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「ジョブズになれると思うな!」元MS代表・成毛眞が主張する、変革者になれない人の人生論【特集:New Order_07】

公開

 
株式会社インスパイア
取締役 ファウンダー 成毛眞氏

1955年北海道生まれ。中央大学商学部を卒業後、アスキーを経て、1986年、米マイクロソフトの日本法人に入社。1991年、同社代表取締役社長に就任。2000年に同社を退社し、投資コンサルティング会社のインスパイアを設立。同社取締役ファウンダーを務めるかたわら、他企業の取締役や顧問なども兼務している。近著に『成毛眞のスティーブ・ジョブズ超解釈』(KKベストセラーズ)がある

―― ジョブズについて、成毛さんはどう評価していますか?

スティーブ・ジョブズがやったことで最も大きいのが、「ソフトウエアからハードウエアにスポットを当てたこと」と、「テクノロジーをアートに変えたこと」でしょうね。

それまで世の中の流れは、ソフトウエア一辺倒でした。ソフトを作っているアメリカが時代の最先端を走っていて、ハードを作る日本のメーカーを見下ろしているような空気さえあった。そこにジョブズが、「ソフトウエアなんて誰でも作れるじゃないか」とばかりに、ほかにはない意匠の製品を次々と送り出した。それによって、今またハードが見直されています。

ではこれからはハードウエアに注力すべきかと言えば、そうとも限らない。こうした”流行”は時とともに移ろうものなんです。

コンピュータの歴史を見ても、センター側と端末の地位は絶えず逆転してきました。メインフレームの時代は、センター側が集中処理して、端末はタイプライターで良いとされた。そのアンチテーゼとしてPCが登場した。処理能力の高いPCがあれば、分散処理してサーバで動かすから、メインフレームはもう要らないと言われていました。

それが今度はクラウドが出てきて、データセンターが集中管理するから、もはや端末はケータイでもいい、と。きっとこの次は、また端末が重くなることでしょう。

建物も高層マンションと低層住宅の人気が交互に来るし、ファッションだって、スリムパンツの次はベルボトムが流行っているかもしれない。あらゆるものが両極の間を揺れ動いている中で、今はたまたまハードウエアが注目されている。確かにそれはジョブズがきっかけだったでしょう。

日本のエンジニアはそのダサいセンスを何とかした方が良い

 

キャプ

「エンジニアはもっとデザインを学ぶべき。まずは自分の格好からでもいい。センスをもっと高めないと」(成毛氏)

なぜジョブズがハードウエアにこだわったかといえば、単純にハードが好きだからだと思います。

実はジョブズも、ビル・ゲイツも、僕と同じ1955年生まれですが、僕らが子供のころにはコンピュータがなかった。だからソフトウエアが好きとか嫌いとかの前に、基本的にハードしか知らない世代なんです。

むしろ、この世代で子どものころからソフトウエアが大好きなビル・ゲイツの方が例外ですね。彼は、まさに絵に描いたようなソフトウエアエンジニアでしたから。

そのジョブズが作ったハードは、確かに優れたものでした。プラスチックで覆われたPCや携帯電話が出回っている中、削り出しのアルミを使ったアップル製品はやはり人目を惹く。持った時の重さだったり、感触だったり、ハードウエアという文字通りの”ハード”な感触は素晴らしいと思います。

デザインへのこだわりを貫いたのは、ジョブズの功績の一つです。それに対して、日本のハードウエア製品のデザインはまったくピンとこない。PCも、家電も、クルマにしても。

ソフトウエアも同じです。日本のソフトウエアは、オープニング画面から雑然としていて、アイコンもごちゃごちゃとくどい。あのすっきりとした鳥のマークを見れば一発でTwitterだと分かるのに対して、センスが感じられないものが多いですね。

こうなってしまうのは、日本人向けに作っているからです。680円に真っ赤な「×」をつけて600円と上書きしているような小売りの店頭POPを見ると、デザインに対する日本人の感性を疑わざるを得ません。アメリカでは「×」をやめて、「Everyday Low Price」としたわけです。

エンジニアはもっとデザインを学んだ方が良い。身に付けるものや遊びに行く街から見直すべきだと思うけれど、せめて自分が作っているものだけでも格好良さを追求してほしい。見栄えだけではなくUIもそうだし、ロジックにも美しいものとそうでないものがあります。

日常的に意識を持って仕事をしていけば、センスは磨かれていくと思いますし、そのうち誰かの目に留まるかもしれない。デザインに秀でたエンジニアは、うまくするとアメリカやヨーロッパの会社がスカウトしにくるかもしれませんよ。

40歳過ぎてソフトウエアエンジニアはムリ。だから今を楽しめ

―― エンジニアの仕事や働き方は、今後変わっていくのでしょうか。また、これからの時代、エンジニアに求められるものは何でしょうか?

