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「スマホ受けの条件が分かった」nanapiのQ&Aアプリ『アンサー』はなぜチャット型なのか、けんすう氏ら開発陣に聞く

公開

 

nanapi代表取締役の古川健介氏と、開発プロデューサーの岡山智氏

「β版では5分以内の即レス率90%」というキャッチーなプレスリリースと共に、2013年12月5日、nanapiが公開したQ&Aアプリ『アンサー』(iOSのみ対応)。そのレスポンス率の高さから、多くのWebメディアに取り上げられ話題となった。

その一番の理由は、『アンサー』がスマホユーザー向けに特化されたチャット型のインターフェースを搭載したことにある。投げかけられた疑問や相談事を、ユーザー同士の「会話」を通じて解決するのが特徴だ。

「徹底的にスマホユーザーの志向に合わせたアプリにした」と語るのは、『アンサー』開発プロデューサーの岡山智氏。さらに、代表取締役のけんすうこと古川健介氏は、「今までわれわれが培ってきたWebの常識をすべて捨てて開発した意欲作」とも語る。

2人の『アンサー』開発裏話を紐解くことで、スマホユーザーが好むサービスの理想形を探りたい。

スマホシフトの渦中で抱いた危機感と、「Webの常識」との格闘

『アンサー』のインターフェース

イベントやiPhoneケース、人間関係など、多様なジャンルの悩みごとが並ぶ『アンサー』のUI

nanapiといえば、ハウツー系コンテンツを配信する同名のWebサイト『nanapi』を中心に、Webサービスを展開していることで名が知られている。

そんなnanapiが、スマホアプリ開発を決断したのは、固定ユーザーの確保という課題に対処するためだったという。

「2009年9月に『nanapi』を公開して以降、ユーザーのニーズを解析して、それに対してコンテンツを作り、SEO施策をすることで、いかにPVを稼ぐかを中心に考え、ハウツー系コンテンツの制作に尽力してきました。おかげで、われわれのコンテンツが検索上位に表示されるのは珍しくなくなりました。

しかし、同じようなコンテンツを蓄積するタイプの『クックパッド』や『Pixiv』は、サイト自体の中で検索をするという意識がユーザーの中で高く、固定ユーザー、いわばファンが多い。

nanapiはあくまでコンテンツであり、着地点なので、ユーザーからすると、単に検索エンジンを使っている延長にすぎないという問題点がありました。ユーザーに情報を探すところから使ってもらわないと、固定ユーザーを増やせない、という課題がありました」(古川氏)

サイト内に起点があるサービスを提供する場として、スマホアプリを選択したのは「ほとんどの人はスマホしか使わないようになるから」と古川氏。

しかし、スマホアプリ開発を行う中で、自分がPCをベースとしたWebサービス開発の常識にとらわれていたことに気付いたという。

「スマホとPCの違いはいろいろあるのですが、例えばスマホでは信号待ちや電車での利用が多く、使う時間が細切れだったりします。なので、長文を読ませるnanapiの形ではなくする必要がありました」(古川氏)

Webの常識を捨てた次は、スマホユーザーの志向にマッチしたサービスの指標を定める必要がある。開発チーム内でそうした指標を定める際に、参考にしたアプリがあったという。

「『LINE NEWS』や『ボケて』が参考になりました。これらのアプリは一画面で記事が構成されているので、読むのに時間がかからないし、どの部分を切り取ってもコンテンツとして完結している。数十秒の暇つぶしのために、スマホを触るユーザーの志向とマッチしていると感じました」(古川氏)

スマホ受けするサービスの2つのポイントとは?

nanapiけんすう氏

「ハウツーコンテンツをどうやって暇つぶしに使うか」という発想からアンサーが生まれた

「スマホユーザーが好むのは短時間で完結するアプリ」という指標を定めた開発チーム。

その指標を満たすために、チームメンバー間で共有した開発ポリシーが2つあったと岡山氏は語る。

「1つは『長編を作らない』こと。開発当初は、Webサービス的な思考から、一つの質問に長文で回答するインターフェースにしていました。しかし、それでは短時間で完結しないし、スマホで長文を打ち込むのはしんどい。コミュニケーションが最短で完結する方法として、結果的にチャット型に辿り着きました」(岡山氏)

