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[連載:社カツ! KLab どぶろく制度] Selfishな開発が、”仕事を生み出す”というエンジニアの本質を呼び覚ます

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エンジニアにとってのモノづくりが本能のようなものだとするなら、あらゆる制約から離れたモノづくりこそ、エンジニアの魅力を再確認する絶好の機会になるのではないか。この連載では、サークル活動などを通じ本業以外の開発を純粋に楽しんでいるエンジニアたちと、そんな彼らの「業務外の社内活動=社カツ」を支援する企業に取材を敢行。一般的な「ワークライフバランス」の枠には収まらない、エンジニア独自の幸せのあり方を探っていく。

KLabには、「どぶろく」という名前の制度がある。「どぶろく」とは素朴な日本酒の一種のことだが、この『どぶろく制度』も、新しいアイデアや技術が芽吹く様子を、どぶろくが発酵する課程になぞらえ命名されたものだ。

具体的には標準労働時間の10%以内であれば、上司に報告することなく自分の好きなテーマで開発したり研究などに充てられるというもの。この制度が作られた2003年以来、KLabの技術力や企画力を支える一つの土台として機能している。

「ネタとしてウケるものから使って便利なものまで、『どぶろく制度』を契機に誕生したツールやサービスは多いですよ」

SNSの活況を受け生み出された、サーバーの負荷試験ができるツール『インターネット破壊』

SNSの活況を受け生み出された、サーバーの負荷試験ができるツール『インターネット破壊』

同社のKラボラトリーでアーキテクトを務める高田敦史氏はそう話す。高田氏自身もこの制度をきっかけに、Googleのストリートビューの画像上に絵が描ける『Paintica(ペインティカ)』や、CUIで使える高機能な負荷試験スクリプト『インターネット破壊』を生み出した。

「人によってこの制度の使い方はさまざまですね。例えばわたしが作った『Paintica』は社内プロデューサーのアイデアを一緒に形にしたものですし、『インターネット破壊』は負荷試験を担当していた時、準備にかかる手間を省くために作ったもの。Flashを使ってファミコンのエミュレータを作ったメンバーもいれば、『Android時代のミニ四駆』と言って、Android端末でミニ四駆を音声コントロールするだけに飽き足らず、逆にミニ四駆自体を入力デバイスにしたなんていうメンバーもいます。入社半年も経たないうちに社内の工数管理システムが不便だといって改良してしまった人もいましたね」

いつ・何を・どうやって取り組むかは、すべて自分次第

『どぶろく制度』自体には、事前申請もなければテーマ選びの規定も、取り組んだテーマを事後どう処理するかを定める規定もない。標準労働時間の10%以内というのも目安に過ぎず、毎日コツコツと時間を充てることもできるし、まとめて時間を割くことも可能だ。

報告の義務もないので、利用してもしなくても、また研究成果を自分の中にとどめておくこともできる。

好きなことを研究・開発できる以外にも意外なところで『どぶろく制度』にメリットがあると語る高田氏

好きなことを研究・開発できる以外にも意外なところで『どぶろく制度』にメリットがあると語る高田氏

「個人的には学んだことや開発の成果を自分以外の人と共有するところに、この『どぶろく制度』の意味があるように思うんですよ。作ったものを人に見せたり、学んだことを発表したりすることが得意な人ばかりではないでしょうし、きっかけがないとなかなかできない人も多いじゃないですか? KLabは、日々の業務の中でも自分の考えや成果を積極的にアウトプットすることを奨励している会社です。そういう環境に慣れるという効果もあると思います」

実際、日々の業務の中でも『どぶろく制度』の成果を発表できる場はいくつもある。社内外で開催される勉強会や部会などの場で発表することも可能だし、面白さや便利さに汎用性があれば外部向けのブログなどを通じて公開することもある。

「わたしが『どぶろく制度』を利用する時は、自分が欲しいものを作るというのが大前提。その上で、同僚や外部の皆さんにも使ってもらえそうなら、どんどん公開するというスタンスですね」

「仕事は自分で創るもの」という言葉は本当だった

エンジニアが自身の「鮮度」を保つには、新しい技術に触れたり、本当にやりたいことに取り組める環境が必要なのは言うまでもない。もし業務の忙しさが理由でこうした機会を逃してしまうエンジニアが増えれば、やがて個人のやりがいは大きく損なわれ、自発性の芽も摘まれてしまうだろう。最悪の場合、人材流出にもつながるかも知れない。

会社がエンジニア個人の新しい挑戦を評価し奨励する環境を作るのは、ある意味、高い技術力を維持するために必要なことなのだ。その一つの手段が、KLabにおいては『どぶろく制度』という形に結実している。

「そもそも、『どぶろく制度』自体が売り上げを作るための制度ではありませんが、スジが良ければ正式なプロジェクトとして発足することもあります。例えば正式なWebサービス企画をすべて『どぶろく制度』内で完成させることは無理にしても、プロトタイプを作ることは可能。企画書や計画書を提出してから開発の承認を得て……みたいなことって、エンジニアにとってはかなりハードルが高いですよね。これをいったん後回しにして、目に見える形にした段階で見てもらえるため話も早いですから、能動的な仕事をしたい人にとっても良い制度になっているんです」

KLabの主力事業の一つであるソーシャルゲーム業界は、技術力のみならず開発スピードがヒットの命運を分けるシビアな世界。ユーザーの反応を見ながら、常にサービスの改良を続けなければいけないジャンルだ。高田氏は、KLabのソーシャルゲーム部門において、各ゲーム開発プロジェクトを横断して技術的な支援を行っている。

「カチッとした決まりが少ないのも、主体性を生む一つの理由かもしれないですね」

「カチッとした決まりが少ないのも、主体性を生む一つの理由だと思います」

「『どぶろく制度』をどう使うかは個人次第みたいなところがあります。新しいことにチャレンジしても良いし、使い慣れたツールを深掘りして理解を深めることに費やしても良い。業務から派生したテーマでもまったく別の切り口でも構わない。そもそも、KLab自体がエンジニアの技術力をどう高めるかについて常に考えている会社なので、『どぶろく制度』はKLabの技術力を支える一つの象徴みたいなものかも知れませんね」

規定が厳密ではない分、自由度が高く、現場メンバーにとって使い勝手が良い制度として定着した『どぶろく制度』。エンジニアにとって技術力やアウトプット力を向上させる上で重要な存在になっているが、高田氏が得たものはそれだけではなかった。

「わたしがこの制度で得たものはたくさんありますが、一番は何かと言われると『何でも自分発信でやって構わない』という確信が得られたことですね。ここではたとえ自分が勝手に始めたことでも、良いものなら正当に評価される風土があります。仕組みはあっても評価が伴わなければすぐに形骸化してしまいますよね。でも、『どぶろく制度』は今も活用されている。この制度をきっかけに、『仕事は自分で作るもの』という言葉が本当なんだと思えるようになったのも、収穫の一つかもしれません」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/小禄卓也(編集部)