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[特集] IT復興2.0 (2/3) 「南三陸deお買い物」運用を通して勝又伸一氏が得た、隙間市場と事業への応用

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ソフトウエア開発会社NYANGO代表のフリーランスエンジニア・勝又伸一氏は、本業の傍らで被災地の特産物を専門的に扱うECサイト『南三陸deお買い物』を運用してきた。

「きっかけは、東日本大震災後の4月2日に宮城県の南三陸町にある妻の家族に物資を運んだ時のこと。本業の開発業務もあるし妻のお腹にいた息子も生まれる間近だし、物資を運ぶだけにしようと思っていたのですが、東京に戻るまでの帰り道に考えたのです。本当にこれで良いのか? もちろん、答えはNoでした」

長期化が予想される復興に向けて必要なことは「現地での恒久的な雇用」だと感じ、その受け皿となる地元の事業者を応援したいという想いが芽生えた。

「復興支援を行うと決めた時に心掛けたことは、自分の専門分野で支援活動を行うことです。わたしの場合は、IT技術に自信があったので、この専門性を活かして貢献できることを考えました」

自分の得意分野を活かして支援する

現在も続いている『南三陸町支援情報ポータルサイト』プロジェクトの一つである「お店再開情報マップ」の延長線上で、ネットショッピング構想が発案され、2011年8月22日に『南三陸deお買い物』が誕生した。

「サーバ構築や運用、システムのカスタマイズ、商品ページ制作などはわたしが一人で対応しましたが、ショップ運営に関しては有志の方が手伝ってくれました。販売するたびに売り切れる『ちょうさんワカメ』は、ちょうさん応援団の方々が商品原稿の制作、素材用意、在庫管理、梱包・発送まで支援しています。仙台のIT企業を中心としたプロジェクト『ITで日本を元気に!』にもお世話になっています。最初の商材はTシャツだったのですが、在庫管理から受注管理まですべて、仙台のグレープシティという企業さんが手伝ってくれています。さらに向こう2年分のサーバ代などの固定費を支援していただきました」

周囲と助け合いながらショップ運用を行っている勝又氏。しかし、現在もサイト運用に関しては一人で担当している。この点に関して、活動を続ける上での本業との兼ね合いや、限界を感じることはないのだろうか?

「限界ということで言えば、オレってデザインセンスないなぁ、というくらいでしょうか(笑)。というのも、技術知識もありましたし、組織には所属していませんが仲間は周りにたくさんいるので、精神的に支えられています。ちょうど仕事も受託開発から自社サービスの開発にシフトしていく時期だったので、比較的時間の余裕も持てましたね」

約50万円の現金支出も、将来のための勉強代

「『南三陸deお買い物』の金銭的な報酬はゼロです。交通費や広告費を含めると、これまでの現金支出は50万円くらいでしょうか。投入した時間を受託開発時に請求している単金で換算すると、500万円くらいになると思います」

個人事業主として、決して少なくない資産を投げうって復興支援活動に勤しむ勝又氏。だが、それでも彼が継続して復興支援を続けてきたのには理由がある。それが、今回の「IT復興2.0」のテーマでもある、自分もメリットを享受していると感じられる部分にある。

被災地の特産物を扱うネットショップでは、全国各地から注文の依頼が来るという

被災地の特産物を扱う『南三陸deお買い物』には、全国各地から注文の依頼が来るという

「学びはたくさんありました。一番は、『こんな人になりたい』と思える人がたくさんいること。どんな状況でも決してあきらめない。前向きに考える。助成金や他人の支援をアテにしないで自己責任で行動するなど……」

保有する工場5つのうち4つを失っても、「表立っては言えないけど千年に一度のチャンスだと思っている」と前向きに話す水産加工の社長や、津波で全壊するも数日後には再建を決意し、ついに実現させた民宿一家、スイーツを全国に販売して雇用を創出し、町を活性化させようというパティシエなど、復興支援をしていないと出会えなかったような人たちから、多くのことを学んできたと話す。

