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リアルタイム動画配信『ツイキャス』が、世界展開を視野にあえてやること、やらないこと【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回紹介するのは、スマートフォンを使ったライブ配信サービスとしてすっかりおなじみの『ツイキャス』だ。ユーザー数800万人を超えて急成長、いよいよ本格化する世界展開に向けた戦略を探る
(左から)チーフiOSエンジニア 遠藤秀雄氏
代表取締役 赤松洋介氏
ディレクター 大森正則氏

新たな局面を迎えた『ツイキャス』

若い女性を中心に利用が広がっているリアルタイム動画配信サービス『ツイキャス』

若い女性を中心に利用が広がっているリアルタイム動画配信サービス『ツイキャス

2010年2月のサービスローンチから約4年半。スマートフォンを使ったリアルタイム動画配信サービスの『ツイキャス』が、新たな局面を迎えている。ユーザー数が800万人を超え、サービス立ち上げ時から視野に入れていた世界展開をいよいよ本格化する動きだ。

代表取締役の赤松洋介氏によれば、現時点でもすでにユーザーの2割は海外。その中心はアジアでも北米でもなく、地球の裏側ブラジルという。

世界展開を目標に掲げながら、さまざまな壁にぶつかって断念する国内サービスは数知れない。『ツイキャス』はどのような戦略で、この壁を乗り越えようとしているのか。

これまでに「やってきたこと」、あえて「やらなかったこと」、さらにはこれから「やろうとしていること」を開発チームに聞いた。

エンジニアばかりのチーム。ビジネスモデルはあえて作らない

サイボウズから独立後、いくつかのサービスを世に送り出してきたエンジニア社長の赤松氏

サイボウズから独立後、いくつかのサービスを世に送り出してきたエンジニア社長の赤松氏

『ツイキャス』を運営するモイは、昨年5月に初めての資金調達を行うまでの約3年余り、赤松氏とディレクターの大森正則氏の2人だけの小所帯で、運営費はすべて自己資金でまかなっていた。

費用を抑えるため、動画配信に一般的に使われている高価な機器は用いず、オープンソースのソフトを利用するなどして、必要なツールはすべてを自社で開発。「創意工夫と泥臭い努力」(大森氏)で、通信状態が悪い中でもリアルタイム性を保つサービスを実現してきた。

サービス立ち上げ当初はもちろん、800万人のユーザーを抱えた今でも、「注力しているのはユーザー数をいかに増やすかであって、明確なビジネスモデルは考えていない」と赤松氏は言い切る。

「提供したいのは純粋な楽しさという価値。収益は価値の対価であるべきであって、価値が明確でない段階では対価はもらうべきではないと思っています」(赤松氏)

前職のサイボウズを辞めて初めてベンチャーの領域に足を踏み入れた時から、「世界を変えること」が目的だったと語る赤松氏。世界に通用する価値を提供できるようになるまで、つまりは一定数以上の海外ユーザーを獲得するまでは、追加機能の利用時など限定的な課金を除くビジネスには、手をつけない方針を貫いている。

社員が16人まで増えた今も、営業サイドの人材を抱えていないのは、そのためだ。「土地に縛られた人が作ってしまうと、そのサービスはそこでしか生きられない。いずれはビジネスを考えないといけない時期が来るでしょうが、グローバルな展開を視野に入れる以上、それは今ではないと思っています」(赤松氏)

使い方は決め打ちしない。サービスはあくまでプラットフォーム

長くフリーランスとして活動してきた遠藤氏は「数字さえ稼げればプロダクトは何でもいい」という姿勢のサービスが多いことに違和感を覚えていた

長くフリーランスとして活動してきた遠藤氏は「数字さえ稼げればプロダクトは何でもいい」という姿勢のサービスが多いことに違和感を覚えていた

現在、『ツイキャス』の利用者の中心は10代、20代の若い女性。その利用の仕方も、サービス立ち上げ当初と今では大きく変わっているという。

「初期はきれいな景色を撮ったり、偶然居合わせた事故や遭遇した芸能人を撮ったりと、いわゆるコンテンツを撮る発想でした。それが今では、何もないところでいわゆる“自撮り”を始めて、そこに知らない人が訪れてコミュニケーションを取るという使い方がメインになっています」(大森氏)

