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[連載:NEOジェネ!] 渡米目前の『Wondershake』が、ファン層拡大に向けて準備する「次の一手」

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。これまで前回登場チームの推薦による「友だちの輪」形式で取材先を決めてきたが、第4回は急遽Wondershakeの元へ。2月予定で本格渡米とのことで意気込みを聞きに行ったが、彼らが目論んでいたのは予想を上回る「一大構想」だった。
Wondershake, Inc.
(左)Co-Founder, iOS Developer  藤井達也氏    (右)Co-Founder, CEO  鈴木仁士氏

位置情報技術を使った、新感覚の”つながり演出”アプリ。それが『Wondershake』だ。

FacebookのLikeボタン履歴や基本データから本人の興味対象を拾い上げる【Tag】と、現在の位置情報をiPhone上で検出する【Shake】を組み合わせることで、「今自分がいる場所の近くに、同じような趣味・嗜好のWondershakeユーザーがどれだけいるか」を画面に表示。【Party】ボタンを押すと、見ず知らずの人同士でもコミュニケーションをスタートできる。

共通の趣味を持つ人たちとの、Wonder(驚き)な出会いを生むというコンセプトが話題を呼び、昨年の米『TechCrunch Disrupt』ではBest Use of Social Data Awardを受賞。ほかにも、起業家支援『Open Network Lab』の第2期Seed Accelerator優秀チームに選ばれるなど、日米双方の投資家やメディアから高い評価を得ている。

Co-Founderの鈴木仁士氏が、自身の渡米留学時に思い立った「大人になると失ってしまう『好奇心』をもう一度取り戻すサービスを作りたい」という発想が、『Wondershake』の出発点。カジュアルな出会いを演出するソーシャルアプリとして、流行に敏感な若者たちを中心に支持されている。

だが、いざアメリカ展開に乗り出す直前で、「メンバー間ではサービス設計を大々的に見直すタイミングが来ている、という話が出ている」(鈴木氏)という。現在は、これまで東京23区、大阪・梅田といった特定地域でサービス展開をしてきた中で得たユーザーの行動履歴や、アメリカで20名程度のテストユーザーに使ってもらったデータなどを分析しながら、どんな機能やインターフェースが必要かを議論中だ。

「根本的なコンセプトを変えるほどのピボットは行いませんが、今はまったく新しい『Wondershake』を作るつもりでプロダクトミーティングを繰り返している」(鈴木氏)そうだ。

今年1月にリリースしたバージョン2.3では、それまでなかった「ユーザーのShakeに対するコメント記入」、「自分のProfileへの訪問者履歴確認」、「イルカにお任せボタン(=Partyした際の会話のきっかけに、マスコットキャラのイルカが自由にコメントするボタン)」といった機能を追加。ユーザーたちの間ではおおむね好評だったようだ。

アプリ開発を担当する藤井達也氏によると、これらの新機能は「どれも技術的に難しいものじゃないので、とりあえず乗っけてみて『ウケなければ外せばいい』という考えで追加した」もの。過去のバージョンアップも、同じようにアジャイルな進め方で行ってきた。

しかし、今春リリースを目指す新『Wondershake』の開発では、その進め方もガラリと変わったという。その真意とは?

パワーアップを目指す過程で芽生えた、健全な「危機意識」

「米で起業した20代経営者」として脚光を集める鈴木氏だが、周囲の評判をよそに本人はいたって冷静だ

「米で起業した20代経営者」として脚光を集める鈴木氏だが、周囲の評判をよそに本人はいたって冷静だ

「とにかく今は就労ビザの発給待ち。取れ次第、すぐにでもチーム全員でアメリカに行く予定です」

取材場所となった恵比寿『Open Network Lab』のシェアオフィスで、開口一番こう話し出す、Wondershakeの鈴木氏と藤井氏。ともに海外留学経験の持ち主で、昨年米国で起業しているため、すでにサンフランシスコに事業拠点もある。アメリカという一大マーケットでの挑戦が、今から待ち切れない様子だ。

ただそれは、若さゆえの勢いとはちょっと違う。熟考を重ねた末、ある結論を出した時の晴れた表情だった。

今回の取材は、昨年12月のイベント『Innovation Weekend Grand Finale 2011』がきっかけで行われた。会の壇上、鈴木氏が「今はアメリカでの本格展開に向けて『Wondershake』を改良している」と明かしていたからだ。

世界仕様として、どんな改善を加えるのか。そう尋ねたところ、返ってきたのは「改善ではなく、全面見直し中」という意外な答えだった。

「ユーザーからのフィードバック分析を重ねていくうちに、僕らのサービス設計の甘さが見えてきたんです」(鈴木氏)

