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電気自動車の普及に向けて日産『リーフ』が取り組む3つの課題と、4つ目の見えざる壁【連載:世良耕太⑱】

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F1ジャーナリスト世良耕太の自動車開発探訪

F1・自動車ジャーナリスト
世良耕太(せら・こうた)

モータリングライター&エディター。出版社勤務後、独立し、モータースポーツを中心に取材を行う。主な寄稿誌は『Motor Fan illustrated』(三栄書房)、『グランプリトクシュウ』(エムオン・エンタテインメント)、『オートスポーツ』(イデア)。近編著に『F1のテクノロジー5』(三栄書房/1680円)、オーディオブック『F1ジャーナリスト世良耕太の知られざるF1 Part2』(オトバンク/500円)など

「2020年には全自動車の10%がEVになると考えている」

電気自動車(EV)のマーケットリーダーとなることを狙って日産自動車が開発した『リーフ』は、2010年12月20日に満を持して発売された。その数カ月前、ゼロエミッション戦略を担当する社員の口から出たのが冒頭の言葉である。

Leaf_Nissan

From Nissan
電気自動車の先駆者的存在の日産『リーフ』

その発言から2年半が経過し、周囲のクルマの10台に1台がEVになる日まで、あと7年となった。このままのペースでは当初の予測通りにならないし、社運を賭けた事業にも暗雲が垂れ込める……。

そう危機感を抱いたかどうか、日産は2012年11月20日にリーフをマイナーチェンジした(全面改良はフルモデルチェンジ。小~中規模な改良はマイナーチェンジと呼ぶのが通例だ)。

革新的かつ先進的な製品が手に入るようになったからといって、すぐに消費者が手を伸ばすとは限らない。クルマは高額商品だし、耐久消費財だし、日用品でもある。自分が普段使う環境で、ストレスを感じないことが重要だ。

その点は日産も重々承知していて、電気自動車が普及するには、

1. 価格
2. 航続距離
3. 充電スポットの整備

の3つの要素が重要だと認識している。

「リチウムイオンバッテリーのコストが下がると同時に容量を確保できるようになったからEVを量産する意思決定を下すことができた」背景はあるものの、エンジンを積んだ普通のクルマから乗り換えをうながすには、1~3すべての点で物足りない状態にあることを、日産の人々は認識していたわけだ。

航続距離の改善は進むが、まだ払拭できない不安

今回のマイナーチェンジでは、2の面を強化した。

バッテリーパックの改良などによる約80kgの軽量化と、協調回生ブレーキ(制動時に捨てている運動エネルギーを回収し、電気エネルギーに変換するシステム)の効率を高めたことなどにより、カタログ上の航続可能距離を200kmから228kmへと高めた。

この14%の航続可能距離向上が、実際の使用シーンでどのような恩恵をユーザーにもたらすか、非常に興味深い。というのも、筆者は昨年末、沖縄でリーフとともに4日間を過ごしたからだ。そして、ちょっとばかり心細い思いをした。

1日目のはじめ、クルマに乗り込んだ時点でメーターが示す航続可能距離が155kmであったり122kmであったりしても、走り方によって数字は急激に減り(数字が増えることもあるが、まれだった)、「充電スポットにたどり着く前に電池がなくなったらどうしよう」という不安を覚え始める。

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撮影 世良耕太
沖縄へ訪れた際にレンタルしたリーフのパネル。表示される航続可能距離が急激に変わることも

4日間の滞在で300km弱を走ったが、実質的には80~100kmのインターバルで充電しないと、電池切れ→立ち往生の不安がつきまとう。充電スポットがあちこちにあればいいのだが(増やしている途上ではある)、これまた不安を増長するほどに、離れた場所にあるケースがほとんどだった。

Leaf_photo_Okinawa

撮影 世良耕太
筆者が沖縄で立ち寄った充電スポット。ガソリンスタンドに比べればまだまだ数は少ない

EVと同じリチウムイオンバッテリーを使うスマホに置き換えて考えてみよう。いじらなければバッテリーの減りはゆっくりだが、アプリを使い続けたり、データのやりとりを頻繁に行ったりすると残量は急速に減る。

それはEVも同じで、快適に使うための方策の1つは、バッテリーの容量が増えてくれること。そうすれば、「充電のタイミング」を気にかける必要はなくなる。

スマホの場合、現時点でのEVに比べればだいぶ恵まれていて、充電スポット、すなわちコンセントの捜索に困ることはほとんどない。あったとしても、電池式充電器を持ち歩いていれば急場はしのげる。電池残量がゼロになった時のダメージ(面倒臭さ)も、EVに比べれば小さいだろう。