キャプ

「引退しなければならない事実は変わらないにせよ、若いうちに精一杯エンジニアライフを楽しんだ方が良い」(成毛氏)

エンジニアの仕事は、これからも基本的に変わらないと思います。メインフレーム用か、PC用か、スマホ用かはともかく、プログラムを書くという点では20年前から同じです。

若いうちは現場で一生懸命働いて、40代には、もうほとんどがマネジメントに就いている。40歳を過ぎて、コードを書ける書けないにかかわらず、実際に自分でコードを書いている人はほとんどいないでしょう。

ソフトウエアエンジニアの場合、開発環境が目まぐるしく変化していきます。大昔は機械語で書いていたものがCに替わり、C++となって、Objective-Cが出てきた。仕事の前提がこれだけガラリと変わってしまう仕事は、ほかに類を見ません。

一度運転技術を覚えれば、ずっと運転手をやっていけるし、最先端に位置するように見える金融のトレーダーにしても、投資のルール自体が変わるわけではありません。同じエンジニアでもハードウエアの場合は、効率化したり集積化したりしていくことはあっても、基本技術は昔からの積み上げです。

ところがソフトウエアだと、Windowsでやっていたものが気が付けばiOSになっていたとか、ようやく覚えたと思ったら、さあ次はAndroidだと言われたりする。ハードが変わればそれに対応して、イチから勉強していかなくてはいけないし、しかも変化のスピードはますます速くなっています。

ソフトウエアエンジニアは、変化に食らいついていくしかありません。でも逆に言えば、それこそが面白さだと思うんです。常に最先端のことを追いかけて、それが楽しいから、この仕事をやっているのではないのか、と。

例えば力士だって、ずっと現役でいられるわけではないし、引退後に親方になってずっと相撲に携わっていられるのも一握りに過ぎません。まあ、ちゃんこ屋になるのが関の山ですよね。でも自分の好きな世界に入って、必死になって挑戦して、やりたいことを精一杯やってきたのだから、みんなきっと「幸せだ」と答えると思いますよ。

そういう世界にいるのだから、ソフトウエアエンジニアもちゃんこ屋になる前に、どんどん面白いことをした方が良い。若いうちから思い切りやりたいことをやるべきですよ。どうせ40歳前にはほとんどのエンジニアはコード書きから引退しないといけない身。今を楽しまずにいつ楽しむんですか。

若いなら英語圏へ行くのが分かりやすい現状打開策

 

ただ、勘違いしない方が良いのが、「次のスタンダードを作るのは、あなたではない」ということ。若いエンジニアに向かって、「頑張ればあなたにもできる! 希望を持って邁進しなさい」なんて、僕は絶対に言いません。

世界を変えるようなイノベーションを作り出せる人は、1000万人とか1億人に1人に過ぎない。僕もこれまで多くのエンジニアを見てきましたが、スーパーエンジニアは別次元です。アウトプットも100倍くらいの開きが出てきます。

次のスタンダードは、あなたには作れない。あなたの友人も、あなたの勤めている会社の人も、おそらく無理でしょう。それくらい希有な存在だということです。

ならば、イノベーションを生み出せそうな人を探し出すこと。その会社に転職するなり、そこの仕事ができる職場を探すなりして、なるべくその近くに行くべきです。あなた自身には作り出せなくても、少なくとも時代を切り開く仕事に携われるのですから。

そういう意味では、海外に出て行くのも良い。特に若い人に対しては、早くアメリカに行きなさいと言いたいですね。別にアメリカが優れているからでも、日本がダメだからいうわけではなく、単純に数の論理です。

日本語に比べて、英語圏のマーケットは10倍も大きい。日本語人口は1.3億人。英語を母国語として使う人は5億人。第2言語を含めて10億人の人が英語ソフトを使います。

日本国内で1000人にしか買ってもらえないものも、英語圏なら1万人かもしれません。開発コストが同じなら、英語圏では10分の1の価格で販売できるし、逆に同じ価格なら10倍のコストをかけることができます。

どう考えても、日本の方が分が悪い。ドイツでも、フランスでも事情は同じです。ただ英語を話す人が多いというだけの理由で、英語圏は断然有利なんです。だからアメリカに行った方が、チャンスも多いだろうと推測できます。

もちろん、次のスタンダードを作る人を探し出すにしても、待っているだけでは見つからない。自分なりに努力が必要です。

例えば『TED』の講演をチェックしていますか? 基礎研究の動向を把握していますか? 優秀なエンジニアは、常にアンテナを張り巡らせているもの。TEDに登場する会社のHPをすべてブックマークして、定期的に見に行っている人がいたら、次のトレンドを知ろうとあなたのところに人が集まってきますよ。それだけでも、一歩チャンスに近づいているはずです。

取材・文/瀬戸友子 撮影/桑原美樹

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