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2013年の技術トレンドを振り返ると、2020年「東京の電脳都市化」が見えてくる【連載:中島聡】

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中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今年も残りわずかとなりましたね。そこで今回は、2013年のテクノロジートレンドを振り返りつつ、来年以降の予想をしてみたいと思います。

予想の軸となるのは、あらゆるものがプログラマブルになりつつある潮流です。これがもたらすだろう未来について考えてみました。

まず、2013年のトピックスとして最初に思い付くのは、ウエアラブル・コンピュータの台頭です。Google Glassのようなメガネ型、Nike+FuelBandやJawbone UPといったリストバンド型、サムスンのGALAXY Gearが先行した腕時計型など、今年はさまざまな種類のウエアラブルデバイスが出てきました。

GALAXY Gearのように不評を買う製品がある一方、FuelBandやJowboneあたりの“デジタル万歩計”は、フィットネス・ヘルスケアの分野でそれなりに普及した。来年は、これらのウエアラブルデバイスが、スマートフォンに次ぐ発明品としてどのように「誰もが欲しがるもの」になっていくかが見物です。

ソフトウエアがハードの価値を高める流れが加速化している

From Ewen Roberts
ウエアラブル・コンピュータを取り巻く状況は、AppleがiPodを世に投入する前に似ている

最も良い立ち位置にいるのは、やはりAppleだと思います。

今のウエアラブル・コンピュータを取り巻く状況は、iPod前夜(AppleがiPodを世に出す直前)の状態にとても似ています。当時もMP3プレーヤーや楽曲のダウンロードサイトはいくつか生まれていましたが、どれも「点」として存在していただけで、ユーザーもごく一部のアーリーアダプターに限定されていました。

そこに、Appleが機能・デザイン・ソフトウエア(=iTunes)と三拍子そろったiPodを投入し、のちにiTunes Store というコンテンツ・サービスも作ったことで、市場にトータルパッケージを提供した。このやり方がうまかったため、iPodを「誰もが欲しがるもの」にすることに成功したし、マーケットリーダーになれたのです。

iPhone 5sに新たに搭載されたM7コアプロセッサを見ると、Appleがウエアラブルデバイスの開発を本気で見据えていることは容易に想像できます。M7により、これまで消費電力のためにCPUには任せることができなかった、ジャイロスコープ、加速度センサ、コンパスなどからの情報を、待ち受け状態のスマホに継続的に記録・収集させることができるようになりました。

これは、心拍数なども含めたより多くの情報を拾えるウエアラブルデバイスと、とても相性が良いのです。

こうした技術を活かしながら、2014年に出ると噂されるiWatch(仮名)で、iPodと同じようにトータルパッケージを提供できるか。ここが、ウエアラブル・コンピュータがキャズムを越えて「誰もが欲しがるデバイス」になれるかどうかの分水嶺になると思います。

同時にその時、スティーブ・ジョブスを失ったAppleが「昔のままの」イノベーティブなAppleであり続けられるかどうかも判明するでしょう。

また、ウエアラブルデバイスの開発とは違う文脈で、Googleがスマートマシンを開発すべくロボット関連企業を次々に買収し出したのも興味深い動きです。ホンダのようなハードウエアメーカーや軍事用ロボットの開発会社が中心だったロボティクスの分野に、ソフトウエア企業が乗り出すというのは、面白い潮流だと思います。

Amazonが発表したドローン(小型無人飛行機)で荷物を届ける「Prime Air」構想などを例に取っても、ソフトウエアをうまく駆使することでハードウエアの価値を高めていくという流れが加速しているのは間違いありません。

これは、わたしのようなソフトウエアエンジニアにとってもチャンスが広がるという意味で、うれしい展開です。

少し横道に逸れますが、この大きなうねりを考えると、ソニーがAIBOで築いたロボット事業を捨ててしまったのは本当にもったいない。仮に今も続けていたら、スマートロボットの開発で世界をリードすることもできたでしょうに、とても残念です。

