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20年後もソフトウエアエンジニアとして「真ん中」にいたいから、今、3Dモデリングを学ぶ【連載:中島聡】

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中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今回は、わたしが今夏の宿題として取り組んでいた3Dモデリングについて書きましょう。

最近、3Dモデリングツールの『Blender』を使って『iWatch』のデザイン予想などをして遊んでいるのですが(自作のデザイン案はブログにアップしています)、3Dモデリングの勉強を始めた理由は、ひとえに新しいチャンスの“匂い”がするからです。

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個人的な勉強を兼ねて作ってみた『iWatch』のデザイン案

3Dプリンタには、「これは未来を変えるかもしれない」という、PCの黎明期と似たような雰囲気がある。だから、3Dモデリングデータの作り方くらいは覚えておこうと思って始めました。

わたしが『TK-80』を組み立ててプログラミングを始めた1970年代後半は、まだコンピュータが一般家庭に普及する前。当時は高校の同級生で自宅にPCがある人なんて皆無で、PCどころか、スマートフォンのようなコンピュータを皆が持ち歩く時代が来るなんて誰も想像できませんでした。

でも、黎明期のうちにコンピュータに触れていたことで、その後PCが本格普及していく過程でエンジニアとして面白い仕事がたくさんできた。Windows 95/98のソフトウエアアーキテクトをやれたのもその一つ。人より早くかかわったことで、ちょっとだけ時代を先取る仕事ができたんです。

そういう過去を考えると、「3Dプリンタが一般社会にも普及する未来」を見据えて、今のうちに3Dモデリングの勉強をしておくべきだと感じたのです。

人間の「カスタマイズ欲求」も普及のきっかけに

とはいえ、3Dプリンタはまだ一部のメーカーやアーティストに業務利用されているフェーズです。一般家庭はもちろん、社会にもほとんど普及していません。

それでもわたしが可能性を感じる理由は、3Dプリンタ&3Dモデリングの組み合わせが人の生活を劇的に進化させ得るから。未来は常に予測不可能ですが、20~30年後、PCと同じように3Dプリンタが一家に1台普及していてもおかしくはないと思っています。

例えば、自分のクルマがちょっとした事故に遭ったとして、今はバンパーのちょっとしたへこみを修理してもらうだけで数万円程度かかります。型の古いクルマだった場合、特別な製造ラインで部品を作る必要があるので、さらに高い出費になるでしょう。

そこで、自動車メーカーがボディーパーツの3Dモデリングデータをネット上に無料公開しておき、自宅や近隣のカーショップにある3Dプリンタで成形できるようになれば、メーカー側もユーザー側も時間的・金銭的コストを削ることができます。

クルマのパーツの大きさを考えると「家庭用3Dプリンタ」では修理できない場合もあるでしょうが、掃除機のような家電製品ならほとんどが修理できるようになる。

「家庭用3Dプリンタ」を前提に、修理しやすいことを売りにした家電メーカーが生まれても不思議ではありません。

また、あるクルマ好きのハッカーが、オリジナルパーツの3Dモデリングデータを有料販売するような商売も考えられます。カーマニアは、ネット上で集めた3Dモデリングのデータを組み合わせながら、これまでのように何百万円もかけずに自分だけのカスタムカーを作ることができるのです。

iPhoneケースのマーケットが大きくなったように、人は所有物を「自分だけのモノ」にカスタマイズすることにお金を使います。この辺りにも、3Dプリンタが一般に普及するかもしれないという可能性を感じます。

音楽産業で起こった変化が、製造業で起きてもおかしくはない

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From John Abella
どんどん小型化が進む3Dプリンタだが、課題も多い

ただし、3Dプリンタが社会全体に普及するまでには、価格や性能面(現状では加工できる素材に限度があるなど)以外にも、数多くの問題を乗り越えなければなりません。

アメリカでは以前、3Dプリンタで銃を自作した人がニュースで取り沙汰されましたが、安全面での課題のほかに、著作権や特許にかかわるような問題も想定されます。

誰もがミッキーマウスの人形を作って売れるようになったらディズニーが黙っていないでしょうし、特許技術で作られていたモノを個人が3Dプリンタで簡単に模倣できるのも法律に触れる。

それでも、こうした問題はいずれ解消され、エポックメイキングな事業を興す人たちが必ず出てくるはずです。CDという「モノ売り」から「音源データのネット販売」にシフトしていった音楽産業のように、製造業にも必ずパラダイムシフトが起きると思います。

余談になりますが、実はわたしがMicrosoftにいた1990年代、Windowsチームは「PCでCDを読み込むと音源データをファイルとして表示する機能」を開発していました。技術的にはそれが可能だったんです。

当時は「これだと誰もが違法コピーできてしまう」と搭載しませんでしたが、それから10年も経たないうちに、音楽はデータでやりとりするのが「普通」になりました。

技術の進歩は常に世の先を行き、常識や法律もそれに合わせて変わっていくという好例でしょう。

スマホアプリの今後を考えることに、もはや行き詰まりを感じる

わたしはこの1~2年間、ある種の行き詰まりを感じていました。iPhone誕生から6年が経とうとしている今では、スマートフォンアプリの開発も「みんながやっているもの」になった。人マネが嫌いな性分なのもあって、アプリやWebサービスの開発には面白みを見出せなくなっていました。

そこで次に来そうな新しい何かを探していたところ、3Dプリンタに未来の“匂い”を感じたわけです。

前述のように3Dプリンタはまだ黎明期で、3Dモデリングの勉強をしても当面はお金になりません。でも、物事がメインストリームに乗った時にはもう、黎明期からかかわってきた先行者たちが面白いアイデアを実行に移しています。

そこで「外野の人」になるか、「中心にいられる人」になるか。エンジニアとしては、お金よりも、これが大事なんです。

ということで、もう少し3Dモデリングが上手になったら、箸置きのような身近なものや、テニスラケットのバンパーなんかを自作してみようと思っています。

実際に3Dプリンタを使ってみないと、できること・できないこと、さらには3Dプリンタでしかできないことが分かりませんから。PCの黎明期にオセロゲームを作っていたのと同じ感覚です。