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欲求とリスクを知って壁を越えろ~やまもといちろう×楠正憲「ネット業界“ソーシャルの次”を本気で考える」(後編)

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「ソーシャルってだけじゃ商売にならない、という見方は完全に固まった/ソーシャルゲームが今一番ツラいのは、ゲームで獲得したユーザーが『外』に出て行かないこと」(やまもと氏)

「業界が成熟してくると、倫理規定づくりは必ず通らなければならない道」(楠氏)

「ネット社会は作り手が考えたシナリオで進むものではない」(やまもと氏)

こうした言葉で、ソーシャルWebの現在地について議論してくれた2人の対談前編は、これからのWeb業界への期待で締めくくられた。

そこで次に聞きたいのが、各種ネットサービスやアプリの作り手たちは、どう今後のソーシャルWebと向き合っていけばよいのかという点。

今年5月に編集長インタビューに登場してくれたLINE然り(記事はコチラ)、ユーザーがムーブメントを作るソーシャルWebは極言すれば「3カ月先の計画なんて無意味」な世界。事前に立てた開発&マーケティングシナリオは、無用の長物になってしまうことも多い。

予測の難しいうねりの中でサービスを開発・発展させていくには何が必要なのか、引き続き2人の議論に耳を傾けてみよう。

プロフィール
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ブロガー・投資家
やまもといちろう氏 (@kirik

元切込隊長として知られるブロガーであり、ビジネス面では投資家、ゲームの企画・制作ほか、コンサルティング事業を手がけるイレギュラーズアンドパートナーズ代表取締役を務める。著書に『ネットビジネスの終わり』(Voice select)、『情報革命バブルの崩壊』(文春新書)など多数。自身のブログ『やまもといちろうBLOG』が有名

プロフィール
kusunoki

IT業界きっての知識人
楠 正憲氏 (@masanork

日本のインターネット黎明期から、システム開発やコンサルティングの世界で活躍。日本マイクロソフト技術標準部・部長を経て、2012年からはヤフーセントラルサービス統括本部・技術調査室室長。内閣官房 政府CIO補佐官も務める。テクノロジー×ビジネス×政策立案について語れる希有な存在。自身のブログはコチラ

安心して使ってもらえる「雰囲気づくり」をどうやるか?

―― 対談前半のお話をまとめると、ソーシャルWebが急速に発展したことで、受け入れる側の社会体制や作り手の倫理といった諸々の「仕組み」がその成長に追いついていないというお話でした。そこで改めて伺います。これからの時代、エンジニアやサービス提供者にはどんな意識が求められますか?

 個人的には、ネットの作り手たちもマネタイズや新規性だけを追い求めず、「良い客層づくり」に腐心していくしかないのかなぁと。リアルな飲食店における「良いお店」と同じというか。

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ネットサービスを「繁盛店」にしていくために、リアル店舗と似たような取り組みが重要と話す楠氏

やまもと と言うのは?

 「良いお店」って、お酒やご飯がうまい、というだけでは作れないじゃないですか。お店の雰囲気というか、来店しているお客さんの質が良いってことも、良いお店かどうかの大切な判断材料になる。

やまもと そうですね。

 なので個々のネット事業者も、まだ法的なルールや業界全体がよりどころとする不文律もでき上がっていないけれど、この雰囲気づくりをどう行うか?に責任を持ってコミットしていく必要があるんじゃないかと思います。

やまもと でも、だからといって風紀を乱すサービスには中国式ファイアーウォールで洗いざらいDNSブロッキングしていくのも難しいじゃないですか。児童ポルノはこれでOKでも、対談前半でもあったようにコミュニケーションの問題はグレーな部分が多いですし。

―― ならば、作り手自身が「良い雰囲気づくり」を進めていくには、どうすればよいと思いますか?

やまもと エンジニアの立場で言うなら、やっぱり技術革新を追求していくしかないと思うんですよ。過去の産業史が、そうするしかない理由を証明しています。

 どういうことですか?

やまもと 例えば、第二次産業革命のころに石炭を効率的に燃焼させる技術が実用化されたんですが、この技術が広まる過程で深刻な大気汚染を引き起こしてしまったと。ぜんそく患者が激増し、死者まで出してしまったので、この技術を開発した人たちはいったん技術を封印してしまうんですね。で、封印後にどうしたかと言うと、石炭燃焼技術で得た富を使って新しい技術開発に精力を傾け、結果的に蒸気機関の発展につながったと聞いています。

 ほほー。

やまもと 今のソーシャルWebにおけるプライバシー問題なんかも同じで、現状の法体系や技術がすべての事象をカバレッジすることはできなくても、問題に対して誠実に向き合っていく過程で、別の法体系だったり、ブレークスルーを生むような優れた技術が出てくる可能性があるんじゃないかと。

―― なるほど。

やまもと 今のネットで、セキュリティや表示/非表示をつかさどる技術分野はワールドワイドで解決策が求められてる部分ですし、手掛けるエンジニアにとっても非常に大きなモチベーションになると思うんですよ。

 今はまさに、ソーシャルWebにとってのマスキー法施行前夜、40数年前の自動車業界みたいな時期なのかもしれませんね。

新たに生まれた課題を解決するのも技術力

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From Rennett Stowe
一大産業として成長した自動車産業で起こった「進化のプロセス」と似たようなことが、ソーシャルWebでも起こる?

やまもと それに、逆説的に言うと、成功してみないと問題点って浮かび上がらないわけで。Facebookあたりがどうしてプライバシーの議論の対象になったかっていうと、ぐぅの音も出ないくらい大成功したからです。

 確かに。

やまもと LINEなんかもそう。ソーシャルゲームがあんなに叩かれるのだって、一つの市場として市民権を得たからです。

 だから、ソーシャルWebで新マーケットを創造した人たちには、どうやって技術的に問題解決が可能なのか向き合う責任があるというか。その方が建設的ということですね。

―― 最近のWebやアプリ開発では「いち早く作る」部分に価値が置かれている節もありましたが、今後「どう課題を解決するか」に再び価値が置かれるようになる、と?

やまもと ええ。いずれにしても、エンジニアの力はもっともっと重要になってくるはずですよ。
(次ページへ続く)