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「飽和と細分化」が進んだ今年、あえて低レイヤーのプログラミングを学び直した理由【2012年のインプットlog:増井雄一郎】

公開

 
業界で名の知れたプログラマーは、今年1年何を学んでいたのか? 2012年も残りわずかとなり、いよいよ「年忘れ」の時期になった今、あえて今年1年で学んだことを忘れる前に取材・記録しておこうという本企画。「同業者が役に立ったものは、自分にも役に立つはず」という仮説を基に、彼らの学びlogから、今年の流れと来年の動向予想をしてみよう!
プロフィール

FrogApps Inc. CTO
増井 雄一郎氏 (@masuidrive

大学時代に起業し、2003年にフリーランスへ。Ajax、Ruby on Railsなどを使ったWebアプリ開発や執筆を行う。2008年に渡米、中島聡氏とともにアプリ開発会社を起業。2010年に帰国し、『Titanium Mobile』の伝道師として活躍。2012年秋にTitaniumを展開するAppceleratorを離れ、以前から掛け持ちしていた現職に専念。ブログ『@masuidrive blog』でも情報発信を行う

増井氏の2012年はどんな1年だった?

2010年から続けてきた、JavaScriptによるiOS&Andoroidアプリ開発のワンソースマルチプラットフォーム『Titanium Mobile』の伝道師役を離れ、今秋からグルメ写真共有サービス『miil』を運営するFrogAppsのCTOに専念している増井雄一郎氏。

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FrogAppsのCTOとしてのこだわりを増井氏に取材した際の弊誌レポートはコチラ

フリープログラマーとして自活するため、長年「人より半歩先」を見据えて行動してきた増井氏にとって、2012年は「飽和と細分化」の年だったという。

「『飽和』というのは、特に上位レイヤーで顕著でした。Webサービスでもアプリでも、ちょっと前まではワンアイデアで頭一つ突き抜けることができましたが、今年新たに目にしたものの多くは、堅実に機能を洗練させたものが多かった印象です。競争が激しくなった結果、個々の差別化のポイントが『細分化』していったからではないでしょうか」

次に取り組むべき開発対象を“半歩先”に定めた上で、さらに“半歩横にずらす”ことにもこだわってきた増井氏には、現在の上位レイヤー、つまり各種アプリの開発分野はすでにレッドオーシャン。自分にとっての主戦場ではなくなったと感じているという。

「今年は各種開発フレームワークとかNoSQLのように、新しいツールがずいぶん普及しましたよね。Railsなどもそうですが、個人的に、『仕事として使う人が十分に増えた』分野はもう学習対象ではなくなるんです。そうした状況もあって、今年はより低いレイヤーに目を向けた1年になった気がします」

その一例として増井氏が注力してきたのは、組込みソフトウエア開発の効率化を目的につくられた軽量版Rubyとして今年4月に登場した『mruby』だった。mrubyの生みの親、まつもとゆきひろ氏と増井氏がTwitter上で議論を交わす光景を目にしたプログラマーは多いことだろう。

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mruby登場を受けて増井氏が自作した、RubyでiOSネイティブアプリを開発できるフレームワーク『MobiRuby

「mrubyについては2年ほど前からカンファレンスで話を聞いていて、まつもとさんからちょっとだけ早めにmrubyのソースを見せてもらっていたんです。触ってすぐにMobiRubyを作れることを確信して作業に入りました。ですからインプットの多くも、組込み系、特にmrubyからMobiRubyをいかに作るかについて調べることがほとんどでした」

増井氏は過去にも組込みボードにLinuxを移植したり、ドライバを書く仕事をしていた経験があるそうが、「ちょっと離れている間に、忘れてることも多かった(笑)」という。

「CRubyだとライブラリもあるし、Railsが何とかしてくれるって部分もありますが、組込みだとメモリ管理の細かいところまで自分でやらないといけませんからね。でも、mrubyは未成熟で荒い面がある分、自分にも手伝える余地があると思えたので、それなりに楽しめた1年だったと思います」

と、ここまではプログラマーとしての話。これに加え、今年からFrogAppsでCTOとして開発チームを率いるという新たな役割も加わった。“学び”のソースに変化はあったのだろうか?

