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[連載:NEOジェネ!] 『ソーシャルランチ』が開発ポリシーにしてきた、大ファンを生む「フォーカス発想」とは?

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。第3回目は、前回登場のGrow! Inc.から紹介してもらった、シンクランチの2人だ。見知らぬ人同士がランチをするきっかけを作るアプリ『ソーシャルランチ』で脚光を集める彼らが、サービス開発で最も大事にしてきたこととは?
シンクランチ株式会社
(左)代表取締役社長  福山 誠氏    (右)代表取締役副社長  上村康太氏

Facebookの実名制を活用し、ランチタイムをFace to Faceの社外交流の場に変えていく。それが『ソーシャルランチ』の基本思想だ。

同サービスに登録したFacebookユーザーは、まず自身の「友だち」とペアを組み、1日1回ソーシャルランチから届くランチ相手の提案を見て、興味があれば相手ペアにランチの申請を行う。この申し出が承諾されたらソーシャルランチ成立。ペア同士の2対2、計4名でランチを楽しむ形となる。

昨年10月のリリース後、利用者は加速度的に増え続け、2012年1月現在で会員数約2万人、3カ月足らずで900組3600人のランチタイム交流を成立させた。先日1月16日には、今春開始予定の『ソーシャルランチ大学版』の事前登録も開始。

 
Googleの社員だった福山誠氏が、個人的な趣味で開発したアプリが『ソーシャルランチ』の原点。

福山氏はアメリカでFacebookプラットフォームがオープン化した2007年当時からFacebookアプリに注目し、海外向けにクイズアプリなどを開発してきた。2010年ごろ、日本でもようやくFacebookが浸透すると、「実名でつながるFacebookだから、安心して新しい人と人のつながりを生み出せるはず」という考えが強まった。

そして、「社外の人たちと、ランチタイムを使って気軽につながっていけるFacebookアプリがあったら面白い」という『ソーシャルランチ』構想を、Googleの同期入社組である上村康太氏に話したところ、即座に共感を得る。そこから、「新しい昼の文化を創る」ための企業を設立する構想と、サービスを確固たるビジネスに仕上げていく挑戦が始まった。

2人が『ソーシャルランチ』開発でこだわってきたのは大きく2つ。一つは、ネットサービスのヘビーユーザーだけを対象にしないこと。もう一つは、何があってもサービスを落とさないことだ。まったく新しい概念のサービスを理解してもらうためには、注目が集まった際にエラーが発生していては、大きな機会損失になってしまうからだ。

高度な負荷分散技術が求められるが、福山氏の持つ技術力がそれを可能にした。『ソーシャルランチ』のプラットフォームはGoogle App Engineをベースに作られているが、マッチング処理時のアルゴリズム設計やバッチ処理は独自に開発。トラフィックに対しては、「正確に測ったことはないが最大1000アクセス/秒くらいまでは対応できるはず」(福山氏)と言う。

事実、正式リリース前に”Yahoo!砲”(『Yahoo!』 のTOPページに自サービスが取り上げられ、瞬間的に膨大なアクセスが来ること)を受けても、昨年12月に行ったiPhoneアプリリリースが大々的に各メディアに取り上げられても、一度もサービス停止は起きていない。

きっかけは「ひらめき」だが、ヒットしたのは「偶然」ではない

Google同期入社で、席も近かったという2人は、『ソーシャルランチ』予想外の大ヒットに当初は驚いたという

Google同期入社で、席も近かった2人は、『ソーシャルランチ』がすぐに評判となったことに当初は驚いたという

1月16日に京大ベンチャーNVCC1号投資事業有限責任組合、KDDI、経営共創基盤の3社を引受先とする約3200万円の第三者割当増資を発表し、新サービスの『ソーシャルランチ大学版』も発表――。

昨年10月の『ソーシャルランチ』正式リリースから、飛ぶ鳥を落とす勢いで成長を続けるシンクランチ。「なぜランチに限定したサービスなのか」と質問すると、「ランチに限定したサービスはこれまでになく、働く人たちが一番気軽に人と会える時間だと思ったから」という答えが返ってきた。

「わたし自身、例えば勉強会などに参加して社外の人たちと交流したくても、家庭を持っており仕事以外の時間をなかなかそういった交流の場に利用できなかったんです。僕が勤めていたGoogleは六本木ヒルズにあったので、ビル内には有名なIT企業もたくさん入っていた。せっかくならいろいろ話をしたいと思っていたけれど、そのきっかけが案外なくって……」(福山氏)