近距離無線通信とInfrastructure as Codeが生み出す新ビジネス

From uka0310
iPhone5sに搭載されたiBeaconには多くのアプリ開発者が注目したが、違った視点での活用法も

話を戻して、次に見逃せない2013年のトピックスは、Bluetoothの新規格「4.1」がリリースされ、iPhone5sにiBeaconが搭載されたことです。

これまで、近距離無線通信ではNFCが主流派でしたが、BluetoothやiBeaconの方がデファクトになりそうな気配があります。世の中にもっと普及したら、先に挙げたウエアラブル・コンピュータやスマートマシンと連携して、さまざまなビジネスが生まれるでしょう。

BluetoothやiBeaconは、スマートフォンのGPSでは拾えなかった細かな位置情報までとらえることができるので、マイクロロケーションやO2Oビジネスは今まで以上に盛り上がるはずです。また、専用のインフラさえ構築できれば、お店や街の側から人々の持つスマートデバイスのビーコン(無線標識)を拾って、何かしらの情報を提供するようなビジネスも興せます。

こういったインフラの構築は資本力のある大手ベンダーや通信キャリアの専売特許でしたが、冒頭でも書いたように、今はインフラもプログラムで構築・制御することができるようになりつつあります。

スマホアプリを作るように簡単ではないものの、技術力さえあれば、規模の小さなWebベンチャーでも本当に人々のライフスタイルを変えるインフラサービスを作ることができるのです。

手前味噌ですが、わたしが作った会社UIEvolutionもここに注目していて、今、新しいデジタルサイネージの仕組みを構築しようと仕掛けています。

ざっくり説明すると、従来型のデジタルサイネージは、スクリーン(それはTVであったり壁面であったり街頭広告であったりする)の裏側に設置したPCを介して、表示させる文字や映像を変える程度のことしかできませんでした。

それを、スクリーン側にはHTML5だけが表示できる軽いセットトップボックスを置き、サーバ側もストリーミングやHTML5を使ってコンテンツを配信するようなアーキテクチャに変更すると、配信する情報を時間や場所、ニーズに応じてよりダイナミックに制御できるようになるのです。

UIEvolutionではすでに、このデジタルサイネージの仕組みを米の豪華客船会社プリンセス・クルーズに実験的に提供していて(客室内のTVそれぞれに異なる映像情報を表示する仕組み)、今後そこにBluetoothやiBeaconを組み込むことができれば、各種スマートデバイスの持ち主個々人に合わせたインタラクティブなコミュニケーションも可能になります。

これの究極の形が、タイトルに書いた「東京の電脳都市化」です。

オリンピックを機に東京を「電脳都市化」したい

2020年の東京オリンピック開催までに、ここで説明したような技術トレンドを高次元で融合できれば、例えば観戦に訪れた外国人には母国語でパーソナライズされた観光情報を届けたり、チケットを持つ人だけにスタジアムへの行き方を示すデジタルサイネージが見えるようになったりと、映画『ブレード・ランナー』や『マイノリティ・レポート』に出てくるような「電脳都市」を作り上げることができます。

それも、ITゼネコンの上流にいる大企業によってではなく、確かな技術力を持つベンチャーのエンジニアたちの手によって。そう考えると、ワクワクしませんか?

わたしが現在開発しているプログラマブルなビデオフィルターVideo Shaderも、リアルの世界を反映したバーチャルな世界、という意味では、東京の電脳都市化に応用できると考えています。

日本は今、ポップカルチャーや2次元コンテンツを売りとした「クールジャパン」を世界に売り込もうとしていますが、オリンピックを機に再び「日本の技術力はすごい!」と印象付けることができれば、日本のIT産業がその後の世界経済の中で重要な地位を占めるかもしれません。

ぜひ、日本のソフトウエアエンジニアたちにはその一翼を担ってほしいと思います。2014年は、その第一歩となる年です。私見では、ソフトウエアやインフラの知識に加えて、HTML5とBluetooth、各種デバイスの省電力化の3つについて、動向をチェックしておいて損はないと思います。