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「Lean UXとは組織文化をデザインすること」監訳者が明かす、UXデザインの本質

タグ : Lean UX, UI/UX, マリッサ・メイヤー, 坂田一倫 公開

 

いまや、スタートアップや新規サービス開発のバイブルとなっている、エリック・リース著の『リーン・スタートアップ』。

そのリース氏本人をシリーズ・エディターに迎えて展開している書籍シリーズ『THE LEAN SERIES』の第2弾が、オライリー・ジャパンから発刊され話題になっている。

Lean UX―リーン思考によるユーザエクスペリエンス・デザイン』と名付けられたその本は、昨今、機能開発以上に重要視されているUI/UXデザインについての手法が多数紹介されている。

3月6日、東京・六本木ヒルズのGREEセミナールームで開催された出版記念イベント『Lean UXが拓く最適なデザイン』に400名を超える聴講者が集まったことからも、この分野へ興味を持つ人が増えているのが窺えた。

このイベントでは、本著の監訳者であるコンセントの坂田一倫氏が登壇し、リーン思考でUXデザインを実践するためのポイントを披露。その内容を紹介しよう。

マリッサ・メイヤーが「在宅勤務禁止」に動いた本当の理由

From Jeffrey Zeldman 米Yahoo!の立て直しに奔走しているマリッサ・メイヤー

「Lean UXとは何かを一言で説明するならば、『組織文化をデザインする』ということになる」

セミナーで、坂田氏は開口一番こう切り出した。UXデザインは、デザイナーやエンジニアだけの仕事で完遂できるものではなく、まさに「組織が一丸となって行う仕事」であるというのがその理由だ。

開発現場を考えても、昨今のサービス開発では、スマホ対応やソーシャルコミュニケーションなど、機能そのものを作る以外の部分が重要度を増している。

「対応すべきことが増えれば増えるほど、どんどん組織が肥大化していく。その過程で最も気を付けなければならないのは、組織文化を見失うことだ」と坂田氏は話す。UXデザインを実践していく際の一つ一つの作業が、属人的になったり、担当部署ごとに分断されてしまうと、部分最適に陥ってしまう。

結果、本来ユーザーに提供したいと考えていた体験価値そのものが見えなくなってしまうのだ。

「そういう視点で言うと、もう『チームから離れて働く贅沢』は許されない時代なのだと思います」(坂田氏)

それゆえ坂田氏は、日々コンセントで行っているコンサルティング時も、Lean UXを「組織文化のデザイン法」と言い換えて伝えているという。そして近年、このLean UXで最も象徴的な成功を収めたのが、マリッサ・メイヤー就任後の米Yahoo!だと説明する。

「マリッサ・メイヤーが在宅勤務を禁止したというニュースは日本でも報道されていましたが、あの決断の本質は、社員同士の距離を物理的に縮めて、一緒に働く文化を再構築することだったと考えています。オフィスという物理的な場所を共有することで、ランダムにアイデアが生まれるようになるからです。マリッサ自身も、『人は1人でいる方が生産性は上がるが、集団になった方がイノベーティブになる』と話しています」

素晴らしいアイデアとは、どうしようもない2つのアイデアをくっつけた時に生まれる――。この偶然を必然に変える文化づくりが奏功し、現在のYahoo!は株価も上昇。低迷から脱しつつある。

新しい価値を生むための基盤として、組織文化の醸成が必要条件の一つであるということは、この事実からも推察される。

デザイニングカルチャーを作る上でカギを握るのは「つんつんする人」

当日行われたパネルディスカッションの様子

では、こういった「デザイニングカルチャー」を作り出すには、どうすればいいのか。『Lean UX』の中にも多数のヒントがちりばめられているが、ここでは、坂田氏と共にセミナーに登壇していた

◆工藤博樹氏(自動会計クラウドサービス『MerryBiz』運営・Lean Startup Machine Tokyo
◆松井田彰氏(学校用SNS『Ednity』運営)

の3名に、モデレーターを務めたグリーの村越悟氏が質問した内容を抜粋して紹介しよう。

Q.チームづくりでは、どこかで必ずコンフリクトが起きるものだが、どうやって解消していくべきか?

「モノを作るという点や、体験を作るという点で、全員がデザイナーだという認識を生むのが大切。だから、UXデザインでは場づくりを率先して行うファシリテーターが最も重要になる」(坂田氏)

「『Ednity』が5人のチームで開発しているので、UXデザインも全員参加でやっている。それでも、各フェーズごとに見ると、『人数多いよね』となるシチュエーションが出てくるので、『じゃあ今度は3人でやってみる!?』と、いろいろ試行錯誤しながら進めている。参加する人数よりも大切なのは、『みんなが理解できる枠づくり』だと思う」(松井田氏)

「わたしは社長なので、開発チームは最終的な判断を僕に求めるのが通例だが、UXづくりに関しては全員が自分に承認を取る体制をやめた。実際、デザイナーをUXデザインのリーダーに任命して回していくようにしたら、うまく進むようになった。僕は“つんつんする人”(※「みんな何か思ってないの? みんなでやろうよ」とせっつく役のこと)に徹している」(工藤氏)

Q.具体的に、どうすればチームでアイデアを出し合うようになるのか?

「例えば、『これまで議論したアイデア』を廊下一面にポストイットで貼りまくってみる。そうすると、通る人全員がアイデアを見て、意見を出してくれるようになったりする」(坂田氏)

Q.UXデザインの意義を社内に広め、組織横断で行う際、上司や経営陣にはどうやって「投資対効果」を伝えればいい?

「具体的な課題(例えば『お問い合わせページ』に人が来ないなど)を掲げて、それをどう改善するか皆で話してみる。それが一番早くできるし、経営者目線では最も投資対効果が高いと思う」(工藤氏)

「そもそもUXデザインは文化づくりだから、そこで『効率』や『投資対効果』を問うのはちょっと違う。なぜなら、文化づくりは費用をかければできるものではないから」(坂田氏)

「求心力になるのは、やっぱり『お互いに興味持てること』を設定することだったり、そもそも相手に興味を持つこと。興味があることには、人は自然と参加する」(工藤氏)

「リーン・スタートアップが成長のエンジンだとすれば、Lean UXは学びのエンジン。その効能は短期的には見えづらいかもしれないが、長い目で見て組織内に理解を広めていくのがベターだと思う」(坂田氏)

取材・文/伊藤健吾(編集部)