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米ディズニーがリアルとネットを本気でつなごうとしている~ウエアラブル・コンピュータの未来を語ろう【連載:中島聡⑦】

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中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今年最初の連載は、「リアル空間と結び付くモバイルサービス」について話しましょう。

過去数年間で起きた大きなイノベーションの一つに、iPhoneの誕生から始まったモバイル端末の進化が挙げられます。が、個人的にはそろそろ別のイノベーションが生まれてもいいタイミングなんじゃないかと思っています。

2007年1月にiPhoneが登場してからもう6年が経ちますが、iPhone 5を見ても、「端末そのものの進化」という意味では限界が来ていると思うんですね。スマートフォンはどれもかなりの完成度となっており、さすがのAppleも、iPhone 6でこれまでのような驚きを提供するのは難しくなっているように感じます。

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From Robert Scoble
Googleのサーゲイ・ブリン(写真右)は、Google Glassをかけてたびたび公衆の面前に現れている

ですから、次にインパクトをもたらすのは、もうケータイじゃないだろうと。わたしが新しいライフスタイルを生むと期待しているのは、ウエアラブル・コンピュータです。

その代表格に、昨年のGoogle I/O前後から注目されているメガネ型のスマートデバイス『Google Glass』がありますが、アメリカでは今年1月、別の会社から気になるニュースが発表されました。

米ディズニーが、来場者向けにRFID(無線識別装置)を用いたリストバンドを導入するという計画を明かしたのです。

『MyMagic+』で、いよいよマイノリティ・リポートの世界が現実に!?

『MyMagic+』と呼ばれるこの計画は、フロリダにあるWalt Disney Worldの来場者に、「MagicBand」というRFID付きリストバンドを提供するというもの。

このバンドがクレジットカード情報と連動することで、園内への入場や各アトラクションのチケット予約、食事・買い物の支払いなどが一括でできるようになるそうです。

※参照:米ディズニーランド、RFID付きリストバンドで訪問者を追跡する計画を発表(Slashdot)

MyMagic+

米ディズニーの公式ブログに掲載されている、「MagicBand」のイメージ写真

まだ計画段階なので詳しくは分かりませんが、Disney World のようにインフラを整えやすい環境であれば、ほかにも来場者ごとに園内での過ごし方をパーソナライズして提案するようなことができるでしょう。

例えば「前回来た時は○○でランチをしたので、今日は△△に行ってみては?」と、Disney Worldの方から提案してくれるようなシーンが考えられます。つまり、映画『マイノリティ・リポート』で描かれていたようなインタラクティブな世界が本当にやってくるのです。

この米ディズニーの計画が示しているのは、「マイノリティ・リポートのようなライフスタイル」を実現するための要素技術はすでに存在していて、インフラ整備のタイミングとうまく組み合わされば、すぐにでもイノベーションが起きるという事実です。

先に挙げたGoogle Glassにしても、まずは開発者向けにリリースされるとのことですが、見た目や付け心地が洗練されて一般ウケするようになり、合わせて無料Wi-Fiなどのインフラが整えば、個々人に最適化された広告やコンテンツが「場所」や「目にしたモノ」と連動して配信されるような未来が想像できます。

日本の通信会社や各種メーカーは「悪くないポジション」にいる

このように、「リアル×モバイル」の新サービスが生まれるという予兆が出始めて思うのは、日本の通信会社や各種メーカーは、次のイノベーションを起こす上で悪くないポジションにいるということです。

先ほど、リアル空間とウエアラブル・コンピュータとの連動を実現するにはインフラ整備が欠かせないと書きましたが、日本の通信キャリアは「おサイフケータイ」のようなサービスをすでに実現しています。

通信業者がお金やコンテンツと連動したサービスインフラを構築しているケースは世界的に見ても稀で、この点だけ取り上げても、時代を先取るポテンシャルがあると思います。

インフラ投資の面でも、国土が広過ぎるため莫大なコストがかかるであろうアメリカに比べれば、まず東京限定で始めればそれほどコストをかけなくても済む日本は理想的な立地と言えます。

さらに、ウエアラブルなコンピュータデバイスを開発するという切り口で見ると、日本のメーカーはカメラを小さくしたり、高度な画像認識を行うための要素技術をたくさん持っているので、Google Glassのようなデバイスが今のスマートフォンのような勢いで普及する時代には、ぜひとも日本企業の強さを発揮してほしいと思います。

次に来るイノベーションへの“つなぎ”をスマホアプリで作るなら…

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From emilio labrador
最近は街中でWi-Fiを利用できる店舗やエリアが増えてはいるが、「完全無料開放」の地域はまだ少ない

これらの状況を踏まえた上で、もしわたしが日本の通信会社の経営者なら、すぐにでも自社Wi-Fiを無料開放するエリアを増やして、“Real-time-Web”の時代に勝てるインフラ網を整備しておくと思います。

そうすれば、Google Glassのような先端デバイスがなくても、スマートフォンと専用アプリのセットによって、特定エリアのユーザーだけが得られるタイムセール情報などを配信できるようになります。

いわばネットワークを用いた「新しいメディア」を創出する形になるので、インフラやアプリ販売では収益を上げられなくても、各店舗から得る広告収入で元が取れるようになるはずです。

そもそもイノベーションというのは、急速に進み過ぎてもユーザーに受け入れられません。ウエアラブル・コンピューティングも、画期的過ぎるデバイスが誕生したところで、すぐに世の中には根付かないはずです。

だからこそ、まずはスマートフォンのような既存デバイスを使いながら、『マイノリティ・リポート』のような未来への“つなぎ”を作っておくことが大切になります。

わたしが『neu.Node』というソフトウエアをオープンソースとして公開したのも(neu.NodeのGitHubページはコチラ)、それが、ウエアラブル・コンピューティング時代への“つなぎ”となるスマホアプリを開発するのに必要な技術の一つだと考えているからです。

neu.Nodeによって、デバイス上でサーバ・アプリを動かすことが容易になりました。そのため、デバイスをネットワーク上のアクティブなノードとして扱うことにより、今までになかったタイプのアプリケーションやサービスが提供できるようになりました。

2013年は、iPhone誕生後のIT業界を席巻してきたビジネスモデルとは違った形のチャンスが生まれる年だと見ています。せっかくの好機ですから、エンジニアみんなであれこれ試しながら、楽しんで未来を創っていきたいですね。

撮影/竹井俊晴(中島氏のみ)