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朝倉祐介氏が語る“世直し起業論”~「課題発見」が必要なスタートアップに存在価値はあるか?【JapanNight VIIレポ】

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数々の有名スタートアップを輩出した『JapanNight』も、今年で7回目を迎えた

Ring』『WHILL』『Lang-8』『Gengo』『Moff』。これらのスタートアップ企業たちには共通点がある。

それは、すべて『JapanNight』への出場経験があるということ。

『JapanNight』とはオリジナリティの高い日本のプロダクトを世界へ発信するため、btraxが主催して行われているピッチコンテストである。

第7回目となる今回は、9月27日に東京・千代田区の大和コンファレンスホールにて50社以上の応募から選ばれた14社のプレゼンテーションが行われ、1位通過は電導性プリントの『AgIC』、同率2位には『Sansan』と『KAIZEN platform』が輝いた。

そのキーノートとして、btraxのCEOブランドン・ヒル氏と、元ミクシィCEOの朝倉祐介氏との対談が行われた。

外資系コンサルティングファームのマッキンゼーから、スタートアップを経て、上場企業ミクシィの経営立て直しというバラエティに富んだ経歴を持つ朝倉氏の目には、今の日本のスタートアップを取り巻く環境はどのように映っているのだろうか。

誰のための起業なのか

(左から)『JapanNight』のキーノートに登壇した元ミクシィCEOの朝倉祐介氏とbtraxのCEOブランドン・ヒル氏

(左から)『JapanNight』のキーノートに登壇した元ミクシィCEOの朝倉祐介氏とbtraxのCEOブランドン・ヒル氏

現在のスタートアップ業界の印象は? とブランドン氏に聞かれた朝倉氏は、自身がスタートアップを経営していた3年前と比較して「あらゆるものが一変した」と答えた。

「私がスタートアップを立ち上げたころに比べれば、環境面で大きく変わりました。人・物・金・情報、こういったスタートアップを取り巻くものが一変してしまったな、と。例えば人でいうと、外資系金融出身者やリクルート出身者が活躍されていますよね。層が厚くなった、というのが正しいかもしれません」(朝倉氏)

『JapanNight』を長年主催してきたブランドン氏も、スタートアップの層の厚さの変化を感じているという。

「応募の数がかなり変わりました。今回は約50社近くエントリーをいただきましたが、3、4年前までは日本予選を行う必要がないくらいのエントリー数でした」(ブランドン氏)

その一方、スタートアップが乱立する現状について朝倉氏はこう感じているという。

「スタートアップの数も多くなりましたが、『本当にそれやりたいの?』と思うものも少なくありません。何となく起業して周囲と同じようにVCから資金調達しようとして……みたいな。そういうのを見ていると、違和感があるんですよね。あなたがやりたいことは、資金調達しない方が自由にできるんじゃないの、ガッと資金調達してガッと急成長を遂げるみたいな方法にこだわらずに個人事業主でやった方があなたにとって幸せなんじゃないの、って」(朝倉氏)

見つけなくてはいけない課題とは果たして本当に“課題”なのか

ある種の“流行”とも言えるスタートアップ起業に関して持論を繰り広げる朝倉氏。ブランドン氏の「次にやりたいことは何ですか?」との問いに、次のように答えた。

「今すぐにこれをやりたい、というものはないです。でも、今後何か新しいことをやるとしたら、それは“世直し”だと思っています。起業は『この業態がやりたい』、『いくら稼ぎたい』とかよりも『こんな課題を解決したい』という気持ちから始まる方が、自分には合っていると思うんですよ」(朝倉氏)

また、近年、スタートアップが増えた要因の一つとして考えられる、「リーンスタートアップ」の手法。

朝倉氏はそのリーンスタートアップについて「とても洗練された手法だと思います」と前置いた上で、こう考えを述べた。

改めて発見の必要がある課題は本当に“課題”なのだろうか

From Sebastiaan ter Burg
改めて発見の必要がある課題は本当に“課題”なのだろうか

「でも、私の中では正直あんまりしっくり来ていないんです。手法として、まずは『顧客発見』からやるじゃないですか。そのプロセスを通じて、わざわざ発見しなくちゃいけない課題って本当に“課題”なんでしょうか。

環境問題や行政の財政問題など、解決すべきことが自明の “課題”はいくらでもあると思うんですよね。私が“世直し”的なことをやりたいと考えるのも、解決すべき社会問題がいくらでもあるからです」(朝倉氏)

VCからの資金調達とIPOを一緒に考えてはいけない

キーノートの最後に、ブランドン氏から「スタートアップの方にメッセージを」と話を振られた朝倉氏。「一番申し上げたいのは大きくなった時のことを考えた方がいい、ということです」と話が始まった。

「もちろん今は、目の前の事業をスケールすることに全力を注いでいらっしゃると思いますが、うまくいって会社が大きくなった時にいろいろと面倒なことが起きるんです。例えば、大企業病。どんな勢いのあるスタートアップでも、大きな成功体験を得ると、簡単に鈍化してしまいます。しかも発病してからでは遅くって、治そうとすれば大規模な外科手術が必要になります。人体と一緒で、予防することが重要なんですよ。スタートアップの段階で、企業文化をしっかりと作っていって予防しておくことが重要なんです」(朝倉氏)

また、大企業病の予防に加え、もう一つ考えておくべきことがあるのだという。

「会社が大きくなったらIPOしたい、とお考えの方もいるかと思いますが、したらしたで、経営状況は一変します。VCから資金調達した経験があっても、マーケットで株式が売買されて外に株主がいるということは、それとは明らかに違う世界なんです。お金を預かっている以上、株主に対して責任を果たさなくてはならなくなり、今までとは違った観点で経営しなくてはいけないということは肝に銘じておいてほしいですね」

取材・文・撮影/佐藤健太(編集部)