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サムスンのTizenほか「スマホ新OS」は、アプリ開発者にどんな影響を及ぼすか【連載:中島聡】

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中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今回は、ちらほら聞こえ始めてきたスマートフォンOS「第三勢力」について、わたしの見方を書きましょう。

日本でも、NTTドコモがサムスンと組んでTizen搭載端末を投入すると発表したり、auがFirefox OSを搭載した端末をリリースするという話があったりと、これまでのiOS&Android二頭体制から変わろうとする動きがあります。

でも、世界規模でどのようなインパクトがあるかを推察するなら、最も見逃せないのがサムスンのTizenへの肩入れです。

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From nodomain1
2013年時点ではスマートフォン出荷台数で世界トップクラスの地位を誇るサムスン

昨年から、さまざまな調査で「AndroidのシェアがiOSを逆転した」という結果が出てきていますが、実際には「Android対iPhone」の戦いではなく、「アップルとサムスン」の一騎打ちに近い構図になっている点が重要だと思います。

消費者は搭載されているOSで端末を選んでいるのではなく、端末そのものの魅力に惹かれてスマートフォンを選んでいるのです。

この文脈からスマートフォンOSの未来を探るなら、やはり、サムスンが力を入れると宣言したTizenが、現在の勢力図を大きく変えるかもしれないと考えるのはあながち間違ってはいないでしょう。

「OSの普及には対応アプリの数と種類が影響する」、「だからAndroidとiOSの牙城は崩れない」と言う人もいますが、わたしはそうでもないと思っています。世の中には、たいしてアプリを使っていないスマートフォンユーザーはごまんといるのです。

Tizen搭載スマートフォンでも、Facebookや音楽聴き放題アプリPandoraなど、世界のアプリストアでトップ100に入るようなアプリさえ手に入れば、ユーザーは十分満足かもしれません。であれば、あとは端末そのものの勝負ということになり、端末次第でOSのシェアもどこかのタイミングで大きく変わる可能性は十分にあるのです。

サムスンの狙いを勝手に予想すると……

さて、こうした動きのポイントになるのは、サムスンがなぜTizenを採用するのか? という理由です。勝手な予想ではありますが、3つの可能性が考えられます。

1つは、「Android=Google主導」で動いてきたスマートフォンOSの世界を、サムスンが主導権を握って変えていくための布石です。

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From laihiu
サムスンはGoogleの『Nexus』シリーズの製造も行っているが…

Tizenの開発は非営利団体のLinux Foundationによるプロジェクトで、ビジネスグループのTizen Associationにはサムスンも参画していますから、Androidとは違ってメーカーが利用する際の“縛り”が少ない。その利点をうまく使えば、メーカー主導で物事を決められる状態にできるわけです。

端末の伸び率では『GALAXY』の勢いがすごいですから、ここでOSの分野でも自社のプレゼンスを高めようと考えてもおかしくはないでしょう。

2つ目は、サムスンがGoogleの広告収入から「より多くのレベニューシェア」を引き出すための布石、という見方です。

サムスンがAndroid搭載スマートフォンを出すにあたって、Googleとどんな契約を結んでいるのかは公開されていませんので、憶測の域を出ない話ですが、例えば「Tizen搭載スマートフォンではデフォルトブラウザにMicrosoftのBingを採用する。Googleを採用してほしいなら広告収入の50%を渡してくれ」という交渉もあり得るでしょう。

AppleとGoogleのマップ問題を見ても分かる通り、端末メーカーとGoogleの間には微妙なバランスがあります。GoogleはiPhoneのデフォルトサーチエンジンの地位を維持するために、かなりのお金を毎年Appleに払っているという話もあるので、それと同じように、Android端末一台あたりのレベニューシェアをより多く引き出すための駆け引き材料として、Tizenを使うというのもあるかもしれません。

最後の3つ目は、メーカーとして製品ラインアップを増やしていく中で、単にAndroidだけでなく、Tizen搭載スマートフォンも出すよという理由。

サムスンはこれまでも、Windows Phone OS、Android、独自OSのBadaとさまざまなOSを搭載した端末を出してきましたが、今回もそれと同じように、単にラインナップを増やしただけ、という見方です。TizenはHTML5ベースのアプリ開発環境を提供していますから、そちらの可能性も見据えてのことかもしれません。

いざ世界がシフトした時、「変える側」の開発者でいるには

これらの勝手な予想のうち、もしも最初の2つがサムスンの狙いだとしたら、政治的な目論見があってのTizen投入ということになります。政治的な動きは、ガラケー時代の例を見ても、アプリ開発者にとって良いことの方が少ない。

モバイル版のJavaがまさにそうでした。サン・マイクロシステムズ(現在はOracleに吸収合併)が主導して規格を固めていく流れだったのに、途中でiモードを推進していたNTTドコモがJ2ME/DoJaという独自規格を作るなど、キャリアやメーカーの政治的な意向でバラバラになってしまった。

オープンOSであるTizenも、各メーカーによる意向で、「コアの部分だけ合わせてAPIはそれぞれに作ろう」みたいな流れになりかねないと見ています。実装のしやすさで考えると、どこか1社(Tizenはサムスンが主導権を握ると見ていますが)の仕様に合わせて開発するよりも、各メーカーが独自仕様でやった方が早いですからね。

技術者同士ではなく「上の人」のジャッジで物事が動き出すと、こういう悲劇が生まれやすいのです。

そういう意味では、MozillaのスマートフォンOS『Firefox OS』は技術者主導で生まれたものですし、筋は良いと思っています。開発費のことを考えると、非営利団体のMozilla Foundationでやっていけるのかと思ってしまいますが、それだけ驚いたし、個人的には応援しています。

日本ではauと組むようですから、彼らと二人三脚で“ソフトウエアの共産革命”を狙っていくような動きになれば、面白い展開になっていくんじゃないでしょうか。auにしても、サムスン同様、自社が主導権を握る流れを作りたいでしょうから。

最後に、こういった第三勢力の台頭を見て、アプリ開発者はどうしていけばいいのかをまとめましょう。今のところの結論は、「当面は無視してOK」です。

でも、もしものことを考えながら、HTML5アプリ開発のノウハウをためておくのは悪いことではないと思います。わたし自身、まだそこまで注力はしていませんが、ちょっとずつHTML5アプリの試作を始めています。

こういう努力は、実るかもしれないし、無駄になるかもしれない。一つだけ言えるのは、いざ世界がシフトした時に「変える側」にいられるのは、準備をしていた人たちだけだということです。

撮影/竹井俊晴(中島氏のみ)