それはサービスの作り手であるモイ開発陣の意図しないものだった。だが、それでいいというのが、大森氏らの考えだ。

「自分たちが作るサービスはプラットフォームであった方がいいと思っています。それを使ってどんな行動をしたら楽しいかについてはユーザーの方が発想力がありますし、そもそも女子高生は自分たちの想像の範囲の外にいるユーザーです。だからこちらで使い方を決めるのではなく、いろいろな利用の可能性を残すことは強く意識しています」(大森氏)

この姿勢がおそらく、文化の違いを超えて勝負することが求められる世界展開においても活きてくるだろうことは、容易に想像がつく。

昨年12月にジョインしたiOSエンジニアの遠藤秀雄氏も、「インフラになり得る」ツイキャスの可能性に引かれた1人だ。

「機能追加の面でも、ほかの先行サービスがやっているからとか、本に載っているからとかではなく、問い合わせ窓口に来る要望だったり、実際にユーザーのキャスを一視聴者として見たりする中で感じ取ったユーザーのニーズに基づいて行っています。それは使い方をこちらから制限するものであってはならない。ありふれた言葉ではありますが、そこには本当の意味でのユーザー目線があると思っています」(遠藤氏)

各国の文化を知る。しかしそれだけでは足りないものがある

「世界展開する上では、それぞれの国で生きる人たちをいかに知れるかは、大事なポイントになる」と大森氏

「世界展開する上では、それぞれの国で生きる人たちをいかに知れるかは、大事なポイントになる」と大森氏

『ツイキャス』は現在、北米への本格進出を見据えて、現地でコミュニティマネジャーの採用を進めている。メディアに向けたPRと、SNSなどを通じた現地ユーザーとのインタラクションが主な業務だ。

「もともとWebのサービスですし、デバイスも世界中に広がっている。もともと通信環境が悪くても配信・閲覧できることにはこだわってきたので、技術的には世界のどこでも問題ない。ただ、文化とか興味の対象とかは国によって違うので、それぞれの国で生きる人たちをいかに知れるかは、大事なポイントになると思っています」(大森氏)

しかし、世界で普及するにはそれだけでは足りないと考えている。爆発的に盛り上がるためには、着火材となる何かのきっかけが必要だ。

「ブラジルで流行した背景には、サッカーW杯開催に伴う政情不安や現地の有名アーティストの利用などの要素がありましたが、それらは事前には予想できなかったこと。日本でさえなかなかユーザー数が増えなかった時期があったように、そこには偶然の助けも必要なのではないかと考えています」(赤松氏)

一方では、例えば国際的に活躍するアーティストのファンを取り込むなど、国以外の軸からコミュニティを醸成する仕掛けも視野に入れているという。

赤松氏は内外に向け、2016年夏までにユーザー数を3000万人まで伸ばすことを明言している。ここまで毎年倍増してきた実績から導き出した数値だが、3000万という数字には同時に、明確な決意も込められている。

「日本国内のTwitterのユーザー数は2000万人。3000万という数字は、どうやっても世界で本格的に普及しない限り達成できない目標なのです。それくらいのユーザーを実際に獲得できた時、初めて『世界の3000万人を相手に何ができるか』というビジネスの話をしなければならないと思っています」(赤松氏)

告知:10/29より赤松氏と有名開発者のランチトークLive「モイめし」開始

この記事に登場してもらったモイ代表取締役の赤松氏が、スタートアップのトップエンジニアを招いて開くランチトークLive「モイめし」がスタートする。『エンジニアtype』では、業界の話題や開発体制秘話など幅広いテーマで繰り広げられるこの模様を、『ツイキャス』を使ってライブ中継する。

配信アカウント:https://twitter.com/moi_staff
配信チャンネル:http://twitcasting.tv/moi_staff

中継は、毎週水曜12時半からの30分。10月29日の初回は、ゲストにモイの元顧問で現在はBASEのCTO、弊誌連載でもおなじみのえふしん氏を迎える。

弊誌では併せて、動画未公開部分も含めたレポート記事も公開する予定だ。

取材・文/浦野孝嗣 撮影/竹井俊晴

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