エンジニアtype - エンジニアのシゴト人生を考えるWebマガジン

やまもといちろう×楠正憲「ネット業界“ソーシャルの次”を本気で考える」(前編)~楽しさだけを突き詰めても先はない

公開

 

yamamoto-kusunoki-1

「話題のソーシャル○○が誕生」、「日本生まれのソーシャル○○アプリがリリース」。

そんな見出しのニュースがネット業界を騒がせてきたここ数年。中には、このムーブメントを“ソーシャルバブル”と表現する記事もあり、もう死語となりつつある「Web2.0」に続く業界の新トレンドとして扱われてきた。

しかし、ここに来て、その流れに陰りが見え始めている。FacebookやZyngaのIPOが不調だったことや、スマートフォンのような新デバイスの普及を受けて、マーケットは「次の展開」を求め出した。

バブル期の終わりは、新たなフェーズの始まりである。各種ネットサービスの作り手たちは、これからのソーシャルWebとどう付き合い、何を変えていくべきなのか。

古今東西のネットビジネスと技術トレンドに精通する2人に、ビジネスとしての「ソーシャルの次」について語ってもらった。

プロフィール
yamamotoichiro

ブロガー・投資家
やまもといちろう氏 (@kirik

元切込隊長として知られるブロガーであり、ビジネス面では投資家、ゲームの企画・制作ほか、コンサルティング事業を手がけるイレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役を務める。著書に『ネットビジネスの終わり』(Voice select)、『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)など多数。自身のブログ『やまもといちろうBLOG』が有名

プロフィール
kusunoki

IT業界きっての知識人
楠 正憲氏 (@masanork

日本のインターネット黎明期から、システム開発やコンサルティングの世界で活躍。日本マイクロソフト技術標準部・部長を経て、2012年からはヤフーセントラルサービス統括本部・技術調査室室長。内閣官房 政府CIO補佐官も務める。テクノロジー×ビジネス×政策立案について語れる希有な存在。自身のブログはコチラ

ソーシャルサービスの今と、抱える課題

―― ここ数年間、ネットビジネスの世界では「ソーシャル○○サービス」がたくさん生まれました。でも、シリコンバレーではFacebookのIPO前後から「No More Social」の風潮が広まっていると聞きます。お2人はソーシャルWebの現状をどうご覧になっていますか?

やまもと ビジネスとしてのサービス設計で言うと、“ソーシャル黎明期”にはポスト検索エンジンみたいな文脈の中で、情報収集や新しい知見を獲得する時「ソーシャルプラットフォームって役立つんじゃないの?」ということが盛んに言われていましたよね。

 そうでしたね。

やまもと ただ、実際にフタを開けてみると、人ってかなり恣意的で、価値のある情報を持ってる人ほど公開しないんですね。本当に使える情報は、他人に勧めもしない。今のソーシャルWebはどうでもいい情報が出回る場所になっている感があります。

yamamoto-kusunoki-2

ある意味で“無料経済”的な普及の仕方をしてきたSNSにおける、ビジネスの難しさを語る2人

 ソーシャルWebには、パブリックな世界と、「友だちだけに公開」のような半プライベートな世界の両面がありますよね。TwitterやFacebookのようなパブリックサービスに限って言えば、アテンションの取り合いになった時にノイズが増え過ぎているのは確かだと思います。ビジネスとして上手くサービスをデザインするのが大変というか。

やまもと で、結局は多くの会社が、プライベートなグラフに注目するようになってますよね。そういう意味では、mixiなんてものすごく先端を行っていた。クローズドコミュニティで、ライフログ的な情報をシェアし合うSNSとして成長してたわけですから。今のダメさが本当にもったいない。

日本はヨーロッパ型とアメリカ型で“股割き”状態になっている

 サービス設計の話で付け加えると、国によってもソーシャルサービスに対する考え方が違うじゃないですか。

やまもと そうそう。僕はイスラエルとかロシアの投資先と仕事をする機会が多いんですが、アメリカ西海岸の「個人情報? まぁいいじゃん」みたいなノリとは対照的。彼らは彼らなりの面倒くさいプリンシプルみたいなものを持ってます。

 どういう倫理でもってサービスを提供すべきか、みたいな議論を相当やってますよね。

―― 西海岸的サービスの代表というのは、例えば2011年前半にシリコンバレーで騒がれた『Color』みたいな感じですか?

Color-photo

スマホ向けのロケーションベースの写真シェアアプリとして注目された『Color』だが…

やまもと ええ。さすがに『Color』はプライバシーがダダ漏れ過ぎて、微妙な感じで終わっちゃいましたが。

 知財やプライバシーに関して、日本はヨーロッパ型とアメリカ型との間で“股割き”状態になっているんですよ。学者の間では「ヨーロッパ型の方が筋が通っている」という意見が多勢ですけれど、ビジネス的には常にアメリカの背中を追いかけています。

やまもと アメリカ型の「やっちゃえ、やっちゃえ」の方が、競争力がありますから。FacebookとかTwitterみたいな巨大プラットフォームはどれもアメリカ生まれですが、一方で例えばフランス生まれのソーシャルサービスが世界的に普及、なんてほとんど聞かないじゃないですか。

 ヨーロッパには法対応の問題がありますからね。でも、日本も今年に入ってからソーシャルゲームの問題などが議論されるようになり、いよいよ「じゃあ日本型って何だろう?」と多くの業界関係者が考えるようになってきました。

やまもと ええ、総務省なんかが頑張ってますよね。

―― プライバシー保護や法規制のお話はのちほど詳しく伺うとして、日本におけるソーシャルビジネスの今後は、どんな展開をしていくと思われますか?

「ソーシャル性」だけでは商売にならない。ならどうするか?

やまもと とりあえず、「ソーシャルってだけじゃ商売にならない」という見方は完全に固まったんじゃないですか。

 今はどのタイミングでどうイグジットし得るか? というロジックがしっかりでき上がっていないと、ビジネスとして非常に難しいですよね。

やまもと スタートアップ系のイベントなんかでされてきた議論って、「儲けの仕組みはでき上がってないけど、とりあえずソーシャルで業界を盛り上げようよ」みたいなところがかなりあって。前から、これはけっこうツラいんじゃないかと感じてました。だって、儲けてるのはイベントスポンサーをやってたサーバ会社だけじゃないですか。

 でも、黎明期が終わった今、お金を生むプラットフォーム形成の入り口としてコミュニケーションに着目するのが良さそうだというのが、一つの正攻法として固まってきた感じがしませんか? LINEしかり。

やまもと 僕としては、LINEがこれだけ勝ち組になれたのは、タイミングが良かったというか、運が良かったんだよなぁと見てます。だから「同じことをもう一度やろう」と考えたとしても再現性はないと思います。
(次ページへ続く)