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まつもとゆきひろ×増井雄一郎のオープンソース談義 「1人の熱烈なフォロワーがいれば、OSSで世界を変えられる」

公開

 

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「まつもとさんと日本のオープンソースが世界で生き残るために的な対談みたいなものをしたいなぁ」

今回取り上げる“オープンソース談義”は、そんなFecebookポストから生まれた。

まつもとゆきひろ氏(以下、Matz)が昨年4月に一般公開したmruby(組込み向け軽量Ruby)をもとに作られた、iOSネイティブアプリ開発を可能にするオープンソース・フレームワーク『MobiRuby』。これを開発した増井雄一郎氏が、普及に向けてMatzに話を聞きたいという趣旨のつぶやきだ。

このポストを偶然発見した弊誌編集部がサポートを名乗り出たところ、3月11日に東京・秋葉原で行われた『Ruby東京プレゼンテーション2013』で2人ともトークセッションの参加予定があったため、急遽、対談という形で公開質問が実現した。

当日の対談には、IT分野の人材育成サービスを手掛けるコンテンツワン取締役で、独自のエンジニア紹介サイト『Webエンジニア武勇伝.net』を運営している川井健史氏も参戦。ファシリテーターとして対談に加わってもらった。

Rubyも誕生20周年という節目を迎え、いまや世界中で使われるプログラミング言語となった。その普及プロセスをMatzに改めて振り返ってもらいつつ、ディープなオープンソース談義は進んでいく――。

プロフィール
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Ruby / mruby開発者
まつもとゆきひろ氏(@yukihiro_matz

“Rubyのパパ”として知られる世界的プログラマー。筑波大学第三学群情報学類を卒業。1993年にオブジェクト指向スクリプト言語Rubyの開発に着手、1995年に公開。現在はネットワーク応用通信研究所(NaCl)および楽天技術研究所のフェロー、Herokuおよびグルーブノーツのチーフアーキテクトを兼務。「Matz」という通称で親しまれる

プロフィール
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FrogApps Inc. CTO
増井 雄一郎氏(@masuidrive

大学時代に起業し、2003年にフリーランスへ。Ajax、Ruby on Railsなどを使ったWebアプリやOSS開発、執筆活動などを行う。2008年に渡米、中島聡氏とともにアプリ開発会社を起業。2010年に帰国し、Titanium Mobileの伝道師として活躍。2012年秋から現職。ブログ『@masuidrive blog』でも情報発信を行う

GitHubの誕生で、コントリビューターの存在意義が高まった

Matz そもそも増井さんがMobiRubyを世界に広めたいという一番の理由って何?

増井 オープンソース開発の世界で自分のアイデンティティを築きたいという思いからです。もし海外で働きたい、エンジニアとして知名度を上げたいと思った時に、何かプロダクトがないと難しいかなと。なので、今はMobiRubyを成功させたいと思っているんです。

Matz なるほど。何でも聞いてください。

増井 まず、オープンソース開発でこの10年の間に大きく変わったのが、コミュニティのあり方だと思うんです。特に、GitHubがあるかないかってすごく大きい。まつもとさんは、GitHubがあることで一番違うと感じるのはどんなところですか?

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いまやオープンソース開発に欠かせないものとなったGitHubについて話す2人

Matz 10年くらい前、つまり「GitHub以前」って、バグレポートもイシュー管理も新しいリクエストも、パッチもアナウンスも何もかも全部メーリングリストでやってたじゃない? でも、メーリングリストって非構造的なメディアなので、トラッキングが大変なんだよね。

増井 分かります。

Matz ソースコードそのものはバージョン管理システムがあるからいいんだけど、それとの紐付きはリビジョンのナンバーしかないので、どうしてもコントリビューターとのつながりが緩くならざるを得なかった。でも、GitHub上だとリポジトリ制作とかPull Requestとかリポートとか、あらゆることが行える。やっぱり楽だよね。一つのサービスにすべてを預けて大丈夫かな、と思うことはあるけど。

増井 Pull Requstがあるから、管理者が少なくて済むというか。

Matz そうそう。

増井 これまでのオープンソースプロジェクトって、「コミッターとコントリビューターは明確に違う」という、ある種の階層構造があったと思うんですが、それがGitHubの登場でなくなりつつあるんじゃないかと。言い方を変えれば、コントリビューターの存在価値が大きくなった。

Matz 確かに、そういう変化はありますね。

増井 ただ、mrubyは、開発を始めてから2年くらいはオープンソースとして公開せずに作業していた時期がありましたよね? 何か理由があったんですか?

Matz 2つあって、まず経済産業省が絡むプロジェクトだったので、プロジェクト完了前にわたしの一存でオープンソースにしていいものか判断がつかなかったから。それと、当時はまだ動いてなかったから。動いてないものをOSSにすると、失敗するっていうジンクスがあるからね。

増井 なるほど。先日、福岡でまつもとさんと「MobiRubyが生き残るためにどうすればいいのか?」を少し話した時、「OSSは1人のフォロワーがいれば生き残る確率が高い。2人目が出てくればその確率がさらに上がる」と言っていたのを聞いて、あるTED動画(以下参照)を思い出したんですよ。


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Matz あ、デレク・シヴァースの「社会運動はどうやって起こすか」だね。

増井 ええ。あの動画の中では、「最初に裸で踊り始めたバカ」をリーダーに変えるのは1人目のフォロワーで、彼が2人目、3人目のフォロワーを呼ぶ、だからものすごく価値が高いんだという示唆がありますよね。

Matz OSS開発でも、1人でやっているとインプットがないので自分の考えだけでやらなくちゃいけない。でも、「1人目のフォロワー」がいると、自分とは違う発想が出てくるので、それがインプットになって継続していける。だから、プロジェクトにかかわっている人が常に複数いるっていう状態が美しいんだよね。

「1人目のフォロワー」を惹き付ける4つの要素

増井 チームビルディングの大切さにも通じますね。

Matz ここで今回の増井さんの問いに答えるなら、OSSを作ったプログラマーが、フォロワーを惹き付ける求心力を提供できるかどうかが、スケールさせるためには大事なんじゃないかな。

川井 その求心力になるものとは何なのでしょう?
(次ページへ続く)