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モノ×ITの融合を促進する「Makers Summit」で見た、メイカームーブメントの理想と現実

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「ブームは生まれるものではなく、作られるもの」とはよく言ったもので、すべてのムーブメントにはきっかけがあり、火付け役が存在するもの。

今、インターネットやモノづくり業界の中でにわかに注目を集め始める、クリス・アンダーソン氏が提唱する「メイカームーブメント」も、まさに新しいブームを呼び起こそうとしている。

12月3日(土)、そんなブームを裏付けるかのように、MAKERS(メイカーズ)時代のモノづくりの現場で何が起きているかをイベント「Makers Summit(メイカーズサミット)」が開催された。

主催者の一人でもある木下氏は、今年8月にSkyland Venturesを立ち上げ、積極的にITベンチャーへの投資を行う

今年の国内外のグッドデザイン賞を受賞したLEDデスクライト『STROKE』を販売する一人家電メーカーBsize代表の八木啓太氏による基調講演や、ソーシャルゲーム開発の雄・gumi代表の國光宏尚氏と自身初の書籍『ソーシャルもうええねん』が好評の村上福之氏によるトークセッション、そして、今まさに現場でMAKERS時代の変化を体験しているモノづくり企業によるパネルディスカッションなど、幅広いラインアップのトークがイベントを彩った。

モノづくりはメーカー(製造業)メイカー(個人の作り手)へ

大手メーカーの技術職を辞め、一人で設計からデザイン・販売までを行う八木氏は、まさに「MAKERS」を地で行く人物だ。

八木氏の開発したLEDデスクライト『STROKE』。販売はHPのみだが、予約多数のため、現在は納期まで3週間近く掛かる

八木氏は自身の起業経験をもとに、これまで資本・資源を十分持ち合わせているメーカーでしか成し得なかったモノづくりの製造プロセス

[設計→試作→資金調達→評価・検証→量産→販売]

が、3Dプリンターなどの普及により大手メーカーに在籍していなくとも、誰でも簡単に一人で完結できるようになったと話す。今の八木氏自身を支えているのも、そこが大きいという。

同氏は「モノづくりが、メーカーだけでなくメイカー(個人の作り手)のもとに回帰してきた。その流れの中で、誰もが持っているモノの価値が陳腐化しつつある」とした上で、「これからのモノづくりの価値は、デジタル技術の進歩に伴ったデジタル化の追求と、それとは対極に、デジタル化だけでは絶対に実現できない職人技術を駆使したアナログの追求にあるのではないか」とした。

自身が作り上げたLEDデスクライト『STROKE』も、一本のパイプを連続的に、シワなくキレイに曲げる技術や、マットな質感を表現した塗装技術など、いたるところで駆使されたアナログな職人技が魅力を際立たせている。

Bsizeは“一人家電メーカー”と呼ばれることも多いが、こうした技術はどうしても職人の手を借りる必要がある。その意味で、八木氏は最適なチームづくりに奔走したという。

「チームをつくる時にわたしが心掛けていたのはシンプルなことで、自分のビジョンをシェアするということ。自分が作りたい製品にかかわる技術力を持っている職人さんに対して真摯に向き合い、想いを伝える。この想いに共感してくれれば、そのチームはとても強い信頼関係を結べるようになると思ったのです」(八木氏)

モノが普及すると、人のニーズは細分化していく

「モノづくりの価値が変化する」と話す八木氏に賛同するように、次に登場した村上氏も持論を展開する。

当初、観客として参加する予定だった両氏だが、木下氏の依頼で急遽トークセッションを行うことになったという

「モノが普及したことによって、人の思考が細分化されてきた。そうなると、自分だけの特別なモノを求めるようになり、大量生産型のこれまでの製造業の作ったモノではなく、特定層の高いニーズをとらえたモノづくりが必要になるのではないか。実際、人は自分の欲しいモノが特別になればなるほど値段が高くなっても買う」(村上氏)

