エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

日本の起業家がシリコンバレーで知った、サービス開発の「違い」を生む3つの視点【jannovation week体験記】

公開

 

「Jannovation(ジャノベーション)」=日本企業、日本人による、世界を変えるイノベーション。

その創出を目的に、日本発のグローバルベンチャー育成をサポートしているサンブリッジ グローバルベンチャーズが、8月6日(月)~10日(金)の5日間、シリコンバレーで『jannovation week』を開催した。

2011年から始まったこの取り組みには、今年も意欲ある起業家やエンジニア15名が参加。期間中は、Rocket Space500 Startupsといった米の有名インキュベーション施設への訪問、現地VCやEvernote CEOフィル・リービン氏のような起業家の講演・トークセッションなどがあり、プログラム最終日の『Tanabata 2012/Jannovation Jam』ではピッチを行う機会を得られる。参加者は、密度の濃い1週間を体験した。

株式会社ファンタムスティック
CEO & Co-founder

ベルトン・シェイン氏

今回、このプログラムに参加したファンタムスティック株式会社のCEOベルトン・シェイン氏に話を聞くことができた。

シェイン氏が現在の会社の代表となったのは2010年2月。もともとフリーのデザイナーとして3DCGを手掛け、映像やゲームの制作に携わってきたが、起業から2年あまり経って独自の知育アプリ開発を決意したことが、このプログラムへの参加に結び付いたと話す。

そんなシェイン氏が『jannovation week』に参加してみて最も刺激を受けたのは、日本とシリコンバレーにおけるスタートアップを取り巻く環境の違いだ。

中でも、日本におけるサービス開発でも参考になりそうと感じたという、3つのポイントを教えてもらった。

①スピードの異常な速さ~米ではすでに「No more Social」

プログラムの中では、世界的に利用されているエンタープライズ向けSEOプラットフォーム『Ginzametrics』開発者で、GinzamarketsのCEOレイ・グリセルフーバー氏による講義もあった。

「シリコンバレーに拠点を置く、日本で起業したエンジニア」である同氏(※グルセルフーバー氏のインタビュー記事はコチラ)の話でシェイン氏の印象に残ったのは、「ソーシャルビジネスの終わり」、「モバイル広告ビジネスの行き詰まり感」という話だ。

From socialmediahq ソーシャルサービスはもはや寡占状態で、新規サービスのネタとしては敬遠されがち!?

From socialmediahq

ソーシャルサービスはもはや寡占状態で、新規サービスのネタとしては敬遠されがち!?

米ではSNS系サービスの競合過多やFacebook IPOの低調もあって、もうVCはソーシャルサービスを主眼とした起業アイデアに食いつかないという。

また、モバイル広告ビジネスに関しても、今後サービス利用の主戦場がスマートフォンに移っていく中、サイトに広告リンクを貼って稼ぐビジネスはユーザー行動から”縁遠いもの”になっていくと見られている。

ここに来て、トレンドの変化は「想像以上に速まっている」(シェイン氏)様子だ。

②「秘密主義」より「アイデアをオープン化」した方が賢明

From Gavin Tapp シェイン氏が聞いてきた話では、最近の米VCが投資の条件として見るのは「①エンジニアであること」、「②2人以上で創業」だそうだ。①は開発の速さを、②は議論の闊達さを示す指標だろう

From Gavin Tapp  シェイン氏が聞いてきた話では、最近の米VCが投資の条件として見るのは「①創業メンバーにエンジニアがいること」、「②2人以上で創業」だそうだ。①は開発のスピードを、②は議論の闊達さを測る一つの目安なのだろう

加えて、シェイン氏が現地の起業家たちと交流して最も痛感した違いは、アイデアをどんどん発信していくことの大切さだったと話す。

「サービスのアイデアって、盗まれたりするんじゃないかと考えて隠してしまいますが、シリコンバレーのスタートアップはディスカッションやピッチコンテストで、みんな思いついたことをどんどん話すんですね。それに対してのフィードバックもたくさんある。そうやって、プランのブラッシュアップを高速で行っていくんです」

一般的に、「まず作れ」の精神でデモページやβ版を作成することが優先されがちだが、「それでは最重要視される開発のスピードが損なわれてしまう」(シェイン氏)。一方、アイデアを先に公開し、その場でブラッシュアップしていけば、短期間で必要最低限の機能だけを作ってリリースできるわけだ。

「ある程度まで作り込んでからプレゼンをしても、ダメ出しをもらったら結局は作り直しじゃないですか。シリコンバレーでは、『その時間すらもったいない』という感覚でしたね」

③組織運営より「0(ゼロ)~3」のフェーズに全精力をつぎ込め

サービス開発から起業、その後の成長フェーズを、仮に0~10までの段階に分けるとすると、シェイン氏の言う「0~3」とは、手掛けるサービスを企画・リリースし、将来有望なものに育てていくところまで。

シリコンバレーで感じたのは、この「0~3」のフェーズに全精力を傾けて突き進む起業家たちの多さだという。そもそも論ではあるが、シリコンバレーには投資家やシードアクセラレーターの豊富さ・身近さ等々の点で、日本とは異なるエコシステムが根付いている。そのためか、「創業」と「経営」とが切り離されているケースがよく見られたと話す。

「日本で起業すると、サービス開発の担い手だった創業者にも長く会社を続けていくための舵取りが求められるじゃないですか。でも、少なくとも西海岸では、創業者の役割はシード期の段階まで。それ以降の経営フェーズは、数多く存在する”経営のプロ”に任せるというのがメインストリームみたいでした」

こうした現状を垣間見てきたことで、起業した後に「どれくらい長く続けていくか」ではなく、新しいサービスをいかに早く実現して広めていくかに全力を傾けていくことが重要だと確信したという。

シェイン氏自身、これまでは資金調達をはじめ、立ち上げた会社の経営を軌道に乗せ、事業を継続していくことに日々労力を使ってきたため、この考え方には大いに啓発された。

「聖地」で得た学びを活かして、幼児向けの知育アプリを開発

From nooccar 8/23にUPした上杉周作氏の寄稿連載でも示唆があったように、最近はシリコンバレーでも教育関連サービスに注目が集まっている

From nooccar 8/23にUPした上杉周作氏の寄稿「シリコンバレーの教育ベンチャー業界に、あなたが注目すべき理由
でも示唆があったように、向こうでは教育関連サービスに注目がにわかに高まっているという

これらの学びを得たシェイン氏が、帰国後の今、開発の最終段階までこぎつけているのが、2~6歳の幼児と親とのコミュニケーションに役立つiPad/iPhone用知育アプリだ。

「僕自身、9歳と5歳の子の父親なんですが、以前からデジタルデバイスを通じて親と子どもがつながるサービスを作りたいと思っていたんです。jannovation weekへ参加して、親と子のコミュニケーションは日本だけでなくアメリカでも大きな課題になっていることが分かりました。そういう意味ではまず、このアプリ提供を次のステップとして、幼児教育に貢献できるビジネスへとつなげていきたいですね」

『jannovation week』の開催趣旨どおり、日本発で世界に愛されるサービスが生まれるかどうか、このサービスのローンチが楽しみだ。

取材・文/浦野孝嗣