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MOVIDA JAPAN伊藤健吾氏が明かす、スタートアップ「淘汰の時期」を生き残る4つの打ち手

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ブームには、必ず光と影がある。

App StoreやGoogle Playといったアプリプラットフォームの隆盛は、個人でも世界に向けてサービスを届けるのを可能にした一方で、“アプリの海”と呼ばれるマーケットの飽和を招き競争を激化させた。

AWSのようなクラウドサービスの普及は、IT・Webサービスの立ち上げに掛かる金銭的負担を劇的に軽くした一方で、類似サービスが生まれやすい状況を生み、淘汰のサイクルを速めている。

日本では2000年代初頭以来とされる現在のスタートアップブームも、同じように光と影がある。ここ1~2年で、堅調に成長するスタートアップと、サービス停止や方向転換を余儀なくされる企業とが明確に分かれ始めてきたのだ。

ソーシャルゲームの流行を支えてきたSAP(ソーシャルアプリプロバイダー)が、今年に入って軒並み業績不振に陥っている状況を例に挙げるまでもなく、「皆が一緒に伸びていく」フェーズは終わりを告げたということだろう。

そこで、スタートアップのシードアクセラレーターとして活躍するMOVIDA JAPANの伊藤健吾氏に、新興企業がこれからの時代を生き残るためのポイントを聞いた。

伊藤健吾氏へのインタビューは、Webキャンパス『schoo』の公開取材として行いました。録画はコチラ

自らの失敗体験で痛感した、“風を読む”ことの大切さ

「2030年にはシリコンバレーを越える」を合言葉に、東アジアを中心とするベンチャー生態系を作るための各種プログラム(詳細はリンク先)を提供してきたMOVIDAでは、起業家育成から投資事業、うまく行かなかったチームの再起業支援までを行っている。

MOVIDA JAPANが構築しようとしている「ベンチャーエコシステム」の図

伊藤氏はその過程で数百、数千のシード=サービスの種を見聞きし、サービスの成長と衰退を傍で見つめてきたわけだが、起業後の成否を分ける重要な要素の一つには「時の運」があると一言。

身も蓋もない発言のように思えるが、「特にWebサービスの成否はデバイスや通信環境といった外的環境によって左右されるし、手掛けるサービスの種類によってはパラダイムシフトが起きるまでに要する時間も異なる。だから、起業家は“風を読む”ための努力が大事になる」と伊藤氏は続ける。

この発言の裏側には、2007年、自身が経営者として立ち上げたある動画サービスでの失敗体験があるという。

「2005年12月にYouTubeがサービスを開始し、日本でも翌年12月からニコニコ動画がスタートしたのを受けて、これからは動画をまとめて検索できるサービスが必要になるだろうと予測していました。でも、実際に動画数が劇的に増えたのはもっと後で、2007年時点で動画検索サービスは無用の長物だったのです。この経験から、サービスの立ち上げは、ロジックよりも出すタイミングが重要なのだと身を持って学びました」

では、どうすれば“風を読む”ことができるのかを知りたいところだが、伊藤氏自身「もし完ぺきに風を読めるならば、僕はとうの昔に大金持ちになっている」と笑うように、時流を的確に読み解くのはなかなか難しいもの。

それでもサービスを発展させるためにやっておくべきことを、MOVIDAの投資先や成長著しいサービスの事例を挙げながら説明する。

成功事例に学ぶ、サービスを成長させる処方箋

11月28日に行った、schooでの「公開取材」の様子

【1】「歯を食いしばってやり続ける」価値があるかを見極める

精神論のように感じる人もいるかもしれないが、この真意は「サービスの種類によって、事業が立ち上がるまでに要する期間も変わってくる」という点にある。

「例えばC2Cマッチングを促すようなサービスは、楽しさや面白さが支持されれば一気に収益化できるゲーム事業などと異なり、本格的に立ち上がるまでに長い時間を要します。最近『新しい働き方』と注目されているクラウドソーシングも、日本における先駆者であるランサーズクラウドワークスは、今の地位を得るまでに長期間掛かっているのです」

ランサーズが2008年12月から、つまり5年も前からサービスを開始していたのを考えると、伊藤氏の言う「立ち上がるまでの期間」がソーシャルゲームなどに比べて長かったのは一目瞭然。この類のサービス(伊藤氏はほかにも「教育関連事業」などを挙げる)を育てるには、すぐにスケールしなくても「歯を食いしばってやり続ける」意味があるということだ。

逆に言えば、例に挙がったゲーム系や、マーケット自体がすでに成熟しているサービス領域では、「うまくいかなかったら固執せずにピボットを考えるのも大切」だという。自分たちが手掛けるサービスが、そもそもどんなタイムスケジュールで育っていく性質なのか、事前に把握しておくことが問われる。

