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アプリ開発からスマートグラスOS開発へ~『mirama』がウエアラブル界の巨人を目指す「3つの戦略」【特集:New Order】

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ブリリアントサービス ヨハネスルンベリ氏【特集:New Order】
株式会社ブリリアントサービス シニアエンジニア
ヨハネス ルンベリ氏

母国スウェーデンで電気技師として従事。その後、30歳でスウェーデン王立工科大学に入学。大学では物理と数学を専攻。東工大への交換留学をきっかけに日本のモノづくりに興味を持つ。卒業後、株式会社ブリリアントサービスに入社し、『mirama』の開発チームリーダーを任される

今年2月下旬にスペイン・バルセロナで催されたMWC2014(Mobile World Congress 2014)と3月25~26日に東京ミッドタウンで行われたWearable Tech Expo Tokyo 2014では、世界中から多彩なウエアラブル機器が出品され、デモンストレーションが行われた。

このイベントで、指輪型の『Ring』やスマートトイの『Moff』などとともに、ひときわ注目を集めたウエアラブル機器が、スマートグラス『mirama』だ。

現在販売している『mirama』のプロトタイプ。将来的にはPC無しで起動できるようになるという

現在販売している『mirama』のプロトタイプ。将来的にはPCなしで起動できるようになるという

『mirama』のビジネスモデルが他社と異なるのは、完成品のスマートグラスを一般に販売するだけではなく、専用OSである『miramaOS』と、エンジニアなどが自由にアレンジ可能なIDEとSDKを提供する点だ。

これをもとに、ハード・ソフトを問わず最終製品づくりを目指す企業および個人の参入をうながしていくことになる。

提供元のブリリアントサービスで、『mirama』の開発を手掛けたヨハネス・ルンベリ氏に聞くと、その狙いは次の3つに集約できるという。

【1】手と指の「ジェスチャー」操作による他機器との差別化
【2】技術で実現した高いユーザビリティ
【3】独自のインフラとプラットフォーム提供による新たなマーケットの創造

他社とは一線を画した事業戦略で、ウエアラブル市場の開拓を始めたブリリアントサービスの取り組みをひも解く。

【1】手と指の「ジェスチャー」操作による他機器との差別化

上の動画や2つの展示会でのデモで話題になったのが、メガネをかけたユーザーが、画面に写し出された自身の手を使って操作する独自の「ジェスチャー」機能だ。

「このプロジェクトを始めた時から、スマートグラス型で手や指の『ジェスチャー』で操作するというコンセプトは決まっていました。それを実現するために、世界中のメーカーを対象に、センシングデバイスやメガネ部分の材料探しを始めました」(ルンベリ氏)

メガネ本体の白い部分に搭載したRGBカメラとデプスカメラでユーザの動きを確実に捕捉することができる

メガネ本体の白い部分に搭載したRGBカメラとデプスカメラでユーザの動きを確実に捕捉することができる

屋内・屋外のさまざまな環境でも手や指の動きを確実にキャッチできるよう、メガネの部分にはRGBカメラとデプスカメラを搭載。

赤外線の反射時間で対象との距離を測り、ジェスチャーによる操作を可能にしている。

「実際にかけてみると分かりますが、普通のメガネと変わらない視野の広さと明るさを実現しています。周囲がごく自然に見えていながら、写っている人を識別したり、自由に大きさを変えながら写真の撮影ができるようになっています」

さらにフリーハンドによる絵や文字の入力、その内容を撮った写真の添付を含めたメールの送受信も可能。まさに、スマートグラスとしての基本性能をカバーしている。

【2】技術で実現した高いユーザビリティ

現在販売している『mirama』はまだプロトタイプ。しかし、この段階でも手や指のジェスチャーをとらえたり、ジェスチャーによる操作のレスポンスはかなりスピーディーだ。

「ユーザーが使う時にできるだけストレスを感じることのないよう、速いレスポンスの実現にはかなり苦労しました。それでもブレることなく確実な操作ができるように、物理的なシミュレーションの調整も特に力を入れた部分です」

電気技師をしていたルンベリ氏はアプリケーション開発を学ぶため30歳で大学に入学した

電気技師をしていたルンベリ氏はアプリケーション開発を学ぶため30歳で大学に入学した

スウェーデン出身のルンベリ氏は現在38歳。30歳の時、電気技師からアプリケーションエンジニアへの転身を目指して母国の大学へ入学。5年間の在学と日本への留学を経て、ブリリアントサービスに入社した経緯がある。