「メンバーを抱えて開発するようになったこと自体、僕にとっては新しくインプットをする良い機会だったといえるかもしれません。一緒にペアプロしたり、彼らの反応を見ながら指導していく過程で、気付かされることも多かったですから。そもそも人に教えることで、自分がどれだけ物事をいい加減に理解していたかが分かります(笑)。ブログを使って情報発信する時と同じで、アウトプットがインプットの呼び水になるんです」

では、こうした1年を振り返って、増井氏に大きく影響を与えたインプットlogを具体的に見てみよう。

2012年の増井雄一郎を支えた、注目インプットlog

【1】 mruby
https://github.com/mruby/mruby

さきほどお話した『MobiRuby』のリリースが今年一番のアウトプットでしたから、2012年はそのインプットソースとなった『mruby』をはじめ、C言語や組込み系の知識やノウハウの獲得に努めた年だったと思います。

この件で久しぶりに低レイヤーでの仕事に取り組んだこともあり、アーキテクチャや言語体系など、コンピュータの基礎を振り返った1年にもなりましたね。

【2】 Stack Overflow
http://stackoverflow.com/

StackOverflow

プログラミングに関するQ&Aサイト『Stack Overflow

で、その基礎を振り返る際、例えばコーディングのメモリ管理のやり方や組込みのデバッグなんかで困った時に一番アクセスしたのが『Stack Overflow』でした。

『Stack Overflow』は、世界中から情報技術全般、特にプログラミングに関する膨大なナレッジが集まるサイトなので、技術的な疑問にぶつかった時には必ず覗くようにしています。

このサイトで過去ログを探すたび、「自分が悩んでいることはほかの人も悩んでいるんだなぁ」と思いますね(笑)。

【3】 チームマネジメント関連の情報(はてブ&Zite)
http://b.hatena.ne.jp/
http://www.zite.com/

zite-site

パーソナルマガジンとして海外で有名な『Zite

これに関しては、ほかの人が書いたマネジメント論的な記事をあまり参考にすることはありません。でも、はてブに挙がってくるような人気エントリには、一通り目を通すようにしています。

それと、英語圏の情報はレコメンドアプリの『Zite』で読むことが増えましたね。これは、Twitterアカウントでツイートされたコメントやシェアされたリンク、RSSリーダーで購読している内容を基に、ユーザーが興味を持つ記事を探してきてくれるデジタルマガジンなのですが、けっこう精度が良いのでよく参考にしています。

2013年はビッグデータ解析技術の普及と身体性拡張デバイスに注視

iPad-coding

From masuidrive76 増井氏が「iPad miniで持ち歩けるコーディング環境」を自作した理由は?

「ビジネス的にはそろそろ来年あたりから、大規模データの解析技術の普及期に入るんじゃないでしょうか。ベンチャーや一部の大企業から、より多くの企業へ、という流れが少しずつ形になるのではと思います。エッジに属するような最先端技術が一般に普及するのは、だいたい2年から3年後。そう考えると、来年あたりから本格化すると見るのが妥当でしょうね」

一方、イチプログラマーとしての関心は、毎日持ち歩くデバイスの動向に興味を惹かれていることが多いという。

「先日もブログに『iPad miniで持ち歩けるコーディング環境を作る』というエントリを書いたんですが、以前からiPadやiPhoneのような身近なデバイスに関心があるので、身体性の拡張につながるような、ウエラブルPCやGoogle Glassのようなテクノロジーの動向にも興味があります。来年どう動くか分かりませんが、今後注目したい分野の一つですね」

取材・文/武田敏則(グレタケ) 撮影/竹井俊晴(本人写真のみ)

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