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『NewsPicks』新戦略発表の裏側に、ニュースアプリ革命を起こし得る2つの構想があった

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9月19日のメディア発表会で『NewsPicks』の新戦略を発表したユーザベース共同CEOの梅田優祐氏

競争の激しいニュース配信アプリの中で独自の進化を遂げてきた『NewsPicks(ニューズピックス)』が、9月19日にメディア発表会を開催し、独自コンテンツ配信と新たな広告モデルについての新戦略を明かした。

これまで同アプリは、60を超えるメディアから提供される経済情報の配信に特化しながら、各業界の専門家をはじめとする「Picker」と呼ばれるキュレーターを迎えて人の視点によるニュース解説を展開。ダウンロード(DL)数は19日時点で約21万となっている。

先ごろ500万DL突破を発表したGunosyや400万台のDL数を謳うSmartNewsに比べると数の面では後れをとるが、スマートフォンの普及による「ネットのテレビ化≒コンテンツ閲覧者のマス化」に応えるべく進化してきたメジャーアプリとは対照的に、NewsPicksは経済ニュースの真相を多面的に読み取れるという特徴を打ち出すことで20~40代を中心にファンを獲得してきた。

この特徴をさらに強めるべく、今年7月には元『東洋経済オンライン』編集長の佐々木紀彦氏を招聘。NewsPicks編集部を新たに立ち上げ、サービスの大刷新に乗り出したのだ。

ユーザベース執行役員で、NewsPicks編集長の佐々木紀彦氏

佐々木氏はこの日、主にコンテンツ面での取り組みから「NewsPicksは『専門×人×テクノロジー』の掛け合わせで世界一の経済メディアを目指す」と宣言したが、具体的にアプリの何が変わるのか。そして、スマホをベースにメディア革命を起こすため、水面下で計画している次の一手とは何か。

アプリの開発・提供を行うユーザベースのエンジニア杉浦正明氏に、その詳細を聞いた。

短時間で多角的な情報収集を促すためのUI & 機能改善

『NewsPicks』のサービス開発を行う杉浦正明氏

まず、発表会でユーザベース共同CEOの梅田優祐氏と佐々木編集長が明かした新戦略をまとめると、以下のようになる。

【独自コンテンツ5つの特徴】

1. 「イノベーション」や「未来」をテーマとしたオリジナル連載を開始
2. インフォグラフィックスの活用
3. Picker同士、またはPickerと編集部による双方向の議論を促進
4. 同社が展開する企業・産業分析サービス『SPEEDA』アナリストによる解説
5. NYタイムズをはじめとした海外紙との提携によるグローバルキュレーション

【3種類のブランド広告を展開】

1. ブランド・カテゴリー=特定企業と共にテーマ性のあるコンテンツを共同制作など
2. ブランド・ストーリー=連載記事枠を対象にした「番組コーナー提供型」スポンサーシップ
3. ブランド・アカウント=企業がアプリ内で専用チャンネルを開設

一連の施策により、「編集部、メディアパートナー、Picker間でのコンテンツを介したコラボレーションを図っていく」(佐々木氏)ことと、「バナー広告でもタイアップ広告でもない新しいマネタイズモデルを確立していく」(梅田氏)のが狙いだという。

注目なのは、これらすべてを主にスマホの小さな画面上で行い、ユーザーに届けるという試みだ(編集部注:9月19日の発表時点で、アプリのアップデートは「App Storeに申請中で今週メドでリリース予定」とのこと)。

例えば独自コンテンツの特徴の1つであるインフォグラフィックスについて、「PC向けのように1枚の画像に多くの情報を詰め込むと、スマホでは情報過多で見にくくなるため、紙芝居方式で1メッセージごとに1スライドを用意するという工夫をした」と杉浦氏は説明する。

