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「Mt. Gox事件」の被害者がビットコインの“伝道師”へと変貌を遂げたワケ

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東京・西麻布の飲食店『VERANDA』に設置されたビットコイン専用ATMと、ビットチェック社代表取締役の峰松浩樹氏

世界で急速に普及してきている、インターネット上の仮想通貨「ビットコイン」。クレジットカードなどと比べて取引手数料が安く、Web上の少額決済に向いているほか、国際送金が容易であることも利用を促進しているようだ。

だが、利用者が世界で数百万人にのぼるとされる中、日本での利用はそれほど進んでいない。今年2月には、東京・渋谷にあった世界最大級の取引所「Mt. Gox」が計85万ビットコインを紛失、経営破綻に陥るなど、ネガティブな話題が先行している印象だ。

こうした日本における「逆風」にもかかわらず、ビットコイン関連のビジネスを推し進めようとしているのが、2014年4月に創業したばかりのビットチェック株式会社。代表取締役の峰松浩樹氏は、「Mt. Gox事件」により資産を失った被害者の1人でありながら、6月には東京・西麻布の飲食店にビットコイン専用のATM『Robocoin』を設置した。

日本にもビットコインが広く流通する日がやってくるのか。その時、周辺にはどのようなサービスやビジネスが生まれているのか。峰松氏が見据える、日本におけるビットコインの未来について聞いた。

「安全・安心」の確保がビットコイン普及のカギ

ビットチェック株式会社のホームページ

海外でこれほどまでに利用者を増やしているビットコインが、日本でなかなか普及しないのはなぜか。峰松氏の分析はこうだ。

「日本では現金が圧倒的に使いやすく、Suicaなどの電子マネーも広く普及している。ビットコインが広まりにくい環境であることは確かです。しかしそれ以上に、日本が『安全・安心』を非常に重視する国であることが関係していると見ています」

ビットコインには発行主体が存在せず、末端のユーザー同士が匿名で直接取引する。銀行などを介さずに決済できるため、取引の経路を辿るのが非常に難しい。

麻薬取引や資金洗浄といった犯罪の温床になりやすいことが、警戒心の強い日本人の利用を妨げてきたという。

「加えて、今までの日本のプレーヤーは、主に投資を目的とする人たちでした。そういうプレイヤーが手っ取り早く儲けるには、相場が乱高下する方が望ましい。一般ユーザーにとっては逆に、価値が大きく変動するため決済に使いにくい、という側面がありました」

今回、ビットチェックがATMを導入した狙いは、まさにこの問題を解消しようというものだ。三重県の代理店を通じて米国から取り寄せたATMは、運転免許証スキャナー、手のひら静脈認証、顔写真撮影といった機能を備えており、業界最高峰のマネーロンダリング防止、消費者保護の効果が期待できるという。

「ビットコインは目に見えないものです。人を安心させるには、目に見える具体的なイメージが必要です。ビットコインの利用は現状、Web上での取引が大半ではありますが、ATMは安心の象徴になり得ると考えています」

峰松氏は、一経営者であると同時に、インターネット黎明期から最前線で開発に携わってきた生粋のエンジニアでもある。もともとは、自身が経営する会社で、自治体などのネットワークやサーバの保守を受託していた。2013年以降はビットコインに魅せられて採掘作業を行ってきたが、「Mt. Gox事件」により、資産のほとんどを失った。

このことが、あらためて「安全・安心」について深く考える契機ともなった。

「ずさんな管理体制、セキュリティーの甘さにあぜんとしたことは確かですが、これが一つの区切りとなって、ビットコインを取り巻く流れに変化が起きると考えています。あの『事件』が大きく報道されたことで、ビットコインに対する一般の人の関心は高まりました。現に、日本人のユーザーは減るどころか、むしろ増えているのです」

投資目的の「モノ」から、一般的に広く使われる「カネ」へ――。今がまさにビットコインの転換期であり、そのための環境を整えるところにビジネスチャンスがあると、峰松氏は考えている。

エコシステムに不足している部分すべてにビジネスチャンス

「一般ユーザーがビットコインを普段使いできる環境を整えるため、足りない部分を随時提供していく」と語る峰松氏

「一般ユーザーがビットコインを普段使いできる環境を整えるため、足りない部分を随時提供していく」と語る峰松氏

ところで、「カネ」としてのビットコインは、クレジットカードや従来の電子マネーと比べて、どこが優れているのか。また、そうした特長は、どのようなビジネスに繋がるのだろうか。

峰松氏が挙げる1つ目のポイントは、取引手数料の安さだ。

「ネット上で個人間で取引する場合、100円支払うのにクレジットカードという選択肢はありませんよね? 手数料が安く、利用が簡単なビットコインであれば、それが可能です。例えば、Q&Aでこの答えだけが見たい、この画像1枚だけが欲しい、そういったマイクロな決済で使うことができます」

さらに、従来の電子マネーにはない、「受け取ってそのまま使う」新しいサイクルが生まれると、峰松氏は指摘する。

「従来の電子マネーだと、個人間の取引の際、支払うことはできても(電子マネーとして)受け取ることはできません。一方で、ビットコインには受け取るフェーズがある。受け取ってそのまま使うという新しいサイクルが生まれるので、そういった部分に今までになかったビジネスが誕生する可能性があるのではないでしょうか」

実店舗での取引に目を向けると、観光などで日本を訪れた外国人ユーザーが、両替なしに気軽に使えるというメリットもある。東京オリンピックが開催される2020年までに、自由にビットコインを利用できる環境を整えることができれば、多くのビジネスに繋がるかもしれない。

「ウォレットの環境、ソフト、サービスなど、一般ユーザーが普段使いできるエコシステムを作っていく上で、日本には足りない部分がたくさんあります。それらを整える人がほかにいないのであれば、ビットチェックが随時、やっていくつもりでいます」

ビットチェックは実際に、「安全・安心」と「使いやすさ、分かりやすさ」を軸に、ビットコイン対応のサービスや各種アプリの提供を進めている。手始めとして、ウォレットアプリ『Blockchain』の日本語対応版はAndroidでリリース済み(iPhone版は審査中)。実店舗での決済用に、店側の端末やユーザー側の支払いアプリも近日中にリリース予定という。ATMについては「将来的には47都道府県に一つずつくらいは設置したい」と話している。

日本がゲームのルールを握らないとネット黎明期の二の舞に

「先日も、PayPal社が将来的にビットコインを導入するというニュースが話題になりました。アメリカでは次々にビットコイン関連のビジネスが立ち上がっており、このままでは、日本は大きく出遅れてしまいます」

峰松氏はそう言って危機感をあおる。インターネットの黎明期にいち早くプロバイダの立ち上げなどに携わってきた峰松氏は、現在のビットコインと日本の関係に既視感を覚えずにはいられないという。

「90年代にNetscapeが広がり、JavaScriptでインタラクティブなWebページができるようになって、決済、ゲーム、いろいろな方面で先行するアメリカに席巻されてしまいました。ビットコイン界隈でも、おそらくそれと同じことが起こる。それはあまりにも残念でなりません」

現在取り組んでいる環境整備は、前提であって目的ではない。ビットチェックと峰松氏が見据えるのは、その先だ。

「今は海外にあって日本に足りないサービスを提供している段階ですが、いずれは、日本で生まれた独自のサービスを海外に輸出するようにならないといけない。業界で力を合わせて、世界標準のアプリ、使い方、サービスを提供していかなければならないと思っています」

取材・文/鈴木陸夫(編集部)