たとえるなら、現在のEVはコンセントを探すにも苦労する環境で1時間しか電池がもたないスマホを使うようなものだ。しかも、1台10万円もする(あくまで、たとえだ)。

走行中のエミッションはゼロであっても、静かであっても、モーターがもたらす継ぎ目なく力強い走りが気持ち良くても、現時点の性能や環境や価格で身の回りのクルマのうち10台が1台になるまでに普及すると考えるには無理がある。

政策と補助金により、「買い時」は来つつあるが……

だから、少しでもユーザーの心理的ハードルを下げようと、日産はまず、EVの普及をうながすであろう3つの課題のうち、航続距離に手を付けたのだ。

課題3の充電スポットの整備にも継続して取り組んでいる。電池の持ちが悪くても、充電できる場所が増えてくれれば不安は軽減されるからだ。

第2次安倍内閣が充電スポットの整備に積極的な政策を打ち出しているのも追い風だろう。経済産業省は、次世代自動車の加速的普及に向けて、2020年までに普通充電器200万基、急速充電器5000基(日産の発表によれば、2012年11月時点で1200ヵ所以上)のインフラ整備を推進すると表明している。

課題1の価格は政府の補助金が頼りなのが実状だ。例えば、リーフの最廉価版『S』のマイナーチェンジ発表時点での全国希望小売価格は334万9500円(税込み)だが、最大78万円の購入補助金(2012年度クリーンエネルギー自動車等導入促進対策費補助金)を受給することができ、実質的にユーザーは256万9500円の負担で済む計算になる。

いっそうのテコ入れが必要との判断だろう。アメリカで価格を6000ドル下げる決定を下したのと連動しているようにも受け取れるが、1月17日に日産は、4月からリーフの価格を約28万円引き下げると発表した(編集部注:2013年1月時点でも、同車Webカタログのトップで還元キャンペーンを告知している)。

4月以降の補助金が現在と同額であれば、最廉価版の価格は実質約229万円になる。必要十分かどうかは別にして、EVの普及を後押しする課題は、3つの領域すべてで好転することになるのだ。

これが、昨年末から今年初めにかけてのEV(特に日産リーフ)と、EVを取り巻く環境の変化だ。

4つ目の「見えざる壁」は、技術革新の伝え方にあるのではないか

さて、これでEVの普及に弾みがつくだろうか。待ち構えているのは、相変わらず険しい道に違いない。

リーフは「近所への買い物から休日の長距離ドライブまで、1台で何でもこなすクルマ」を想定している。近所だけで使うには性能や価格が過剰だし、遠乗りするには航続可能距離が短すぎて(充電スポットも少ないし)、いまだに“帯に短し、たすきに長し“状態である。

視点を変えて「海外はどうなのか」と観察してみると、ヨーロッパでは、長距離移動には「レンジエクステンダー」がふさわしいとの考えに進みつつあるように感じる。レンジエクステンダーとはモーターとエンジンを搭載したクルマで、モーターのみの動力で走行し、エンジンは発電専用に用いる。バッテリーの残量が少なくなったらエンジンが始動し、発電機を駆動して充電する仕組みだ。

一方、都市内で短距離を移動するには「超小型モビリティが最適」という見方も浸透しつつある。

Renault_Twizy

撮影 世良耕太
筆者がヨーロッパを訪れた際に見かけた『ルノー・トゥイジー』。すでに街に溶け込んでいる

ルノー・日産アライアンスは2人乗り小型EVの『ルノー・トゥイジー』と『NISSAN New Mobility CONCEPT』を開発。日産の超小型EVは実証実験の段階だが、ルノー・トゥイジーは市販され、すでに公道を走り回っている。

ヨーロッパでもリーフは売られているが、ドイツ・フランクフルト空港で見かけた広告看板では、「スマホでエアコンをリモートコントロールできたら、乗り込む時に暖かくて便利でしょ」と訴えかけていた。

100%ELECTRICであることが革新的なのではなく、クルマの一部機能を遠隔操作できることが革新的だと訴えているわけだ。

新しい時代が目まぐるしく展開していることは、日本にいるよりもヨーロッパに滞在している時の方が強く感じる(都市と田舎の落差は日本以上に激しいけれども)。日本は、新しい技術なり考えをトライしにくい環境なのだろうか。それとも、技術や考えがユーザーのニーズとマッチしていないから、目を引かないし、浸透しないのだろうか。

EVの普及に立ちはだかるハードルは、上記3点だけではないような気がする。