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「開発は最後までしない」子ども用アプリ『Kinderpan』に見る、UIファーストなアプリ開発【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、子供向けコミュニケーションアプリをリリースした『Kinderpan』の開発陣だ。子どもがお絵かきしたものを簡単に送信でき知育の促進が図れるほか、世界中に友だちをつくることもできる同アプリの開発は、一般的なWebサービス/スマホアプリの開発手法とは一線を画すやり方を採用していた。その手法を紹介しよう。
ファンタムスティック株式会社
(左から)
WEBエンジニア 小林 哉氏/CAO Co-Founder 篠原勇人氏
CEO Co-Founder ベルトン シェイン氏/デザイナー 上田 希氏

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11月12日、App Storeよりリリースされたばかりの、2歳から6歳の子どもをメインターゲットにしたiOSアプリ

自分で書いた絵や撮った写真をメッセージにして相手に送信できるメッセージ機能や、SNS機能、無料の知育ゲームなどが盛り込まれている。

メッセージ機能のキモは、子どもが手描き感覚でお絵かきを楽しみつつ、それを両親や祖父母といったiOS機器を持つ人に送信できること。もちろん、メッセージを受け取った受信者は、iOSアプリからメッセージを確認し、返信することができる。

一つのアカウントで登録できる受信相手は、子ども3人、大人は8人まで。SNS機能を使えば、世界中の子どもたちとアバター同士のふれ合いを通した疑似コミュニケーションを行うこともできる。

アイデアの出発点:自分の子どもも楽しめるサービスを作りたかった

もともとはソーシャルゲームを作っていたファンタムスティック。「一時はソーシャルゲームで月1000万円ほどの売り上げを上げたこともあった」(ベルトン氏)ものの、その後はなかなかヒットに恵まれず、7人ほどいた社員もベルトンシェイン氏と篠原勇人氏を残すのみに。

その後もソーシャルゲームでやっていくか、新たな分野に乗り出すか考えた際、「ソーシャルゲームは多額の広告費を割かなければ売り上げが上がらないビジネスモデル。そこから脱却したかった」(篠原氏)ことから、それまでの路線をやめることを決意。次に挑戦する分野として候補に挙がったのが、子どもをターゲットにしたiOSアプリだった。

「わたし自身も子どもが2人いて、篠原はおもちゃ好きだった。そこで自分の作ったキャラクターをおもちゃにしたいという願望と、『子どもの教育の役に立つ』という社会的な意義も考慮して相まって、アプリのアイデアを練りました」(ベルトン氏)

開発のポイント:技術的なチャレンジよりも、技術とデザインの融合

ファンタムスティックを支えるベルトン氏と篠原氏だが、実は二人ともデザイナー。『Kinderpan』の開発は、主にフリーのエンジニアである小林 哉氏が担っている。

「文字を書けるとは限らない子どもをターゲットにした『Kinderpan』において、重要なのは技術の目新しさではなく、いかにテキストを使わず、直感的に操作できるインターフェースにするかというデザイン面なんです。そのため、開発のこだわりは特にないんですよ(笑)。最初に実現したいUIがあり、それを実現するために既存の技術を活かしただけなので」(小林氏)

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「世界中の子どもに受け入れてもらうため、特定の国のテイストが出ないようキャラクターデザインに苦労した」(篠原氏)

一般に、Webサービスやスマートフォンアプリでは、ディレクターやエンジニアが主体となってサービスを企画・開発し、その内容に合ったUIをデザイナーが作っていくパターンが多い。

しかし、ファンタムスティックの場合はまったくの逆だ。デザイナーが主体となって企画やデザインを作り、それを外部のエンジニアが構築していった。

掟破りともいえるファンタムスティックの開発体制だが、なぜうまく機能したのか?そのチームビルディングの秘訣と流れについて深く探ってみよう。

「軸」が研ぎ澄まされていれば、開発は簡単に終わる

そもそも、同社が「取締役(ベルトン氏と篠原氏)2人+フリーランス」という体制を取るようになったのは、ソーシャルゲーム開発時の苦い経験からだった。

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「ソーシャルゲーム開発で学んだ教訓が、今になっていろいろと活かされている」(ベルトン氏)

「長期的な観点で言えば、会社の人員を増やしたいときは、正規雇用してしまった方がコストパフォーマンスに優れます。しかし一転、会社の業績が悪化してしまうと、多数の社員を抱えていることはリスクになる。しかもスタートアップの場合、いつ業績が暗転するか分からない。そのことをソーシャルゲーム開発で時代に身をもって学びました」(ベルトン氏)

ベルトン氏と篠原氏自身、フリーランスを経験していたことも大きかった。

「作ったサービスを運営していくのならいざ知らず、サービス単位で新しいものを作っていくスタイルなら、プロジェクトごとにその道のプロの手を借りる方が、はるかにパフォーマンスが高いんです」(篠原氏)