「大学では数学と物理を専門的に学んでいたこともあって、ハードウエアをどう制御すればユーザーにとって使いやすいUI・UXが実現できるかということに役立ちましたね」

実際に装着してみると分かるが、写し出される画面が多少ブレていても、手や指のジェスチャーとアイコンの操作がスムーズにできる。

「スクロールがスムーズにできるOverScrollや、アイコンに着実にタッチできるなど、今スマートフォンに標準で装備されている機能性はできるだけ実装しています」

現在のスマホに変わるデバイスとしての利用を期待されている『mirama』にとって、スマホレベルのUI・UXを実現することは大前提。

今までスマホを利用していたユーザーにはもちろんのこと、早期段階での業務用での導入が予想される工事関係者など、使う人を選ばないUIづくりに注力している。

【3】独自のインフラとプラットフォーム提供による新たなマーケットの創造

冒頭に紹介した2つの展示会をはじめ、現在、世界中で多種多様なウエアラブル機器の開発が進んでいる。『mirama』が他社製のデバイスと最も異なるのは、ユーザー向けの最終製品ではなく、スマートグラス専用OSそのものを製品としている点だ。

「ウエアラブル分野のマイクロソフトになる、というのが当社の戦略です。ですから、あえて最初からAndroidやiOS、一般的なOSSによる開発はしていません」

『mirama』に搭載している『miramaOS』は、UNIX系のFreeBSDで開発されている。Linuxなどに比べ、自由度の高い開発が可能だが、採用している企業やエンジニアの絶対数が少ないため開発には苦労が多かったという。

事実、ブリリアントサービスも主力事業はAndroidをベースとしたアプリ開発で、ルンベリ氏自身も 『mirama』の開発に取り組む前はiOSでのアプリ開発を手掛けていた。

「AndroidやiOSは主流のOSとなったので、活用できるツールや参考になるドキュメントも多いんですが、FreeBSDの場合は手掛けている人が少ないのでほとんどゼロからの開発でしたね」

「ウエアラブル分野のマイクロソフトを狙いたい」との言葉通り、同社は『miramaOS』の提供で、まずはスマートグラスで新たな市場を開拓し、シェア寡占を目指しているのだ。

「IDEとSDKの提供で、ハード・ソフト開発を問わずさまざまな分野から参入してもらうことが当社のビジョン。『mirama』はそのためのプラットフォームとしての役割を担いたいですね」

同社がスマートグラスとして提示した『mirama』は、インフラとしてのウエアラブルの原型。このOSを基盤に、多種多様なアプリ開発が進んでいくことが、ウエアラブル分野の進化にもつながっていくだろう。

スマホの機能すべてを備えることがウエアラブル機器の最終進化形?

さて、Wearable Tech Expo Tokyo 2014の開催と同時に明らかになったのが、FacebookによるOculus VR買収だ。Oculus VRはゲーム用VRヘッドセット『Oculus Rift』の開発で、ゲーム業界だけでなくVR、AR分野からも注目を集めていたスタートアップだ。

ブリリアントサービスが『mirama』の開発を通して実現したのも、かなり近い技術分野と言える。

「バルセロナでMWCに参加した時に特に関心が高かったのが、産業や医療の分野。日本では自動車メーカーからもオファーがありますね」

『mirama』は写し出されている空間を遠隔で共有することが可能。建設や工事、医療の現場で作業の様子を写し出して操作や指示もできる。クルマやバイクの運転時に前方や周囲の状況に応じて、マシンを自動制御するなどの使い方も想定できる。

ルンベリ氏が目指すのは、『mirama』を搭載したスマートグラスがスマホ代わりに活用されることだ。

『mirama』の完成イメージ。最終的にはグラスも透明になり、コード類も排除され、大きさもコンパクトに

『mirama』の完成イメージ。最終的にはグラスも透明になり、コード類も排除して、大きさもコンパクトにしたいそう

「プロトタイプはまだまだ大きくてかさばりますが、将来はスタイリッシュなサングラスにまで小型化したいと思っています。電源の供給やインターフェースなど課題は多いですが、そこまで実現できれば、ウエアラブルはもっと普及していくと思います」

スマートグラスをかけていれば、スマホを持ち歩かなくても必要に応じて通話ができ、メールの送受信も可能。

多彩なアプリを起動しながら、画像や映像も自由に共有できる――。『mirama』はウエアラブルが目指すイノベーションの方向性を見いだすソリューションの1つと言えるだろう。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴

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