そもそも『Wondershake』は、これまでありそうになかった種類のネットワーキングアプリだ。何をやればヒットして、どんな機能がウケるのかは、世界中の誰も知らない。

「もしかしたら、『誰も勝てない領域でした』というオチかもしれない。そんなサービスをより多くのユーザーに使っていただくためには、『結局何ができるアプリなのか?』をもっと先鋭化させなければ、という結論になりました」(鈴木氏)

「いろいろできる」は、アプリの普及を阻害する要因に

東京など一部地域でしか公開されていないサービスにもかかわらず、”Shakers”と呼ばれる『Wondershake』ユーザーの数は決して少なくない。各メディアが取り上げていることもあって、知名度も非常に高い。それでも全面見直しに踏み切る根拠はどこにあったのか。

「周囲の方々に『面白い』と評価してもらえたのはすごくうれしいですし、毎日の生活の中に”Wow”を生むという『Wondershake』のポリシーが受け入れられたという手応えもあります。でも、例えばソーシャルアプリを一度も使ったことのないような人たちにも『Wondershake』を楽しんでもらうには、コアなユーザーの『いいね』の声を疑ってみることも必要だと考えるようになりました」(鈴木氏)

これまで行ってきた機能追加についてや、チーム内で議論してきたことなどは、BlogにUPされている

これまで行ってきた機能追加についてや、チーム内で議論してきたことなどは、カンパニーblogにUPされている

2人に言わせると、今の『Wondershake』は機能追加を重ねた結果、「いろいろできてしまうので、逆に何が楽しいアプリなのかがあいまいになっている」という。もちろん、好き勝手に機能を追加してきたわけではなく、ユーザーからのフィードバックにスピード重視で応えていくスタイルで開発を行ってきた。

「それがスタートアップのやり方だと思っていたから」(藤井氏)だが、既存路線のままで改善を重ねても、大きな進化はないと判断した。

大きくマネタイズをしていくためには、世界規模でより幅広い層に愛されるサービスにしていかなければならない。であれば、アプリがもたらす「ユーザー体験」を、よりフォーカスしたものにしなければならない――。そんな危機感をチーム全員が持ち始めたからこそ、このタイミングでの全面見直しなのだ。

「スマートフォンアプリの世界では、『すごく面白いアイデアだったけどあまり流行らなかったね』で終わってしまうものがたくさんあります。僕たちはそうなりたくない。初めて『Wondershake』を知った人も、今いるユーザーにも使い続けてもらえるサービスに仕立てるためには、開発側の人間もUIやUXをもっと勉強しなければならないし、どんな機能があればユーザーの体験性が高まるのかを考えながらコーディングしなければならないと思っています」(藤井氏)

UXを高めるため、「まず作る」というエンジニアの習性を変える

大きく舵を切った『Wondershake』がどんなものになるかは、まだ100%構想が固まっていないため公表できないという。ただ、これまで繰り返し行ってきたプロダクトミーティングで出てきたアイデアの一つに、「携帯型ゲームの『すれ違い通信』のような機能の追加」などがあると鈴木氏は明かす。

さらなるパワーアップに向けて、「どんなアプリなら愛されるのか」を日々議論する日々だと話す2人

さらなるパワーアップに向けて、「どんなアプリなら愛されるのか」を議論する日々だと話す2人

これまでの『Wondershake』は、位置情報技術を用いた「点と点のネットワーキングサービス」だったが、そこに「面でつながれる機能」を付け足すことで、移動中でも新しい出会いが生まれるかもしれない。

「でも一方で、この機能を乗せた時、ユーザーがどういう反応を示してくれたら成功なのかをとことん考えなければなりません。追加開発をして操作性が重くなり過ぎてしまったら逆効果ですし。僕を含め、エンジニアは『技術的に可能だから』とすぐに手を動かしてしまいたくなるものですが(笑)、今はその機能が本当に演出したい効果を生むかどうかを考えながら、開発を進めるように心掛けています」(藤井氏)

作り手としてのエゴを捨てて、「機能」ではなく「サービス」を創っていく。原点回帰ともいえる方向転換を図っている最中ゆえ、例に挙がった「すれ違い通信機能」も、結果的に新バージョンには搭載されないかもしれない。

ともあれ、1月末から開始した離日前の開発合宿で、おおよその全容は固めていくそうだ。今春、どんな驚きが披露されるのか、期待が高まる。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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