そのきっかけづくりの仕組みをFacebookアプリで作ろう、昼休みにランチをともにするくらいならば、忙しい人同士でも気軽にできるはず、と考えたわけだ。

つまり、『ソーシャルランチ』の誕生は完全にプロダクトアウト。上村氏と一緒に起業することにしたのも、ローンチ後の爆発的な反響を受けて、「このサービスには『何か』がある」、「起業してやるだけの価値がある」という手応えを得たからという。

しかし、正式サービス開始から半年も経たないうちにここまで話題を呼ぶサービスになったのは、決して偶然ではない。ヒットの要因は、その後の入念なリサーチと、サービス開発を進めていく「順番」にあった。

最も優先順位が高いのは、純度の高いコミュニティづくり

例えば、『ソーシャルランチ』で特徴的な、「1組2人でエントリーして4人でランチする」という形式になった経緯について、主にビジネスモデル構築やマーケティング領域を担当する上村氏はこう話す。

「最初のテスト版では1人で参加する形でリリースしたのですが、『興味はあるけど1人で参加するのはちょっと不安』というユーザーの声を受け、ペアでも参加できる機能を付けてみたんです。そうしたらユーザー数が増え、女性利用者をはじめ利用者の層も広がったので、思い切って1人で参加できる機能をやめました」(上村氏)

どういう風にサービスを出すと、ユーザーはどう感じるのか? この使い心地を、2人は重要視している。そして、エゴサーチを通じてユーザーの反響を日々ウォッチしながらサービスを改善してきた結果、これまでは常に「用途を限定する」方向に動いてきた。

その理由は、「今の段階では、その方が純度の高いコミュニティが育ちやすいと考えている」(福山氏)からだ。

「今は『ソーシャル~~』と銘打ったサービスが乱立していますが、それらのサービスの優劣は、どんなコミュニティが醸成されているかで分かれてくると思っています」(上村氏)

ネットのへビーユーザー以外にも受け入れられるサービスになり、多くの人に安心して長く使われるものにしていくには、安心されるに足るコミュニティがなければならない。だから、新機能や新プロダクトの開発を急ぐ前に、まず確固たるコミュニティを形成するのが先だと考えている。

『ソーシャルランチ大学版』の事前登録は、こちらのホームページで行っている

今春リリース予定の『ソーシャルランチ大学版』の事前登録は、こちらのサイトで行っている

今回、新たに「大学版」を立ち上げた理由も、まさにそこにある。

現在の『ソーシャルランチ』は社会人も学生も利用可能なサービスだが、大学生の中には社会人とのランチ交流を「高いハードル」ととらえ、学生同士で履修科目やキャンパスライフについて話したいという人も多いという。ならば、学生限定のSNSとして純度の高いコミュニティを形成した方が、今まで『ソーシャルランチ』を利用していなかった層にも使ってもらえるはずと考えたわけだ。

「社会人100%のコミュニティが成立し、同時に大学生オンリーのコミュニティが成立して、というように個々のコミュニティが確立していけば、今度はそのコミュニティ同士をバイパスでつなぐようなサービスを提供していく道も開けていく。それが、新しいビジネスを生む可能性を高めていくと考えています」(福山氏)

エンジニアが企画もやるからこそ良いサービスが生まれる

こうしてフォーカスする分野と提供する機能を絞り、『ソーシャルランチ』を世に広めるための土台づくりを行ってきたのが現状だとすれば、今後はどのような展望を考えているのだろうか。そのヒントは、自社ホームページに掲出しているエンジニア募集ページにあった。

Google App Engineを利用したWebアプリの開発経験や、Pythonの知識(『ソーシャルランチ』のアプリはPythonで書かれている)のほかに、望ましい経験の一つとして「決済システムの構築経験」を挙げているのは、「ランチを実際に行っていただくサービスのため、飲食店とも連携した機能の実装なども今後視野に入れていきたいため」(福山氏)だ。

「これからのエンジニアは『新しいユーザー体験』を創るのが仕事になる」と予見する上村氏と福山氏

「これからのエンジニアは『新しいユーザー体験』や『新しい使用感』を創るのが仕事になる」と予見する2人

だがそれも、あくまでもユーザーの”ソーシャルランチ体験”がよりリッチになれば、という前提付きの開発構想でしかないと2人は言う。「新しいユーザー体験を創っていくには、技術よりも『開発も企画も一緒にやれること』の方が大事」(上村氏)と力説する。

《技術力だけではなく、サービスの総合的な開発能力をより高めて行きたいと思っていらっしゃる方を歓迎》

募集ページにこのような一文をあえて入れ込んでいるのも、そうした思いからだ。

アイデアだけではより良いユーザー体験を提供できず、技術に傾倒し過ぎるとネット初心者にも愛されるような分かりやすいサービスが生まれにくい。この両方を行き来しながら開発に取り組むのが、”ソーシャルサービス乱立期”を勝ち抜くヒントなのかもしれない。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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