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「技術で人をエンパワーする」オンライン請求管理『Noroshi』開発チームが持つ、異端のギーク魂【連載:NEOジェネ!】

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世間をアッと言わせるユニークなアイデアと技術力で勝負しているニュージェネレーションを応援するこの連載。今回登場するのは、『VINGOW』開発のJX通信社から紹介された、7-bitesの2人だ。ノマドやコワーキングといった新しい働き方が広まる中、「働く個人のチカラを最大限に引き出す」ために生み出したのは、”非クリエイティブ業務”を効率化するクラウドサービスだ。
7-bites株式会社
(左)取締役 中野諭一氏    (右)代表取締役  澤田翔太氏

SOHOや個人事業主にフォーカスしたオンライン帳票管理ツール、それが『Noroshi』だ。

多くの個人事業主は、見積書、請求書、領収証といった帳票をExcelなどで作成しているのが現状だが、その仕様は取引先やプロジェクトによってまちまち。すべてを手作業で対応・管理するとなると、煩雑な作業となってしまう。

大企業ならばエンタープライズ向け業務ツールが対応しているこの領域での課題解決を、『Noroshi』はスモールオフィス向けに絞って開発。帳票類の作成~受発信~整理・管理を簡単に行えるクラウド型ツールとして2011年5月にプレローンチ、同年8月に本ローンチを行い、その後も改良を重ねている。

海外発の類似サービスとしては『Zoho Invoice』や『Mint』などもあるが、日本発のツールとしてはオンリーワン。古くからの商慣習が残る日本の帳票文化にも柔軟に対応しながら、ノマドやコワーキングが注目される現代社会の「働く個人」を強力にサポートしている。

「僕自身がベンチャーの一員として、またフリーランスのエンジニアとしてプロジェクト単位で仕事をしてきたんですが、請求書などの対応を非常に面倒くさく感じていたんです。だから、自分で解決できるツールを作っちゃった」と笑うのは、Noroshi開発者で7-bites代表の澤田翔太氏。

必要は発明の母といったところだが、BotoCやCtoCのソーシャルサービスをローンチするスタートアップに脚光が集まる中、あえてBtoBで、地道な帳票管理サービスを選択したところが、かえって話題を呼んだ。

「何年か前に米国発の『フリーエージェント社会の到来』という本が話題になりましたけれど、日本では今まさにスモールオフィスやコワーキングスペースによる働き方が増えてきていますよね。そこで需要が高まるのがこうしたツールだろうと考え、中野とのコンビネーションで作っていったんです」(澤田氏)

澤田氏が「コンビネーション」と呼ぶのには理由がある。一つは代表の澤田氏自身もプログラマーであるため。もう一つは、7-bitesはオフィスを持たないからだ。

もともと別のプロジェクトに携わっていた澤田氏と中野諭一氏が友人を介して出会い、「フリーエージェントをエンパワーするツールを作る」というコンセプトに互いが共鳴。『Noroshi』で目指すコンセプトを「帳票管理をToDoリスト化する」と決め、バックエンドをRuby on Railsで開発することまでを決めた後は、遠隔で開発を行ってきた。

「基本的に澤田がバックエンドを担当して、僕はデザイン畑から入ってきた人間なのでフロントエンドを担当しています。澤田が示した道筋を僕の方で具体化する、というスタイルが自然とでき上がっていました」(中野氏)

この分担作業の中で、澤田氏は「プログラマーとしてのエゴをかなり抑えてやってきた」と打ち明ける。

「実は僕、根はめちゃくちゃギークなタイプなんですよ。『Noroshi』も本当はRailsだけじゃなく、Clojureとか、Haskellとか、ひたすらトレンドの技術を使いながら開発したかったんですが、ある理由で『それは自制しておこう』と」(澤田氏)

澤田氏の言う「ある理由」とは?

成し遂げたいことに対して、その技術は最適か?

