える

業界の外の人との邂逅によって革新的な自社製品が生まれると小林氏は考える

「同じ福井県に田安鉄工という、自社製品のバーベキューグリルで有名になった会社があります。所ジョージさんの『世田谷ベース』で使われたことで一躍有名になったのですが、そもそもバーベキューグリルを作るきっかけになったのは、在日ドイツ人のソーセージ職人からの依頼でした。普段工場でしか仕事をしていない私たちだけでは思いつかないアイデアがあると思ったのです」

子どもにおもちゃ作りを教える過程で、自社製品のヒントが得られるのではないかと小林氏は考えたのだ。この他に、もう一つ大きなメリットがあると小林氏は続けた。

「職人さんたちのスキルアップです。普段、新入社員に『技術は見て盗め』と言っているベテランの職人さんでも、基礎知識も何もない全くの素人にそれは通用しません。今、素人に金属加工を基礎から教えられるのは工業高校の先生くらいでしょう。そのレベルのアウトプットのスキルを社内の職人さんに身に付けてほしいと思っています。そうすることで、会社全体の技術レベルも上がると信じています」

取材の後、最寄り駅まで車で送ってくれた小林氏は車中でこんな話をした。

「私の子どもが今ちょうど小学生。私が父の工場で工作機械に目を輝かせていたころと同じ年齢くらいです。こういう子どもたちに、アイアンプラネットを通じて金属加工の楽しさを伝えていきたいんですよね」

そう熱く語る小林氏の横顔からは、福井県の、坂井市の、春江町のモノづくりを根本から盛り上げていきたい、そんな強い思いを感じた。

取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)