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[第1回ISAM開催レポ] 復興支援の長期継続に必要なのは「ICT×ソーシャル・アントレプレナー」の力

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必要物資・支援要求マップ『311HELP.com』を運営する株式会社42と、CtoC物資支援サイト『Toksy』などを運営する株式会社オンザボード、そして『エンジニアtype』が共同で設立した「ICTソーシャルアクションミーティング(以下、ISAM)」。そのキックオフミーティングが、7月31日、ミクシィのセミナー会場を借りて開催された。

ISAM発足の目的は以下の3点。

① ICTを用いた復興支援を手掛ける事業者や個人間の横連携をうながす
② 今後求められる支援の形を皆で模索し、さらなるソーシャルアクションを醸成
③ ICT×ビジネスの人材交流で、支援活動を継続していくためのナレッジ共有を促進

ISAMキックオフミーティングには、運営スタッフを含めると約70名の有志が参加した

ISAMキックオフミーティングには、運営スタッフを含めると官民から約70名の有志が参加した

この趣旨に共感を示し、参加してくれたのは、復興支援サービス運営者、エンジニア、研究者、経済産業省の情報プロジェクト室担当者など、官民問わず分野を越えた多様な人々。

また、グロービス経営大学院学長の堀義人氏が発起人を務める『project KIBOW』の協賛を得たこともあって、当日はビジネス界の最前線で活躍する人々も加わった。

■当日の各種講演&パネルディスカッションの顔ぶれはコチラ(告知記事内「当日の流れ」)に掲載しています。

「発展形」が問われる今、ヒト・モノ・カネの基盤をどう作るか

さて、キックオフミーティングは実に7時間を超えて行われ、各種復興支援サービスを展開してきた人や団体が、これまでの活動報告や抱える課題を披露。

ICTによる各種マッチング支援のみならず、被災地に農作物を配送する活動、ボランティア運営などと支援内容もそれぞれで、議題がぼやけていっても不思議ではない状況だったが、この日はある方向に議論が集約していった。

震災直後から5カ月が経った今、皆一様に抱えていた共通の課題は「支援継続のための基盤づくり」。つまり、「ヒト・モノ・カネ」の不足である。

■各講演の発表詳細は、参加者のつぶやきによる以下のTogetter、またはISAM公式USTREAMアーカイブご覧ください。 


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冒頭の基調講演に登壇した『ボランティアインフォ』の藤代裕之氏は、自身の復興支援活動を振り返りながらこのように示唆する。

会終了後は夜行に乗って東北へ支援活動に向かうという強行日程の中、登壇してくれた藤代裕之氏

会終了後は夜行に乗って東北へ支援活動に向かうという強行日程の中、登壇してくれた藤代裕之氏

「わたしが携わってきた『助けあいジャパン』や『ボランティアインフォ』の活動で痛感したのは、ICTによる支援の最大の課題は被災者への”ラストワンマイル”が届かないこと。例えばAmazonは、被災地からの『ほしいものリスト』を電話で直接聞いて手入力していたと聞いています。ICTを駆使した支援は、どうやってリアルと結びつくかが変わらぬ課題です」(藤代氏)

現状その「リアル」な支援活動は現地ボランティアが担っているケースが多いが、「ボランティア支援を行う際も事務所費用などの経費は掛かる。今後、ヒト・モノ・カネの確保はいっそう重要になってくる」と藤代氏は話す。そのような中で支援を継続していくには、経営的観点から事業計画を立て、運営の資金繰りを行う知恵が必須になってきているという。

この藤代氏の話を受け、次に講演したグラミン・クリエイティブ・ラボ@九州大学岡田昌治氏は、ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏が提唱する「ソーシャルビジネス」の理論を日本に広めてきた知見を踏まえながら、解決の糸口を示唆。

それが、支援活動のソーシャルビジネス化だ。

ソーシャルビジネスの概念について熱弁をふるうグラミン・クリエイティブ・ラボの岡田昌治氏

ソーシャルビジネスの概念について熱弁をふるうグラミン・クリエイティブ・ラボの岡田昌治氏

「ソーシャルビジネスの3原則は、①社会的問題の解決が目的、②株主への配当や投資家へのキャピタルゲインはナシ、③自立性・持続性です。難しいと思う方もいるでしょうが、日本人にはソーシャルビジネスを理解し、実行できるDNAが備わっている、とわたしは信じています」(岡田氏)

一例として岡田氏が挙げたのが、江戸時代の近江商人。彼らが信条としたのは、「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よし。商いは売り手・買い手だけでなく、世間全体のためにもならなければいけないというこの信条は、「まさにソーシャルビジネスそのもの」(岡田氏)だという。

「3・11後に巻き起こったさまざまな復興支援活動は、ソーシャルビジネスに発展し得る可能性を秘めています。人の意識には『私』と『無私』が共存していて、従来のビジネスは自社の利益という『私』が主体でした。一方、ソーシャルビジネスは『無私』に基づく企業活動のこと。3・11の経験で、日本人の中で眠っていた『無私の心』が再び湧いてきた気がしています」(岡田氏)

この「無私」を活動の「求心力」に転換することができれば、支援継続に必要なヒトとモノ、そしてカネを集める道も拓けてくる、というわけだ。

支援者と”サバイバー”が手を取り合って「無私のるつぼ」を作る

こうした課題を踏まえた上で、続くパネルディスカッションでは自立支援のあり方が協議された。

口火を切ったのは、プロボノ(職業上持っている知識・スキルや経験を活かして社会貢献するボランティア活動)として「福島県南地区での産業集積・雇用創造」構想を打ち立て、中央政府・地方自治体にアクションを起こしているA. T. カーニー梅澤高明氏だ。

