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日本の大手メーカーが負けているのは、コストではなく時間【連載:村上福之⑨】

公開

 
村上福之のキャラ立ちエンジニアへの道

株式会社クレイジーワークス 代表取締役 総裁
村上福之(@fukuyuki

ケータイを中心としたソリューションとシステム開発会社を運営。歯に衣着せぬ物言いで、インターネットというバーチャル空間で注目を集める。時々、マジなのかネタなのかが紙一重な発言でネットの住民たちを驚かせてくれるプログラマーだ

最近パナソニックの偉い人が、決算会見で「われわれは負け組だ」と発言して話題になっております。僕としても、まったくもって、そのとおりだと思います。

From sachan★
日本が誇るモノづくり産業の崩壊が止まらない中で、大企業の役員たちから「負け組」という言葉まで出始めた

経営的にどうのこうのという話は日経ビジネスさんなどの記事にお任せするとして、個人的に開発現場で痛烈に感じていたのは、技術力よりも開発現場に与えられた時間かなと思っています。

何やかんやで、日本の大手家電メーカーで開発現場の人間に与えられている時間はかなり短いと思います。

残念ながら、日本の法定動労時間は8時間です。大きな会社だと、 残業込みで年間約2440時間に収めないといけません(※編集部注:業種・職種によっては異なる)。さらに残業などは、ちゃんと、時給1.25倍とかあったりなかったりします。

一部で年棒制などあったりしますが、そうでない人の方が多いです。そのくせ、会議が多く、よく分からない謎の社内の委員会活動とかもあったりします。あんまり深夜まで働くと、総務が監査上とか、組合がどうので、何だかんだ言ってきます。

われわれ零細企業は、明日、雇用があるのか、会社もあるのかまったく分からない状態なのですが、大企業とは、労働時間を削っていただける上に、雇用を守るという義務があります。コンプライアンス遵守、法令遵守の精神が第一です。

しかしながら、先進国では、働いている人の生活と健康も大事ですし、法令に則った報酬を払うことは当然です。むしろ、生活水準の高い国では労働環境を良くしないと効率が上がらないし、社員も残らないのです。

つまり、先進国の大きな会社では、コンプライアンスと環境整備に気を遣わないと未来がないです。

法令遵守のヌルいルールの上で闘う大企業

現場レベルですと、できる人もできない人も給料は大体同じで、職級に合わせた給料が支払われます。こんだけやってギャラ変わらないのかよ!と思うナマケモノな同僚もいたりいなかったりです。

つまり、プロトタイプの仕様会議でもこんな感じです。

マネジャー 「ぼちぼちプロトタイプの仕様のたたき台が決まったと思うんやけど、みんな、どないや?」

リーダーA 「いや、僕、ヒヤリハット委員会に出す資料作らないといけないんですよ。あと、来週前半はリーダー研修なんで、実際の検証は来週後半に手を付けられるかなーという感じですね」

リーダーB 「この仕様だとXX事業部との調整が必要だと思うんですけど、あそこは今日はノー残業デーなんですよ。今日は何もできないです」

リーダーC 「僕、代休が溜まり過ぎてるので、来週三日ほど消化します!」

マネジャー 「さよか、着手は再来週の中ごろのイメージやな。せやな、総務から早く帰れと言われとるし、今日は早よ帰ろかー」

全員 「そうですねー」

ボクシングで例えると、日本のメーカーはきちんとヘッドギアをつけて、きちんとグローブをはめて、1ラウンド3分というルールをきちんと守って働いているわけでございます。

法令遵守のヌルいルールの上で闘わざるを得ないのです。

「法令<<<責任とコミットメント」な開発をする新興国企業

一方、新興国の企業はと言いますと、ルール無用のバーリ・トゥードな世界でございます。 夕方の会議で決定事項が決まろうものなら、もう大騒ぎです。僕が見聞きした情報をすごくオーバーに書くと、こんな感じだったりします。

マネジャー 「仕様が決まった!みんな、明日の朝までにプロトタイプ作るぞ!」

開発リーダー 「マネジャー、今日、金曜日ですよ!明日、休みですよ!」

マネジャー 「なに!口ごたえするのか!お前!今すぐクビ!」

開発リーダー  「アイヤーーーー!」

マネジャー 「みんな、加油(頑張れ)ー!」

 

次の日。。。

 

小鳥 「チュンチュン。。。」

新リーダー 「うう、何とかプロトタイプができた。。。昨日、妻が出産だったのに、立ち会えなかったよ。。。」

マネジャー 「すごい!もう動いている!お前、すごいね!今月は給料2倍出す!」

新リーダー 「アイヤー!」

日本の中小企業でも、まだこんな感じのところがあったりしますが、この冗談みたいな短い話の中にコンプライアンスは微塵もございません。でも、責任とコミットメントがちゃんとあることが分かります。

From Sergio de Moraes
多くの新興企業にとっては、とにかく形にしてみるプロトタイプ志向がストロングポイント

ボクシングで例えると、新興国のメーカーは、ヘッドギアどころか、ヘルメットをつけてチェーンソーで殴り掛かってくるようなもので、3分どころか、3時間でも相手が死ぬまで切り掛かって来るわけでございます。日本の大手メーカーは、そんな会社たちとグローブ&ヘッドギアで地道に闘っているような状況だと思います。

コンプライアンスで雇用が守られて、どんどんズルズルと低成長のループに陥るのと、コンプライアンスもルールもなく闘う人たち。

どちらが正しいのか、結論はありません。また、今の日本で、効率化の名の下で新興国のやり方をそのまま行うと、「節子、それ、効率化ちゃう!ただのブラック企業や!」ということになります。

では、今のままがいいのかと、みんなでレミングスになるしかないように思います。

もちろん、ほかにも日本メーカーがダメダメになった理由は65536個以上あるのですが、今のところ、「明るいナショナル」は見えてません。
※編集部注:2012年11月14日16時 村上福之氏のご意向により文末を一部修正いたしました。

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皆さんのおかげです。執筆経緯もエンジニアtypeに出てますので、合わせて読むと面白いと思います。

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