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カヤックのMAKERSが「“身につける”エクストレイル」制作で学んだモノづくりの難しさ

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1月10日からの3日間、幕張メッセで開催された『東京オートサロン2014 with NAPAC』は過去最高の約30万人の来場者数を記録。世界最大規模のチューニングカー・カスタムカーの祭典として知られるこの展示会でひときわ注目を集めたのが、6年ぶりのフルモデルチェンジを発表した日産の都市型SUV『エクストレイル[X-TRAIL]』だ。

1月7日の発表によると、この新型エクストレイルは、発売後わずか3週間で月販目標台数の4倍を超える1万1000台の受注を獲得。競争の激しいコンパクトSUVのジャンルにおいて、新たな大ヒットモデルとなりつつある。

そして昨年12月に行われた同モデルの記者発表の際、同時に披露されたのが、新型エクストレイルの世界観を体現したアウトドアスポーツギア『X-TECH GEAR』だ。

日産グローバル本社ギャラリーに展示されている『X-TECH GEAR』

新型エクストレイルのコンセプトや技術をスノーボードギアにも実装するという発想で開発され、以下の5アイテムで構成される。

■『ACTIVE RIDE GRIP』
■『LED NIGHT SUIT』
■『INTELLIGENT SHOOTING HELICOPTER
■『ADVANCED DISPLAY BOARD
■『SAFETY SHIELD GOGGLE

これらのスノーボードギアの企画から、コンセプトモデルづくりまでを手掛けたのが、面白法人カヤックだ。これまでWebサービスやソーシャルゲームなどの事業を展開してきた同社が、なぜこうしたモノづくりに挑戦したのか。そして、このスポーツギア開発を通して何を学んだのか。4人の開発スタッフに語ってもらった。

モノづくりのノウハウはとにかく「聞く」こと

カヤックの「X-TECH GEAR」開発チーム(写真左から)村井孝至氏、深津康幸氏、望月美帆さん、衣袋宏輝氏

カヤックの『X-TECH GEAR』開発チーム。(写真左から)村井孝至氏、深津康幸氏、望月美帆さん、衣袋宏輝氏

米Googleが日本のロボットベンチャーSchaftを含む複数のロボティクス企業を買収したように、最近Web企業がハード分野に進出する動きが加速化している。その際に課題となるのは、ハードウエア制作の知識・技術をどのようにして手に入れるかだろう。

Googleはノウハウを持っている企業を自社に取り込むことでその課題をクリアしたが、カヤックの場合はどうか。『INTELLIGENT SHOOTING HELICOPTER』のアプリケーション開発に携わった村井孝至氏は、このように説明する。

「事前の調査には時間をかけましたね。分からないことだらけでしたから。そんな時は社内の詳しい人に聞いたり、その道の先駆者と呼ばれる人たちに聞きに行きました。ヘリコプターには位置情報の技術が必要だったので、まずGoogleで調べたんです。でも、実現しようといている『ヘルメットのマーカーをヘリに追従させる』技術がマニアックすぎて載ってないんですよね。そこで位置情報学会関係の方にGPSの仕組みを伺ったり、似たようなプロダクトを開発した経験のある方にどのような苦労・失敗をしたかを聞きに行ったりしました」

また、衣袋宏輝氏は次のように補足する。

「当社は事業分野で言えばソフトウエア会社ですけど、スタッフの中には前職で何らかのモノづくりの経験があったり、趣味でモノづくりをやっているという人が多いんです。ですから、掘り起こせば、実は社内でも開発ノウハウを得ることができたりするんですよね」

チャレンジを推奨する風土ゆえ出たボツ案も

今回、実際に稼働させるためのプロトタイプを製作するというのが彼らのミッションだった。それぞれのアイテムごとに4~5人でチームを編成。村井氏や望月美帆さんのようにソフトウエア部分を担当したエンジニアは、複数のアイテムを兼務するなどして開発を進めたという。

開発のチーム体制について、ディレクターの深津康幸氏はこう語る。

チャレンジに対する不安も「自分がやりたい」というモチベーションの基盤がハッキリしていることで払拭できる

「カヤックはWebやゲームの会社だと見られがちですが、実は社内ではみんなが欲望のままにやりたいコトをいろいろ提案してはディスカッションしている環境。なので、ハード、ソフトという分野にとらわれずに、面白そうなことにはチャレンジすべしという雰囲気の中から生まれたチーム編成なんです」

