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[連載:NEOジェネ!] ブルームバーグを敬愛する起業家集団が作る次世代情報エンジン『VINGOW』の野望

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、前回の『Synclogue』の2人が紹介してくれたJX通信社の開発チーム。社名に「通信社」を記すように、これまで取り上げたようなアプリ関連サービスとは一線を画する構想を持つ彼らが開発する”次世代のメディア”とは?
株式会社JX通信社
(左)取締役 チーフエンジニア  柳 佳音氏    (右)代表取締役  米重克洋氏

「ソーシャルでも検索でもない、まったく新しい情報エンジン」と自ら謳う『VINGOW』は、現在、最大1万名限定のクローズドβ版で稼働中の情報キュレーションエンジンだ。

あらかじめ自分で選定した情報ジャンルを、「気になるタグ」や「メモ」として登録しておけば、志向に合った情報をネット上のさまざまなソースから自動で引き出してくれる機能を持つ。集めた情報はPC画面上ではタイトル一覧として表示され、蓄積、保存、整理、共有が自在にできる。

部分的に見れば、すでにあるSNS連動の情報収集アプリや『Evernote』などと似ているが、受動的に「ほしい情報がやってくる感」は独特のものがある。単なる情報キュレーションツールではなく、次世代のパーソナルメディアとして開発している点も、社名に「通信社」と表しているチームらしい点だ。

「尊敬する人はマイケル・ブルームバーグ(米の総合情報サービス会社・ブルームバーグの創業者)」という代表の米重克洋氏。「膨大な情報が流通するマーケットに『整理して伝える』という変革を起こした人だからです。伝書鳩が電信に変わったぐらいのインパクトを世の中に与えたとわたしは思っています」。

そんな米重氏が目指すのは、記者を抱えず、取材もしないという「仮想通信社」を作るというもの。『VINGOW』の開発は、その最初の一歩となる。タブレット端末やスマートフォンという新デバイスが普及すれば、今後はそれらが個人にとって”自分専用ニュースの窓口”になると考えたという。

「これからは間違いなくタッチインターフェースの時代。そのうち、『ググる』という言葉すら死語になると思っています。そんな時代にふさわしいのは、自動的かつ受動的に情報を収集できる仕組み。それがありそうでなかったから、じゃあ僕らが作ってしまおうとなったのです」(米重氏)。

『VINGOW』の画面イメージ。タグ付けしている関連情報をネット上から自動的に拾って表示

『VINGOW』の画面イメージ。タグ付けしている関連情報をネット上から自動的に拾って表示

この「パーソナルメディア」構想の基本線は、ユーザーが設定した希望情報ジャンル=タグに基づき、外部サイトをクロールして情報収集し、独自の解析技術を用いて取捨選択~インターフェース上への表示というプロセスをたどる。

実現の肝となったのは、やはり言語解析部分。その落とし込みを中心的に担ってきたのが、チーフエンジニアの柳佳音氏だ。仕組みを言葉で説明するとシンプルに聞こえるかもしれないが、「以前、Twitter上のツイートを解析する自社サービス『TweetMatch』を開発した時の言語解析技術をベースにしたところ、『VINGOW』は数十人程度のアクセスでサイトが落ちてしまった」(柳氏)というから、難易度は非常に高かったようだ。

そこで、バックエンドの負荷対策と言語解析のスピードアップという難題に日夜取り組んだ結果、2011年12月ごろには「何とか今の形に近づいた」(柳氏)という。

驚かされるのは、JX通信社に参画したころ、柳氏は「高校でプログラミングをちょっと学んだ程度で、HTMLもほとんど書けなかった」という点。アルゴリズムやクラスタリングについては、ほぼすべてをゼロで学び、『VINGOW』を開発したのだという。