より実利的な気付きとしては、ECショップの運営を通して見えてきた隙間産業の存在だ。

「例えば、南三陸町のある商品は、大手ネットショッピングモールと自社サイト、そしてウチのサイトで販売していました。うちのサイトが一番売れているそうです。メガサイトでは埋もれてしまうし、自社サイトではそもそも訪問数が少ない。その隙間を埋めるのが、『南三陸deお買い物』のようなローカルショッピングサイト市場なのかなと感じています」

営利目的のネットショッピングモールは、出店者や顧客を囲い込むためにさまざまな制約があるが、『南三陸deお買い物』にはそれがない。同ネットショップの場合、例えば、どこで売れても事業者が潤えば良いため、メールやFAX注文を制限したりしない。また、復興支援のイベント・催事があれば、そのURLを商品ページに掲載したり、メルマガで発信することもできるそうだ。

今やっている取り組みを町・地域レベルで取り組んだら、町おこしにもつながるのではないか、とも考えているという。

「現在は情だけで買っていただけることもありますが、それに甘えたくない。だから、商品ページを制作する時は、そのモノ・サービスの価値は何か? こだわりは何か? お客さまのベネフィットは? などを考えています。普段生産者が考えるこのプロセスに、わたしたちも参画することで、生産者自身が当たり前と思っているものが、実はユーザーにとっては価値あるものだったり、という価値の再発見効果もあります。

これまで、生産者からは『購入してくれるお客さま』の顔が見えなかった。今は購入してくださったお客さまからのメッセージが届くので、生産者も励みになります。そして、メルマガで近況を報告することもできます。お客さまの中には『いつか必ず南三陸町を訪れたい』とおっしゃってくださる方もいらっしゃいます。これらの一連の取り組みが大きくなっていけば、町の活性化につながるのではないかなぁと。今は、ITシステムや運用から得た知見を自治体に売り込んでいけないか? なんて妄想しています(笑)」

また、即座に使えるスキルではないものの、勝又氏は、復興支援を通して自身のスキルアップを実感している。

「今まで経験のなかったEC関連技術のスキルが学べました。せっかく身に付いたネットショップの技術スキルを本業に転換しようと目論んでいるのですが、プログラミングが大好きな自分としてはEC関連技術にはあまりときめかず、そこはつらいところですけどね(笑)」

奉仕先行型の支援活動も結果として自分にメリットが還ってくる

震災から1年が過ぎた今、『南三陸deお買い物』の今後の運用はどうしていく予定なのだろうか。勝又氏はこのように話す。

「今後も、『南三陸deお買い物』から利益を上げるつもりはありません。今、現地のIT起業志望者の方にオペレーション部分を委託して、わたしは隙間市場向けパッケージ開発の意味も込めて、インフラ部分に専念できる体制を整えようとしている最中です。まだ決定事項ではないので言えないこともありますが、活動開始当初に決めた、現地での恒久的な雇用の創出にもつながる手応えも感じています」

継続的な復興支援を続ける勝又氏のように、支援を続けているからこそ得られる経験やスキルもある。

「すごく長期的な視点で考えた場合、表面的なノウハウというのは、すぐに陳腐化しますが、わたしが今、被災地の人たちから学んでいるのは、もっと普遍的で、決して色あせない心構えとか姿勢だと思います」

では、こうした「ボランティア型」の取り組み以外に、サステナビリティーの高い支援スタイルはないのだろうか。それを探る意味で、次ページではアクセンチュアと会津若松市、会津大学の三者合同プロジェクト「福島イノベーションセンター」を紹介しよう。

そこから可能性として垣間見えたのは、「復興支援そのものを仕事にしてしまう」というスタイルだ。

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本特集のテーマである
「自分たちにもメリットがある形で、復興支援を続けていく」
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