【2】「小さなピボット」を有効活用する

ピボットとは「片足を軸にして体を回転させる」ことを示すが、伊藤氏は「起業直後はどんなサービスもまだ『成功のカケラ』しか持っていない場合が多く、小さなピボットを繰り返しながらサービスを磨いていくのが大事だ」と話す。

「シードアクセラレーターとして知られるOpen Network Labの4期生であるFablicが開発するフリマアプリ『Fril(フリル)』は、当初普通のフリマアプリだったのを女性向けにシフトさせてから大きく成長したと聞いています。また、MOVIDAが投資しているソーシャル旅サービスの『trippiece(トリッピース)』も、起業当初はコンセプトがよく分からないものだったけれど、試行錯誤する中で『コミュニティ内で旅の仲間を募り』、『一定人数が集まったら旅行会社と連携してプランを実現させる』というサービス軸が固まり、多くのユーザーを獲得しています」

例に挙がった2つのサービスは、ともに基本コンセプトや起業時の思いはそのままに、提供する機能やユーザーターゲットを変えることで大きく成長してきた。

どんな方向に軌道修正するかは、【1】で記した条件も踏まえながら考える必要があるが、その判断材料として「ベターチョイス」を提供してくれるのが、次に説明する部外者の声だ。

【3】サービスを発展させる「部外者」を見つけ、取り込む

ここで言う「部外者」とは、時にユーザーであり、先輩起業家であり、伊藤氏のようなシードアクセラレーターである。

サービスの良しあしを客観視して意見してくれる人がどれだけいるかで、現状認識から改善点の明確化、次に進むためのステップを用意する上で糧となる。

「われわれが投資している本の要約サイト『flier(フライヤー)』の例を挙げると、彼らは今年10月にサービスを立ち上げた直後から大手出版社との提携や法人版の提供が好調に進み、勢いづいていたところ、クラウドワークスの吉田浩一郎さんから『ローンチ直後の反響は“新歓コンパ”と同じだ』という助言を受けて拡大戦略を見つめ直したそうです。こういう一言が、一度ついた灯を消さないために重要なんですね」

日本IBMやトーマツといった大手企業への導入など、好調なスタートを切った本の要約サイト『flier(フライヤー)

ほかにも、MOVIDAが定期的に開催する起業家向けノウハウ共有会『MOVIDA SCHOOL』に登壇した家計簿サービス『Zaim』の閑歳孝子さんは、サービス発展のポイントとして「超素早くユーザーの問い合わせに対応すること」を挙げていたそう。

サービスが抱える本質的な課題は、ユーザーの問い合わせに隠されていることが多いと考えているためだ。

【4】「ハグしても違和感のない人たち」でチームを編成する

最後に、ここまで挙げたポイントを日々実践し、またはやるべき打ち手を議論しながらサービスを伸ばしていくには、同じ志と実践スキルを持つチームが重要になる。

その作り方について、「成長するサービスのチーム編成は100社100通りあるが、失敗するケースはある程度共通している」と伊藤氏は語る。

その共通項とは、「文化の違う人が混ざっているケース」だという。

「これはエニグモのCEO須田将啓さんがおっしゃっていた言葉ですが、チームづくりや採用では『ハグしても違和感のない人を入れること』を重視しているそうです。これをわたしなりに解釈すると、自分たちと文化の違う人がチームの中にいると、うまくいかない時に瓦解してしまうということなのだと思います」

文字通り日々状況が変わってしまうスタートアップでは、事業の方針(例えばマネタイズの方法や開発方針、ピボットのやり方など)が朝令暮改になることも日常茶飯事。そんなジェットコースターのような毎日を共に乗り越えながらサービスを拡大させるには、スキルや利害以上に大事な結節点が必要になる。

それが、価値観や情熱のような感性面での合致なのだろう。

では、そんな仲間を探すにはどうすればいいのか。これもやり方はケースバイケースであることから、伊藤氏が教えてくれたある素敵な事例をもって解決策を示したい。

「MOVIDAが支援しているスタートアップの一つで、『ストリートアカデミー』というスキル共有サービスがあるのですが、このサービスを立ち上げたいと相談してきたのは30代の元ファンドマネジャーでした。彼は開発経験がないため、最初はエンジニアのネットワーキングイベントに参加しながら協力者を探していましたが、サービス構想に共感してくれる人がおらず途方に暮れていました。

そこで彼が取ったのは、独学でプログラミングをやってみながら、『レビューをしてもらう』という名目でエンジニアたちに会いにいくという行動。その熱意に感銘を受けたあるエンジニアが、後に創業メンバーとして加わり、現在のCTOになっています」

サービス構想を語っても共感されなかった状況から、自らの行動で本気さを伝え、仲間を見つけた形だ。そこにはきっと、理屈や利害関係を超えた何かがあったのだろう。

この記事の編集プロセスについては、12月6日(金)19:30~にschooで行う「エンジニアtype編集長による実践WEBライティング~執筆編」で公開いたします。お楽しみに!

取材・文/伊藤健吾(編集部)