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3D知育アプリ『Gocco Playroom』に見る、EdTechとゲーム開発の新しい関係【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、EdTechベンチャーの中でも乳幼児や児童を対象としたサービス開発で知られるスマートエデュケーション。彼らの新作アプリ『Gocco Playroom』の開発秘話から、子どもたちにも愛されるモノづくりの要諦を探る
(左から)Software Engineer 中島安彦氏
CTO / PROGRAMMER 谷川裕之氏
Art Director 今冨啓太氏

『Gocco Playroom』とは?

Gocco Playroom』は、スマートエデュケーションが10月30日にリリースしたばかりのスマートフォン/タブレット向け知育アプリ。

アプリを開くとリビングやキッチンなど複数の部屋が用意されており、ユーザーは3Dのオリジナルキャラクターを動かしながらさまざまなアイテムに触れることができる。タッチやスワイプだけで簡単に操作が可能で、例えば表示されている食材を重ねるだけで料理ができ上がり、キャラクターに食べさせたりもできる。

以下の動画を見てもらえば分かる通り、キャラクターの動きはスムーズでユーモラス。3Dならではの立体感もあって、子どもでなくても動作させるのが楽しくなってしまうようなグラフィックに仕上がっている。

アイデアの出発点:遊びながら情緒を豊かにできるアプリを作る

開発したスマートエデュケーションは、『おやこでスマほん』や『おやこでリズムえほん』など親子で遊べる教育・知育アプリを提供して注目を集めるスタートアップだ。

近年盛り上がりを見せるEdTech(教育×テクノロジー)ベンチャーの中でも、乳幼児や子ども向けのアプリ開発で豊富な経験を有しており、海外向けに展開する『Gocco』シリーズほか過去にリリースした全アプリで間もなく国内外計1000万のダウンロード数を誇っている。

「幼児向けのEdTechは、日本ではまだスタンダードと言われる存在のない未開拓の分野です。我々もまだ、どんな特徴を持ったアプリであればより多くのユーザーに使っていただけるのか試行錯誤しながら取り組んでいる段階です」(CTOの谷川裕之氏)

幼児・児童向けアプリは「使いやすさ」と「プレイの楽しさ」の両立が難しいと話す谷川氏

デファクトスタンダードが存在しないからこそ、今回の『Gocco Playroom』の企画・開発でも、試行錯誤の連続だったと谷川氏は言う。

子どもでも楽しめるものに、そして情緒教育に役立つような内容にするという基本方針は固まっていたが、中身については何度か変更を加えたという。

「例えば、当初はキャラクターがプレイに応じて育っていくような育成ゲーム的要素も入れようと話していましたが、それだとプレイ内容が難解になってしまうということでやめました。『Gocco』シリーズは海外でも受け入れられることを前提にしているので、国や文化が違っても楽しんで使ってもらえるような内容を本当にゼロベースで考えました」(谷川氏)

開発のポイント:初の完全内製でクオリティを追求

これまで同社は、リリースしてきたアプリのほとんどを、リモートワークするフリーランスエンジニアの協力を得ながら開発してきた。が、『Gocco Playroom』は谷川氏の話すようにほとんど仕様が固まっていない状態で開発を進めたため、同社では初となる完全内製でチームが組まれた。

「リモートワークだと、どうしても細かなニュアンスまで作り込むことが難しくなります。今回、初めて社内のチームで、席が近くすぐにコミュニケーションが取れる配置で開発に取り組んでみて、効率的でありながらクオリティにもこだわるという作り込みが可能になりました」(谷川氏)

中心を担ったのは、谷川氏とフロントエンジニアの中島安彦氏、デザイナーの今冨啓太氏だ。実は3人とも、前職ではゲーム開発の世界にいたそう。

「『Gocco Playroom』はUnityで制作しているので、技術的に難しいところはあまりありませんでした。ただ、UI/UXの面では一般的な大人向けのゲームとはまったく違う工夫が必要だった。それが一番のハードルでしたね」(中島氏)

開発途中でコードを全部捨てるほど細部にこだわる理由

作り込みの“深度”は、以前手掛けていたゲーム開発とは質が違ったと話す中島氏(写真左)

ゲーム分野出身のチームとはいえ、本格的な知育アプリ開発ならではのハードルの高さも味わったという3人。実際に幼稚園や保育園に通う子どもにデモを触ってもらい、その反応から数多くの仕様変更や機能追加を迫られたという。

「子どもって、最初の数秒が勝負なんですよ。少し触ってみて、気に入れば何時間でも遊びますし、気に入らなかったら二度と触らない。そういう反応をどうデザインに活かしたらいいか、いまだに100%は分かっていませんが、かなり勉強になったことは間違いありません」(今冨氏)

エンジニアリングの面でも、例えば子どもは指が短いため、タブレット上でキャラクターを触ろうとすると手が他の部分にも触れてしまうといった課題に突き当たりながら、試行錯誤を繰り返した。

「大幅な路線変更があったため、コードをいったん全部捨てて作り直しました。コードを残して以前の仕様に引っ張られてしまうと路線変更した意味が失われてしまうからです」(中島氏)

小手先の仕様変更や機能追加では、乳幼児が初見でもプレイできるようなクオリティは出し得ない。そう悟った3人は、ゲーム開発で培ってきた知識や経験をフル稼働させつつも、それだけでは足りない部分を互いの創意工夫を持ち寄りながら解消していった。

「一般的なゲームなら『絵を描く』感じでも制作できますが、今回の『Gocco Playroom』の場合はまさに『自分たちの作品』を作っているという感じで取り組みました」(今冨氏)

アートディレクターとしての今の仕事は「作品づくり」と話す今冨氏(写真左奥)

こうした作り込みの姿勢は、もともと同社内にあったものだと谷川氏は説明する。

「だから現在強化しているエンジニア採用でも、ゲーム開発経験のある人は親和性が高いものの、究極的には過去の経歴を問いません。今冨の言った通り、『作品づくり』として開発に取り組める人には、大人向けのゲーム開発より没頭できる仕事だと感じています」(谷川氏)

事実、スマートエデュケーションは開発の緻密さが評価され、TV局のようなコンテンツホルダーと共同でアニメを使ったアプリ制作を行ったり、地方自治体と共同で教材開発なども行ってきた。そんな同社が目指すビジョンは、「知育コンテンツの配信プラットフォーム化」だ。

「繰り返しになりますが、我々も含めてEdTechの分野はまだいくつかの企業が手掛け始めたばかりの段階です。いち早くIT教育やアプリ作りで実績を出している分だけ、デファクトスタンダードになれる可能性も大きい。まずは知育コンテンツで日本だけでなく世界からも注目される存在になるために、今後もよりクオリティの高いアプリのラインナップを拡充していきたいですね」(谷川氏)

取材・文/浦野孝嗣 撮影/桑原美樹

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