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100万超の口コミを集めたマンションノートが、東大大学院と共同で「住み心地ビッグデータ」の解析に乗り出す理由

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今年3月25日、マンション口コミサイト『マンションノート』を運営するレンガは、東京大学大学院の北垣亮馬講師(工学系研究科建築学専攻)と「集合住宅に関する評価基準」について共同研究を開始したと発表した。

昨年弊誌でも取り上げた(過去記事参照)とおり、『マンションノート』とはマンション購入検討者が事前に物件の評判を調べることのできる口コミサイトだ。

全国数十万件のマンションを対象に、住人および元住人、周辺に住む人や専門家、不動産業者、物件オーナーなどがそれぞれの立場から評価を投稿。その定性データ=口コミ情報の検索機能のほか、マンション自体のスペックと周辺情報をスコア化した定量的な評価を掛け合わせて、独自にスコア化してランキングを表示するのが特徴だ。

2013年3月にβ版をオープンした後、さまざまなメディアに取り上げられたこともあって、2013年末の時点で口コミ数が100万件を超えたこともアナウンスされている。

不特定多数のユーザーによる口コミという“主観”を、客観的なデータとしてスコアリングに活かす試みが注目を集めた格好だが、今回発表した共同研究によってマンションを評価する精度をさらに高めていくのが目的だという。

「市井の声×公共・学術データ」で、不動産売買を新たなフェーズに

(写真左から)レンガ代表取締役社長の藤井真人氏と東京大学大学院の北垣亮馬氏、レンガ執行役員の小原和磨氏

共同研究の一翼を担う北垣氏の専門は、建築材料工学の研究に実績を持つが、それ以外にも、GIS(地理情報システム)を応用して各地域の住環境を統計学的に解析する研究を行うなど、幅広い知見を持っている。

レンガの代表取締役である藤井真人氏はスコアリング精度の向上を模索する中、北垣氏とディスカッションを複数実施し、スコアリングに活用できるデータの存在や、その活用方法について具体的なアドバイスを受けたのが、共同研究のきっかけだったと話す。

「マンションノートはサイトに『β版』と明記しているように、マンションのスコアリング精度をもっと高めるにはどうしたらいいのか、日々考えてきました。物件の口コミ評価だけでなく、例えば花粉や騒音、PM2.5などといった『住環境にかかわるもの』すべてを定量的に評価するには、どんな指標をどう組み込めばいいのか。それを考える上で、幅広い分野の専門家の方に意見を伺う中で、北垣さんの持つ豊富な知識に惚れ込んだのです」(藤井氏)

「一般に公開されている国勢調査のデータを含めて、住環境に関連するデータはたくさん存在しています。でも、それを一般市民の方々が不動産売買の参考にできる情報として加工し提供しようとする試みは、過去にあまりなかったのではないでしょうか。だからこそ、レンガが行っているマンションの評価方法に興味を持ちました」(北垣氏)

これまで、マンションノートが行ってきたようなアプローチでマンションの評価を行うWebサービスは皆無だった。不動産物件を検索する際に参照できたのは、せいぜい物件の築年数や間取りといったデータと、周辺環境についての最低限の定性情報だ。

マンション購入を検討する側も、ネット上の評判だけで購入を判断するのは早計だと考え、現地に足を運んで不動産業者とともに見学する場合がほとんどだろう。

そこで、「現地に行かないと分からないような住環境情報も、種々のデータを組み合わせてスコア化することで、行かなくても分かるようにする」(北垣氏)のが、共同研究の狙いとなる。

ネット検索は、一度に大量のマンション情報を調べることができるのが利点だ。この利点を最大限に活かすべく、マンションノートはあえてマネタイズしにくい領域を極めて、サービスの信頼性を高めてようとしている。

将来的には、評価スコアのパーソナライズも視野に

「住み心地ビッグデータ」の抽出と解析方法について語る、北垣氏と小原氏

では、この「信頼性」を上げるために、具体的にはどのような取り組みを行っていく予定なのか。

レンガの執行役員で、マンションノートの独自スコアを算出するアルゴリズムを開発した小原和磨氏は、口コミ情報と客観データの組み合わせで評価スコアの精度を高めたいと話す。

「マンションノートではこれまでも、客観データを使ってスコアを算出してきましたが、今後スコアの算出に利用する客観データを増やして精度を改善していくために、まずは基本となるアルゴリズムの改善に取り組んでいきます。マンションノートには100万件以上の口コミ情報がありますので、スコアと口コミ情報の相関関係を見極めながら進めることで、より精度の高いスコアを提供することができるのはないかと考えています」(小原氏)

「まずはどんなデータを取り入れることがスコアリング精度の向上に役立つのかを検討しながら、順次、マンションノートをグレードアップしていく予定です」(藤井氏)

さらに先の構想としては、スコアのパーソナライズ化や、サイトユーザーの持つスマホからの情報収集も考えられると明かす。

「住まいというのは家族構成によっても良し悪しの価値基準が変わって来るため、単純に総合スコアの高いマンション=良いマンションとは限りません。例えば、お子さんがいる家庭は夫婦2人の家庭に比べ、住む地域の環境面や病院のような公共施設の存在を重視するかもしれません。こういった属性情報も加味して、マンション評価のスコアが変わっていくような仕組みも導入できたらと思っています」(小原氏)

「また、いよいよ普及フェーズに入ったスマートフォンに搭載されている各種機能が、空気環境や騒音の感度センサとなって、マンションの内覧者からも許諾を取った上で”データ”をいただくことが可能になるかもしれません。そうやって、マンション評価に必要となるデータを『取りに行く』ことも、精度を上げるやり方の一つになるかもしれません」(藤井氏)

いまやさまざまなネットサービスの基盤となっているGoogleも、検索アルゴリズムを高めるためのエンジニアリングに加えて、Googleカーを各地域に投入することで地理情報などを収集してきた。発想としては、これに近い形で住み心地に関する情報を取得していく構想である。

”マンション探しのGoogle”を目指すマンションノートの進化に、さらなる注目が集まりそうだ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/伊藤健吾(編集部)