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Facebook HOMEが引き起こすのは、待ち受け争奪戦ではなく次世代の「メッセージングツール戦争」だ【連載:中島聡】

タグ : Apple, Facebook, Google, LINE, Microsoft, 中島聡, 組込み 公開

 
中島聡の「端境期を生きる技術屋たちへ」

UIEvolution Founder
中島 聡

Windows95/98、Internet Explorer 3.0/4.0のチーフアーキテクトを務めたエンジニア。NTTに就職した後、マイクロソフト日本法人(現・日本マイクロソフト)に移り、1989年、米マイクロソフトへ。2000年に退社後、UIEを設立。経営者兼開発者として『CloudReaders』や『neu.Notes+』、教育アプリ『neu.Tutor』といったiOSアプリを開発する。シアトル在住。個人ブログはコチラ

今回は、4月の大きな業界ニュースとなったFacebook HOMEについて書きましょう。

日本でも、一部のAndroidスマートフォン向けにFacebook HOMEの日本語版が提供され始めたようですが、本国アメリカでは業界人だけが騒いでいて、一般ユーザーにはそれほど広まっていない印象です。

「スマートフォンの待ち受け画面占拠」は前例のない取り組みだし、Facebookもどのくらい普及するかまずは様子見、といったところでしょうが、爆発的に広まらなかった理由はひとえにユーザーメリットが分かりにくいからでしょう。

Facebook HOME

ティザーページで「新しい体験」を謳うFacebook HOMEだが、ユーザーにとっての新体験とは何か?

ビジネス的に見れば、Facebook HOMEの戦略は非常に画期的で、メリットの大きなものです。

さまざまな分析記事で語られているように、これまでのアプリに比べればユーザーとの接点を格段に増やせるし、広告展開の面でも利点は大きい。

おそらく、Googleはこの発表を聞いて「やられた」と思ったでしょうし、ユーザー体験を最重要視するAppleは「Facebook HOME for iOSだけは作らせまい」と考えたはずです。

でも、現段階では、まだビジネスメリットだけが先行しているように感じます。こちらではTVCM(下の動画が第2弾CM)まで展開して普及に努めていますが、ユーザー目線で言わせてもらえば「Facebook HOMEを使うと何が良くなるのか」が伝わってきません。

仮にこのやり方がユーザーの待ち望んでいたものであれば、日本でmixiが全盛期だった2000年代後半、なぜ彼らは携帯電話の待ち受け画面を占領するアプリを開発しようとしなかったのか。やはり、「SNSとしての待ち受け占拠」はユーザー側にメリットの薄い戦略だからじゃないでしょうか。

ただし、今後の展開次第では、Facebook HOMEがのちに「破壊的イノベーションだった」と称される可能性もなくはないと思っています。待ち受け画面を獲ることで、Facebookメッセンジャー(Facebook HOMEでは「Chat head」と呼ぶようです)がメッセージングツールのデファクトになるような流れに発展していったら、GoogleやAppleだけでなく通信業界をも巻き込む一大戦争が巻き起きるかもしれません。

いずれ“LINE HOME”が登場することも十分考えられる

欧米では、通信端末がフィーチャーフォンからスマートフォンに移り変わった今でも、コミュニケーションのほとんどがSMS(ショートメッセージサービス)のようなテキストメッセージで行われています。

こちらの場合、日本の通信キャリアとは違ってデータ通信料とメッセージ課金が別々に設定されているので、テキストメッセージがタダで送れるようになるのはけっこうインパクトの大きなことです。日本でLINEが大ヒットしているように、アメリカでもWhatsAppのような無料チャットアプリが普及したのはそのためです。

そんな中、Facebook HOMEが「アプリを立ち上げる手間なくテキストメッセージを無料でやりとりできる」というメリットをうまく訴求していったら、大化けする可能性があると思っています。

Facebook Chat head

中島氏が「普及の起爆剤」と見るChat headだが、ティザーページでは中段以降に説明が

この文脈で未来を予想するなら、例えばGoogleは、自社のSNSであるGoogle+のメッセージング機能をAndroid端末のデフォルトに設定するような対抗策を採ってくるかもしれません。LINEのようなチャットアプリも、“LINE HOME”を出してくるでしょう。

さらに興味深いのは、ドコモをはじめ日欧米の主要な通信キャリアはどう動くか? という点です。無料のメッセージングツールはけしからんと排除する方向に動くのか、それともこの流れはもう止められないと考えて、Facebookから何らかの見返りをもらって(例えば広告収入のレベニューシェアなど)Facebook HOME搭載スマホを押していくのか。

KDDIなどはLINEと提携関係にありますから、一緒にLINE HOMEを開発して「auのスマホにLINE HOMEを標準搭載」なんて次の一手を打ってくるかもしれません。

OSではなく組込みアプリとして展開するというFacebookの戦略は、汎用性の面で非常に賢い反面、開発コストの面で他社もマネしやすいですから、十分にあり得る話だと思います。

MicrosoftはSkypeを飼い殺しにするのか? 各社の今後に注目

ちょっと残念なのは、わたしの古巣Microsoftが、この競争でも存在感が薄いということです。

MicrosoftはSkypeを保有しているわけで、スマホでのメッセージングツールとして先進的な形を生み出せる素地をすでに持っていた。しかも、Windows Phoneが待ち受け画面に採用したメトロUIは、もともと「アイコンを並べるだけでなく、コミュニケーションを中心にデザインする」という思想で設計されたものですから、新たなメッセージングのやり方をユーザーに提案できる可能性も持っていたはずなんです。

Facebook HOMEのことを、Microsoft側は「Windows Phoneのマネだ」と主張しているようですが、社内に部門間のしがらみが残っている状態では「Skypeを有効活用したメッセージングサービスを開発し、Android端末にも展開しよう」という考えは出てこなかったでしょう。

ともあれ、スマホがメインデバイスとなっていくトレンドの中で、世界的なデファクトとなっているメッセージングツールはいまだ存在していないので、各社による競争はこれからも続くはずです。

Facebook HOMEの登場で、Facebookが世界中の人が使うメッセージングツールとなっていくのか。それとも、ここで挙げたような「新たな競合たち」がFacebookとは違った取り組みを始めるのか。こんな視点で各社の動向を見ていくのも、面白いかもしれません。