創業時のWebマーケ&SMO事業から、満を持してピボット開始

スーツという格好もあって大人びた雰囲気の2人だが、ともにまだ20代前半という若さ

スーツという格好もあって大人びた雰囲気の2人だが、ともにまだ20代前半という若さだ

写真を見ても分かる通り、米重氏と柳氏の2人からは、20代前半とは思えない妙に落ち着いた雰囲気が漂う。それに、Web系のスタートアップでは珍しい全身スーツ姿。

「取材用というわけではなく、いつもこれなんです」と淡々と話す姿が、さらに異彩を放つ。

先述の通り、このチームが「仮想通信社」を作ろうとしていることも、ユニークさを際立たせる。Web開発の知識は白紙に近かった柳氏がJX通信社へ参画を決めたのは、「新しいメディアを作る」、「今までにない伝え方をする」という米重氏のビジョンに共感したからだ。

その柳氏によれば、代表の米重氏は「こう見えて相当な人たらし」とのこと。

「米重は熱く語るタイプじゃありません。でも、話をしているうちに、何というか『下の方からスッと気持ちを持っていかれる』ような感じで、気が付いたら僕が開発担当を任されていました(笑)」(柳氏)

現在『VINGOW』のUI周りを担当しているメンバーの一人は、某有名Webサービス企業に内定をもらっていたが、最終的に「米重の人たらしにやられてウチに就職した」(柳氏)のだそう。

こうして、コアメンバーの6人がいずれも「88世代」で固められているJX通信社は、創業直後はWebマーケティングやSMO関連サービスを主たる収入源としてきた。だが、2010年にメンバー間のディスカッションを通じて『VINGOW』の開発に着手。構想が固まるにつれ、エネルギーの大半をこちらに費やすようになっていった。

ちょうどこのピボットを始めた2011年5月には、サイバーエージェント・ベンチャーズとネットエイジを割当先とする第三者割当増資を実施。そこで得た資金も、『VINGOW』開発の追い風となった。

むき出しのサーバに隠された、高い技術力を持つ理由

2011年、米のスタートアップイベントに参加した際に作成した看板。「挑戦状」とも取れる刺激的なキャッチが決意の表れ

2011年、米のスタートアップイベントに参加した際に作成した看板。「挑戦状」とも取れる刺激的なキャッチが決意の表れ

「今のβ版に到達するまでには、4~5回のアップデートをしましたが、情報キュレーションエンジンとしての精度を高めるためのアルゴリズムはどこまでいっても『完成』とはならないと思います。常に進化しなければいけないサービスということですね」(米重氏)

「最初は数十人で落ちていたものが、今では1万人を対象にできるまでになりましたが、もっともっとサクサク動かしたい。もちろん本ローンチに向けて、もっと裏側の分散処理も強化しなければいけません。今は外部サイトにある情報を、どうキレイに持ってくるかで、苦労しているところです」(柳氏)

最近では、『Evernote』などでもURLを引っ張ってくるだけで外部サイト情報を見れるようになってきたが、『VINGOW』では2012年春をメドに、現状の「記事情報のみを収集」から「画像情報も収集」できるようアップデートが予定されている。その目的は、もちろん「来るべきタッチインターフェースの時代に最適なUIにしていく」(米重氏)ことにある。

「『VINGOW』が広く使われるようになれば、インタレスト・グラフという価値が劇的に上がっていきます。そうなれば広告もまた、本当にインタレスト・マッチしたものだけを表示できるようになり、広告すらもユーザーにとって有効なコンテンツになっていくと思っています」(米重氏)

現在は日本語のみの対応だが、言語解析をさらに軽くし、バックエンドを強化していくことで、いずれ英語版も開発していく準備があるという。そうすれば、いずれブルームバーグを超える一大メディアにだってなれるかもしれない。

「そのためのR&Dには引き続き注力していくつもりです。僕らは若い分、技術知識もまだまだですが、すべてゼロから調べ上げる覚悟はもうできていますから」(柳氏)

神楽坂にあるオフィスの端には、バラバラに分解した後に再構築されたサーバが、むき出しのまま置いてある。柳氏をはじめとした開発メンバーが、苦労して「学習」をしてきた足跡だ。

これまでも、愚直に原理原を理解することで未来を切り開いてきた2人。その自信が、限界を打ち破る原動力になっていくはずだ。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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