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「インターネットの父」村井純氏、未来のモノづくり《ファブ地球》構想を語る

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2014年7月11日に開催された『COI-T「感性に基づく個別化循環型社会の創造」シンポジウム』で講演する村井純氏

今年、2014年はインターネット(ARPANET)ができて45年目、Web(HTML)ができて25年目になる。総務省が2014年6月27日に発表した「通信利用動向調査」によると、平成25年末時点での日本の13歳~59歳のインターネットの人口普及率は9割を超え、インターネットは今、疑う余地なく生活の一部になっている。

ネットが普及し、多くのことが時間的・効率的に便利になった。通信手段が手紙からメールに、情報収集が紙からWebに、商品の購入が店舗からECサイトに…などと、例を挙げればきりがない。

「日本のインターネットの父」としても知られている慶應義塾大学教授の村井純氏は、2014年7月11日に明治大学で開催された『COI-T「感性に基づく個別化循環型社会の創造」シンポジウム』の中で、このようなインターネットの普及によって、次はモノづくりが大きな変化を遂げると話した。

村井氏いわく、インターネットとモノづくりの融合により、2030年には「ファブ地球社会」という時代が訪れるのだという。

「ファブ地球社会」とは何を意味するのか、日本のモノづくりはそれにどうかかわっていくのか、当日の村井氏の講演内容から紐解こう。

無限大のリソースによってモノがブラッシュアップされる「ファブ地球社会」

同氏の語った「ファブ地球社会」とは、地球上の70億人、1000億個のデバイスとセンサがインターネットにつながり、より豊かなモノづくりが可能になる社会のことだという。

インテルから発表された『Edison』はSDカードサイズながらWi-Fiを搭載している

インテルから発表された『Edison』はSDカードサイズながらWi-Fiを搭載している

「先日インテルから発表された『Edison』のように、とても小さいサイズのコンピュータが発明されています。このような極めて小型のコンピュータがあらゆるものに搭載され、これを介して、人も、モノも、あらゆるものがつながることで、無限のデータが生み出されるようになります」

70億人がインターネットにつながることで、創造性や才能、デザインや感性といった個々人に依存するものがWeb上で表現される可能性が生まれる。

また、ありとあらゆるモノがネット接続することで、多種多様なデジタルデータがネットに流通する可能性もあり、その数は想像できないほどの大きい数になるだろう。

「創造されたモノはWebに流通し、シェアされ、多くの創造性や感性が尊重されつつも改善されることで、個人で創造していた今までとは違うモノが生まれるはずです」

「ファブ地球社会」実現までの15年構想とは

そのような「ファブ地球社会」に至るまでの15年間、村井氏はモノづくりの将来について次のような流れで進化を遂げると考える。

【1】2020年:先導型ファブ社会の創世
【2】2025年:ファブ地球社会の創世
【3】2030年:ファブ地球社会の確立

2020年までの期間は日本国内でファブリケーション文化を根付かせる期間である。人の感覚によるところの大きい「感性」の数値化や、3Dプリンタやレーザーカッターなどのツールの低価格化と普及、機種依存しない情報シェアプラットフォームの登場などが必要とされる。

さらにその後、2025年までの5年間は、日本で確立されたファブリケーション文化を世界に広める期間だ。国際基準の制定や高分子化学を用いた材料の活用などが必要になる。

そして2030年、「Webが世界共通のモノづくりのプラットフォームとして完成する」と村井氏は構想を話した。

「ファブ地球」構想を可能にするのは日本の文化

当然、新しい文化が根付くまでの間は、すべてがスムーズにいくわけではないと村井氏は続けた。

特にこの手の話題でいつも問題になるのは、法整備の遅れである。ファブ地球では、プロダクトの設計者・製造者・管理者が異なる可能性が十分考えられる。もし、そのプロダクトを使って事故があった場合、その責任が誰にあるのかなど問題になることが容易に予想される。

村井氏はアメリカの例を挙げて説明する。

米連邦航空局(FAA)の自作飛行機審査に関するページ

米連邦航空局(FAA)の自作飛行機審査に関するページ

「米連邦航空局(FAA)の自作飛行機の審査理念では、書類審査は完成後に事後報告することや、製作者・コミュニティ・オーナー・キットを販売する業者が独自にレギュレーションを決め、責任を持つべきだと記されています。つまり、製造段階で国は口を出さない上、法やレギュレーションで縛ることもなく、当事者間で責任の所在を決めるのです」

すでに十数年続いているこのモデルを、ファブ地球でのルール制定に応用できると村井氏は考えている。

また、2030年までにファブ地球構想が実現するためには、日本の特性が大きく関係すると村井氏は語る。

「日本では、すでにインターネットが広く普及しています。そのため、日本のあらゆる産業がインターネットを前提として展開されています。ファブリケーション文化を世界に広める時、日本の『インターネット前提社会』でのノウハウを基に広げるのです」

一方、日本のモノづくりの強みについてもこのように話す。

「材料に関しても、日本は高分子化学の分野で世界をリードしています。また、高いクオリティでモノを作るという、品質管理に長けていることも日本のモノづくりの特徴でもあります。将来的には各プロダクトにチップを埋め込み、個体識別して管理するという方法も考案されています」

未来に何を残せるか

講演の最後、村井氏は夜の地球の写真を背に、こう話した。

「宇宙飛行士の方は昼の地球を見て、この海や緑などの環境をどのようにして次の世代に残そうか、と話します。わたしたちは夜の地球を見てこのテクノロジーを次の世代にどのような形にして渡そうか、と話します。夜の地球で光っている部分、これは紛れもなく、人々の暮らしを支えている“テクノロジー”なのです」

村井氏が語るような「ネット前提社会」が、我々の次の世代の手に渡るころにはどのように発展しているのだろうか。まずはその礎づくりがこれから始まる。

取材・文・写真/佐藤健太(編集部)