最初はベルトン氏と篠原氏の2人で始まった『Kinderpan』の企画。エンジニア主体であれば、「作りながら企画を固める」ところだが、本格的にコードを書くことができない2人はコンセプトを突き詰めつつ、紙に絵を書くことからスタートした。

「デモの開発なんてできないですが、絵を描いてアニメーションにすることならできる。そうやってデザインやUIを試行錯誤しつつ、ベンチャー・キャピタリストから出資してもらおうと、何度も企画を見てもらいました」(篠原氏)

企画を練り始めたのが、2011年の11月。それから約半年間、ひたすら企画を練り直す毎日だった。そのおかげでサービスのコンセプトは、これ以上ないほどまでに明確化。

①親子の手書きコミュニケーションサービス
②世界の子どもたちとつながる
③知育ゲームを入れる

という3つの軸が定まった。

無事に資金調達を終え、「あとは実際に作るだけ」の状態まで持っていくことができた後、やっと2人はメンバーの獲得に動き出す。まず最初にジョインしたのが、デザイナーとして活躍する上田 希氏だった。

「僕が主に担当したのが、Unityを使ったデザインの組み込みとアニメーションの作成です。実はUnityを使ったのは2回目だったんですけど(笑)、自分の得意分野が映像制作だったこともあり、『Kinderpan』も映像を作る感覚で作業していました。あと、やっぱり僕が入った段階で、『何をどう動かすか』といった“絵”ができ上がっていたことと、コンセプトがしっかり定まっていることが大きかった。いちいちほかのメンバーに確認を取ったりせずに、どんどん作業を進められましたね」(上田氏)

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「エンジニアによくある『開発しながら詳細を詰める』スタイルよりも、結果的にKinderpanのスタイルの方が効率的だった」(小林氏)

操作性や使う上での気持ち良さに、特にこだわったという上田氏。例えばアプリ上で世界中の友だちに会いに行く際の動作では、地球をぐるぐると飛行機が回るアニメーションを取り入れるなど、UIを徹底的に作り込んでいった。

上田氏の次にプロジェクトに参加したのが、エンジニアの小林氏だ。なんと、小林氏がメンバーとなったのは2012年の8月。ゼロの状態からたった2カ月足らずで、デモ版のローンチまで、ほぼ一人で構築してしまったことになる。

しかも、iOSアプリを開発したのは初めてだったというから驚きだ。

「僕が入った時点では、もうほぼできていたんですよ(笑)。あとはどういうデータが必要で、システムをどう組み込むかっていうだけでした。もちろん細かい調整はありましたが、プロトタイプというか、ゴール地点が見えていたのはすごくやりやすかったですね」(小林氏)

リアルなコミュニケーションの「代替」ではなく「創出」をしたい

常識破りの開発体制で作られた『Kinderpan』。目標は、「知育のプラットフォーム」になることだという。

「ソーシャルゲームをやめて、新しいサービスを作ることを決めたとき、『プラットフォームを作る』という目標がありました。プラットフォームとなるには、何か新しい試みをしなければならない。先に話した通り、子ども向けのアプリを作りたいというアイデアはあったので、あらゆる知育アプリを調べました」(ベルトン氏)

そして発見したのが、「コンテンツとコミュニケーションを掛け合わせたアプリがない」ということだった。

「子ども向けの知育ゲームアプリやコミュニケーションアプリはありますが、両者を掛け合わせたアプリっていうものはまだなくて、世界的にも新しいんですよ。しかも、メッセージやSNSといったコミュニケーション面を前面に出すことで、未就学児をターゲットにしたプラットフォームにもなることができる。普通は、ゲームのようなコンテンツからプラットフォームにユーザーを引き入れるんですが、『Kinderpan』では、逆の流れで攻めることにしました」(ベルトン氏)

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「kinderpanの利用を通して、リアルなコミュニケーションをデザインしていきたいんです」(篠原氏)

『Kinderpan』が無料で提供されるのは、同サービスをコミュニケーションを軸にした子ども向けのプラットフォームとして育て上げたいという意志の表れだ。

マネタイズは、『Kinderpan』の中に収容される知育ゲームに課金モデルを導入したり、同プラットフォーム用のゲームを他社に作らせることで得られるライセンス料を徴収すしたりすることで実現したい考えだ。

「これまで出てきたWebサービスやアプリの多くは、『リアルのコミュニケーションをデジタルで代わりに行うもの』が大半を占めていました。でも僕たちは、『Kinderpan』であらゆるコミュニケーションを代替できるとは思っていません。むしろ、『Kinderpan』によって、リアルでの新たな親子のコミュニケーションを創出するきっかけをつくりたいと考えています。デジタルで完結しない、リアルにつながるサービスのプラットフォームを作りたいんです。もしかすると、それが『Kinderpan』の一番新しい点かもしれません。あと、こんな会社ですが、一緒に仕事したいエンジニアの方も募集中です!」(篠原氏)

構成/桜井祐(東京ピストル
取材・文/くわ山ともゆき(東京ピストル) 撮影/竹井俊晴

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