村上氏自身、過去に「大好き屋さん」という完全人力声優告白Webサービスを作った時に、「4000円も支払って『誰が声優さんに自分の名前で告白してもらいたいねん!!』と思っていたけど、サービス開始4日で140人くらい購入者がいた」という経験をしており、個人の嗜好に対する価値の高さを実感したという。

一方で國光氏は、「このメイカームーブメントは、インターネット黎明期に似ている」と話す。

「2000年代前半、渋谷にネット企業が集結しビットバレーと呼ばれるようになったように、モノづくりのコミュニティも存在感を増していく。そうなると、インターネット黎明期がそうだったように、オープンソースコミュニティがいくつも生まれ、そこから次々と新たなイノベーションが生まれるかもしれない」(國光氏)

メイカー初心者が陥りがちな、【4+α】の課題

「メイカームーブメント」が盛り上がりを見せる中で、少しずつ課題も見え始めてきている。

八木氏は、個人でモノを作り、販売する過程で生じる弊害は、大きく4つあると話す。「特許」「品質管理」「製品保証」「法規」の問題だ。

《メイカーが陥りがちな4つの課題と対策》
■ 特許…特許は取得する必要はないが、侵害してはいけない。特許図書館などで調べるべき

■ 品質管理…量産部品がCADデータと違うため、部品のばらつきがある。QC(クオリティー・コントロール)を設計段階で盛り込む必要がある

■ 製品保証…販売から半年経って、多数の故障返品があることも。信頼性試験などの実施で、故障リスクを未然に抽出しておくべき

■ 法規…製品が燃えて小火が!なんてことにならないように、電気用品安全法、電波法、PL法、家庭用品品質表示法など、法規にしたがった製品開発が大切

國光氏も話していたが、にわかに盛り上がるメイカームーブメントには、モノづくりの産業構造をガラリと変える大きな可能性を秘めている。しかしながら、こうした課題を見る限り、それはまだまだ先のことになりそうだ。

実際に、パネルセッションで登場した、町工場でベンチャースピリットを見せるニットー代表の藤沢秀行氏やJMC代表の渡邊大知氏、Sassor代表の石橋秀一氏なども、「ベテランと呼ばれる50~60代の多くの職人たちにとって、ITベンチャーやメイカーマインドを持った若者たちとの協業は、気持ちの面でのハードルが高い気がする」と話していた。上記4つの課題と同時に、職人たちと上手く向き合っていく必要があるようだ。

メイカームーブメントが日本にもたらすのは、闇か光か

一方で、イベントに参加していたモノづくり関係者たちからは、「Bsizeの八木さんのような実績を出せているメイカーは、現状として圧倒的に少数だということは理解しておくべきだ。ブームに乗ってモノづくりの世界に参入しようとしても、この世界はあまりお金にならないことに気付いて撤退する企業・個人は数え切れない、ということも同時に理解しておく必要がある」という声も上がった。

しかしながら、革命前夜とも言える今だからこそのチャンスもある。

「このメイカームーブメントは、かつて日本がモノづくり大国と呼ばれた時代に活躍した職人さんたちが、再び輝くチャンスでもあると思っています。彼らの突出した技術力と、われわれがインターネットビジネスで培った知見をうまく融合させば、GoogleやFacebookなどに負けないくらいの企業が生まれるんじゃないでしょうか。その可能性に期待を込めて、gumiとしてもモノづくりベンチャーへの投資は積極的に行っていきたい」(國光氏)

メイカームーブメントは、まだ始まったばかりだ。

取材・文・撮影/小禄卓也(編集部)

≪基調講演はテラモーターズ代表・徳重徹氏![Makers Summit Vol.2」開催決定≫
Makers時代の自動車ベンチャーの挑戦~21世紀の自動車革命とは~/ Makers Summit Vol.2

■日時:2013年1月21日(月) 19時半~22時半(19時開場)
■定員:130名
■参加費:2000円(社会人)、1000円(学生) ※当日受付にて
■会場:野村證券渋谷支店 セミナールーム