(手前から順に)パネルディスカッションに参加した藤代裕之氏、相田慎氏、今野穣氏、梅澤高明氏

(手前から順に)パネルディスカッションに参加した藤代裕之氏、相田慎氏、今野穣氏、梅澤高明氏。奥には岡田氏も

復興が進んでも、インフラや産業が完全には元通りにならないところが出てくるはずという見解を述べた上で、「そこで必要になるのが『多くの人が移住できる街』だが、ただ経済特区を作って、既存の産業を引き入れるだけでは、産業育成や雇用の創造は容易でない」とのこと。

「ならば、世界に前例のない新しいビジネスプランを推進して、民間や海外からも資金が集まるような事業を創出しようというのがこの構想の主眼。そうすることで、東北地方が特定分野で世界をリードするぐらいの存在になっていくことが、本当の復興支援ではないかと考えています」(梅澤氏)

完全水耕式で生産する植物工場の建設誘致や、介護技術認定学校と介護ロボットを融合した先進福祉産業の輸出拠点化など、具体的なプランはこちらの公式発表を見てもらうとして、梅澤氏がプレゼンの終わりで強調したのは、「個別に展開される支援活動の集積化」と、「支援側と被災地域双方の自立をうながす体制づくり」だ。

この”大きく構想する”提言に、引き続きパネルに参加した岡田氏も同調する。

「わたしも『支援』ではなく『自立』を目指すべきだと常々言ってきました。わたしは被災地の方々を、『被災者』ではなく『サバイバー』だと思っています。彼らの持つ優れた能力も借りながら、無私の心でメルティングポット(るつぼ)を作ることができれば、素晴らしいソーシャルビジネスが生まれるはずです」(岡田氏)

梅澤氏や岡田氏の言う「支援活動の集積化」や「メルティングポット」を形成していく際、その情報のハブやプラットフォームとして、各種ICTサービスが効力を発揮することは言うまでもないだろう。3・11直後から支援要請やマッチングの場として機能してきたICTは、ここで新しい役割を帯びてくる。

さらに、自立支援への布石として再び議題に挙がったヒト・モノ・カネの確保について、グロービス・キャピタル・パートナーズ今野穣氏や梅澤氏がこう補足する。

「ベンチャーキャピタリストの視点で話すと、今、IT関連のベンチャーは非常に元気です。ソーシャルメディア、スマートフォン、クラウドといった大きな変化が1度に押し寄せていることがその理由。何が言いたいのかというと、変化があるところにチャンスがある、ということです。ChangeはChanceであり、この度の震災も非常に大きな変化でした。見方を変えれば、日本の民度の高さ、ホスピタリティーの上質さを世界に知らしめる良い機会になる。そこに、ビジネスとしてのChanceが隠れているかもしれません」(今野氏)

「今、支援活動に従事する皆さんには、今後国や助成金に過度に依存しない『事業』の形成が期待されます。そうなると、経営的な視点でヒト・モノ・カネを確保していけるソーシャル・アントレプレナーが必要不可欠になってくるでしょう」(梅澤氏)

今後の支援継続で求められる、1を10にするPM人材

ソーシャル・アントレプレナーとは、社会問題の解決によって収益を確保していく社会起業家のことを指す。

梅澤氏が語った「復興支援におけるソーシャル・アントレプレナー待望論」には、パネルにも参加していた藤代氏も強く同意。加えて、「アントレプレナーに欠かせないのは、語ることより動くこと」との私見を述べた。

そんな藤代氏に梅澤氏が、各支援活動内でプロジェクトマネジャー的な役割を果たせるソーシャル・アントレプレナーの発掘・マッチングを依頼する一幕も。こうした人材の育成とマッチングの具体策については、ISAMも藤代氏とともに検討していく予定だ。

ほか、支援情報サイト『#99japan(救急ジャパン)』 の主要メンバーとして活動してきた豊橋技術科学大学の相田慎氏から、ITを駆使した支援活動の発展形として「過去の災害や世界の災害復興事例の中に埋もれているかもしれない自立成功モデルを抽出するデータベースの構築」といったアイデアが飛び出すなど、パネルでは最後まで「次のアクション」に向けた議論が展開された。

その後に催されたアンカンファレンスでも、相田氏が携わる放射線・放射性物質情報のまとめサイト『AHR Wiki』や、宮城県・南三陸町にフォーカスした『南三陸支援ネットワークミーティング』、博物館・美術館などの被災・救援情報『saveMLAK』など、さまざまな視点から支援を行う活動者が取り組みを発表。

ISAMでは、今後もこうした活動の「支援継続」、「横連携」のきっかけづくりの場を提供し続けていく計画で、第2回ミーティングは2011年9月をメドに開催準備を進めている。最後に今野氏のコメントを引用しつつ、復興支援に向けたネクストステップを創出していく所信表明に代えさせてもらいたい。

「震災支援に関しては、これまでゼロを1にする人たちが活躍してきました。ただ、これからのフェーズでは、1を10にする人、10を100にする人も必要になってくると思います」(今野氏)

そこで求められる「ヒト」とは、技術を持つ者、ビジネスの知見を持つ者、社会貢献への志を持つ者と、さまざまであるはずだ。

■ISAM関連情報・次回ミーティング情報は、ISAM Facebookページに随時掲載していきます。

取材・文/森川直樹