しかし、チャレンジ精神を尊重する風土ゆえの困難もあったという。

今回のプロジェクトのゴールは新型エクストレイルのテクノロジーを体現したギアを制作すること、という1点のみ。

にもかかわらず、結果的に5つのアイテムを開発したのは、「やりたいことにトライする、という社風のためか、ブレストやディスカッションを繰り返していくうちに、どんどん作るモノの種類も増えていってしまったから」(望月さん)。ボツになったプランもたくさんあったと振り返る。

企画書の内容も盛り上がり、

【1】スノーボーダーがかぶったヘルメットのマーカーをアプリケーションを通じてヘリが追尾し、撮影するという機能

【2】身に付けたゴーグルがアプリを通じてスノーボードと連携するという機能

【3】その2つの機能がさらにハブとなるアプリを通じて連携する機能

という、ある種夢物語ととらえられてもおかしくない理想を盛り込んだ。実際に動かして見せるまで、クライアントほか関係者たちは「実現不可能だ」と思っていたらしい。

「プロのモノづくりではないですけど、どうせ作るならこれくらい夢のあるモノじゃないと面白くないっていう思いでしたね」(深津氏)

ハードウエアゆえの困難は、環境と修正スピード

開発が一番難しかったプロダクトとしてチームが挙げたのは、この『INTELLIGENT SHOOTING HELICOPTER』。ヘリコプターで動画撮影できるレベルにまで調整するのにはかなり苦労したからだ。

INTELLIGENT SHOOTING HELICOPTERに搭載されたRaspberry Pi

INTELLIGENT SHOOTING HELICOPTERに搭載された『Raspberry Pi』

このヘリには、使用者が装着するヘルメットと一定距離を保つための制御用マイコンとして『ラズベリーパイ(Raspberry Pi)』が使われており、通信のためにLinuxサーバまでが搭載されているという高機能ぶり。この実現においては、ハードウエア制作ならではの難しさを感じたという。

「ソフト開発に関してわれわれはスキルも経験もありますから、どんな実装をすればどんな稼働をするかというシミュレーションはできるんです。ただ、それがどんな環境で、どんな挙動をするかまでシミュレーションするのは難しかったですね」(村井氏)

このアイテムはスノーボードギアなので、スキー場など雪や山を背景とした撮影が必須だ。ほかのアイテムは難なくクリアしたものの、ヘリコプターだけは細かな調整を何度も繰り返したと衣袋氏は振り返る。

「4つのモーターの動きが微妙に違っていて傾いてしまったり、気温や気圧の変化もヘリの動きに大きな影響を与えることが分かりました。スキー場で納得できるモノができるまで、延べ300時間は実験を繰り返したと思います」(衣袋氏)

普段、アプリケーション開発業務に携わることの多い望月さんは、修正の難しさについてこう語る。

度重なるテストで村井氏はヘリの4つのモーター音を聞き分けられるほどになったという

度重なるテストで、村井氏はヘリの4つのモーター音を聞き分けられるようになったという

「Webアプリケーションはここを直せばこうなる、というようにデジタルな世界なので修正が簡単ですし、すぐにできます。でも、ヘリコプターは自然が相手なので、デジタルには解決できない点が多く、そこにも苦労しました」(望月さん)

このほか、グリップをはじめスーツやスノーボード、ゴーグルそれぞれがエクストレイルと連携して、それぞれの動きがスマホでもモニタリングできたり、相互に制御可能といった最先端の機能が盛り込まれている。

こうした創意工夫ぶりは特設サイトで確認できる。

昨年から急速に動き始めたWeb企業のハードウエア分野への進出。2014年はその動きがどのように広がっていくのかが注視されている。

そんな中、徹底して“面白いモノ”にこだわってハード、ソフトの区分けなくチャレンジ精神を持って困難に取り組んでいく面白法人カヤックの今後には期待が持てそうだ。

なお、『X-TECH GEAR』は、今後3カ月にわたって国内3会場で行われる『TransAM JAPAN』で、プロライダーによるパフォーマンスでも披露される予定だ。エクストレイル、プロライダーの動きと、どのように連携して動くのか、ぜひその目で確かめてほしい。

『TransAM JAPAN』開催日程・会場

■1月18日(土) 福島県 星野リゾート アルツ磐梯
X-TECH GEARのパフォーマンスは開会式(10時30分ごろ)にて実施予定。
■2月8日(土) 岐阜県 高鷲スノーパーク
■3月8日(土) 長野県 白馬岩岳スノーフィールド
※TransAMイベント、X-TECH GEARの実演は、天候などの理由で予告なく中止になることもあるとのこと。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/柴田ひろあき