NewsPicksが独自に開発した「スマホ用インフォグラフィックス」の見本

他にも、アプリ内で特定の情報をより多面的に閲覧してもらう仕組みとして、新たに設置した検索窓にキーワードを入れると「関連記事」、「Pickerたちによるコメント」、「アプリユーザー」の3つの検索タイプをスワイプで簡単に行き来することができるUIを採用した。ユーザーが、1つの検索ワードで3軸の情報取集を横断的に行えるようにするためだ。

さらに、記事のPick数というNewsPicks固有の指標を検索アルゴリズムに用いることで、直近にアプリ内で話題になった記事やLike数の多いユーザーがより見つかりやすくなるような施策も打っているという。

バージョンアップ後は、検索ワードを入れてスワイプするだけで(左から)「関連記事」、「コメント」、「ユーザー」情報が閲覧可

こうした機能追加とUI改善は、片手でアプリを操作しながら短時間で情報の解釈を深められるという点で、今までのニュースアプリにはなかった体験をユーザーに提供する。

「今回の新戦略は、コンテンツと作り手、既存のNewsPicksの仕組みをどうやって融合させるかがカギでした。スマホファーストで新しい経済メディアを作るという目標を実現するには、他社がやっていないことに挑戦しなければなりません。オフィスでは、デザイナー、編集チーム、開発メンバーが膝を突き合わせて作業しているので、大量の改善を短期間で行うことができました」(杉浦氏)

プラットフォームとしての進化にこそ、メディアイノベーションの手掛かりが

記事の書き手の「思想」も伝えるべく、例えば画面左の名前部分をタップすると当人のユーザ画面(右)に遷移し、過去にPickした記事履歴を見ることができる

19日、梅田・佐々木の両氏は「今後3年で編集部は100名体制に」、「海外展開も視野に入れ、来年度の黒字化を目指していく」ともコメント。新時代の経済ジャーナリズムを本気で作っていくという意気込みを感じさせた。

ただし、NewsPicksが「専門×人×テクノロジー」によるメディアイノベーションを具現化するには、テクノロジー面での新たな取り組みも不可欠なはず。そこで杉浦氏に技術的な施策を尋ねると、まだ準備段階ながら、発表会では明かされなかった2つの計画が出てきた。

1つは、コンテンツプラットフォームとして記事提供元とともに発展していくための基盤づくりだ。具体的には、NewsPicksに記事を提供しているメディアに各種の分析結果をフィードバックしていく予定だという。

「NewsPicks内でのPVのような基本情報だけでなく、どのように記事が拡散したかを視覚化して提供していきたいと考えています。その他、どういう属性を持つユーザーが記事を閲覧したか、どの程度内容を理解したか(読了率)といった分析結果も閲覧できるようにするつもりです。そうすることで、僕らはメディアの方々がコンテンツづくりのPDCAサイクルを効率的に回していくための“改善プラットフォーム”としての役割を担っていきたいと思っています」(杉浦氏)

そしてもう1つが、スマホに最適化されたコンテンツを簡単に入稿できるようにする「新時代のCMS開発」である。

「Webはもちろんですが、スマホやタブレットから直感的に記事を入稿・管理でき、簡単にマルチデバイス(iPhone、Android、Web)対応できるようなCMSを構築したいと考えています。コンテンツの作り手を煩わしいマルチデバイス対応から解放し、コンテンツの品質そのものに注力できるようなプラットフォームにすることが目標です」(杉浦氏)

その際、Quartz Chartbuilder(https://github.com/Quartz/Chartbuilder)のようなグラフ作成ツールや、インフォグラフィック作成支援ツールも公開していく構想だという。

編集部を新設して自らが作り手となるだけでなく、関わるプレーヤーとの“共創”にも配慮しながら、良質なコンテンツが集まるプラットフォームを作り上げる――。結果が出るかどうか今後の開発を見届ける形になるが、もしもNewsPicksの試みが完遂されたら、「100年に一度のメディア転換期」(佐々木氏)が本当にやって来るかもしれない。

取材・文・撮影/伊藤健吾(編集部)