『LINE』やソーシャルゲームがスマホユーザーに受け入れられているのは、「短編を細切れに消費できるから」とも分析する岡山氏。『アンサー』がチャット型インターフェースを選択したのは、どの瞬間でも楽しめるQ&Aアプリを突き詰めた結果だった。

「もう1つのポリシーは『演出を過剰にしないこと』です。社内からは、『Path』のようなアニメーションを盛り込んだUIにしたいといった提案もあったのですが、そういったリッチ要素は徹底的に排除しました。過剰な演出は初見のユーザーには操作が複雑、という印象を与えかねないからです」(岡山氏)

それゆえ『アンサー』では、UIの設計段階から「細かい会話を重ねるQ&Aアプリ」だということを明確化。その結果が、5分以内のレススピード90%につながった。

事実、App Storeのユーザーレビューには「暇つぶしに最適」、「すぐに返事が返ってきて楽しい」といった言葉が並んでおり、『アンサー』の狙いは外れていないことが分かる。

「長編を作らない」、「演出を過剰にしない」。これら2つのポイントはスマホユーザーにマッチしたサービスを開発する上では大きなポイントになるだろう。

「感情の言語化」でGoogle検索の常識をくつがえす

チャット型インターフェースを『アンサー』に搭載したのは、スマホユーザーの志向に合わせる狙いと共に、『nanapi』を運営する上で気付いた「ある誤算」を解消するための施策でもあったという。

ユーザーのできることを増やすというnanapiのビジョンを達成するため、今後も新しい問題解決を提供したいと語る

「『nanapi』をやっていて誤算だったのが、はっきりとした問題意識を持って回答に辿り着く人が少ないということでした。サイト分析の結果を見ていると、『彼氏に気に入られる服』や『さみしい』など、あいまいなキーワードから入ってくる人が多い。しかし、そうした、パーソナルで感情的な質問を予測して、個別の解決法を記事形式で用意するのは現実的ではありません」(古川氏)

そこで感情的な悩みの解決に適した方法として、「会話」に着目した古川氏。

こうした手法を突き詰めると、Google検索に代表されるテキストマイニングをベースにした検索の隙を突く可能性もあるという。

「『アンサー』ではカウンセリングの要領で、コミュニケーションを通して、なぜさみしい、と感じているかを言語化し、クリアにします。そうすることで、われわれはコンテンツ化が難しい解決法を提供できる。この長所を突き詰めれば、検索で出てこない答えを望むユーザーを囲える可能性が高いです」(古川氏)

奇しくも、同日にリリースされた同じチャット型のQ&Aアプリ『LINE Q』。3億人のユーザーを抱えるLINEとの競合について、「当初は少し焦りましたが、最終的に目指すところが違うから今は焦ってはいない」と古川氏は語る。

その言葉の裏には、nanapiが描く新たな問題解決法の青写真があった。

「将来的には、脳波や心拍数を検知して『お腹が空いている』とデバイスが認知したら、周辺のオススメのお店が通知されるなど、無意識にQ&Aが完結するサービスを作りたいと考えています。問題解決の形は、これからもどんどん増えていくのではないでしょうか」(古川氏)

今回の取材で明らかになった、Webサービスの常識を捨て、サービスの簡略化、短編化を図った『アンサー』開発のプロセス。そうした思考の編纂は、スマホに特化したサービスを作る上で参考になるだろう。

また、検索に頼らない新たな問題解決法は、SEO施策にばかり目を向けがちなWebコンテンツ制作の流れに、一石を投じるかもしれない。

冷静な分析でスマホ時代にマッチしたアプリを開発しながらも、新しい問題解決の方法を模索し続けるnanapiの今後に注目だ。

取材・文/長瀬光弘(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