お互いに技術志向の強い2人が作った『Noroshi』。だが、その裏側はいたってシンプルな構成になっている

お互いに技術志向の強い2人が作った『Noroshi』。だが、その裏側はいたってシンプルな構成になっている

「本当はオープンソースにどっぷり浸かりたいと思ってるくらい、プログラミングが大好き」と話す澤田氏。

デザイナー出身の中野氏も、澤田氏とタッグを組んだ理由の一つに「プログラミングを覚えたかったから」と話す。そんな2人が、なぜポリシーとして「開発者のエゴを捨てる」ことを掲げたのか。

「難しい理由じゃありません。サービス開発の基本として、成し遂げたいことに対して、枯れている・枯れていないに問わず最適な技術を採用すべきだと信じてるからです。僕は技術とユーザー体験、経営の橋渡しのできるエンジニアになりたい」(澤田氏)

「2人ともそれぞれ個人でも仕事をしてきたから、帳票管理がいかに面倒で、なぜ有効なWebツールがないのか、と実感していました。じゃあ、管理ツールに求められる機能は何なのかを詰めていくと、『こだわるべきは設計思想とユーザーエクスペリエンスだ』ということで一致したんです」(中野氏)

澤田氏も中野氏も、「『Noroshi』開発以外にも仕事で手にしたい夢がある」そうだ。そんな自分たちが、将来帳票を管理するユーザーとなった姿を思い浮かべれば、なおのこと『Noroshi』に尖った機能は不要だった。

「大事なのは、『どれだけ簡単に、短時間で帳票作業を済ませられるか』ってことでした」(中野氏)

そんな取捨選択の設計で到達したのが、「帳票管理をToDoリスト化する」というコンセプト。それを実現するための開発に集中していく中で、2人の力点は技術力でエッジを立てるのではなく「サービス自体の価値でエッジを」にシフトしたのだ。

「使わない機能をゼロにする」取り組んだのはニーズの抽象化

寄せられるニーズの細かさにどう対応するかで喧々諤々の議論を続けた2人は、「抽象化」という解を出す

寄せられるニーズの細かさにどう対応するかで喧々諤々の議論を続けた2人は、「抽象化」という解を出す

「『Noroshi』を開発し始めて、プレローンチ後のフィードバックなどを受け止めるうちに分かったのが、僕らの想定を超えるユーザーニーズの細かさでした」(中野氏)

目標にしていた「まずはExcelの帳票よりも手軽に作成できること」をクリアした後は、どこまで細かなニーズに対応し、何を切り捨てるかという議論に延々と時間が費やされた。

帳票作成の仕事は敬遠する人が多いのに、いざ作ることになると細かなディテールにこだわる。「ここにこういう項目を入れたい」、「ここには空欄がほしい」という要望をすべて満たすツールにしていけば、操作性や汎用性は確実に下がる。最小公倍数をめぐる検討が続いた。

「それでたどり着いたのは、『ユーザーが使わない機能をゼロにしよう』という設計思想。そのためにも、ユーザーが個々に持ち合わせている要望をどれだけ抽象化できるかが勝負でした」(澤田氏)

その結果が、今年2月に実施した、帳票テンプレートの増加だ。増加といっても5つに絞り込み、さまざまな処理に対応できるようにフォーマットを作成。それも、個人でもチームでも利用可能なように設計してある。

さらに、2人は抽象化思想によって「ユーザーニーズを超える」試みにも取り組んでいる。特にUI面でそれが顕著に表れていると中野氏は言う。

「まぁ、あるわけですよ。古色蒼然な請求書の仕様とかがいまだに(笑)。そういうものを作ったり管理するツールの画面まで、昭和な匂いのするものじゃ、作業するユーザーもイヤだろうな、と。そこで、ほどほどのバランスも考えながら、ポップな色合いも加えていったんです」(中野氏)

『Noroshi』の至るところに出てくる狼のキャラクターは、あえて「帳票管理とは結び付かないゆるキャラ」として作成

『Noroshi』の至るところに出てくる狼のキャラクターは、あえて「帳票管理とは結び付かないゆるキャラ」として作成

『Noroshi』のメイン画面には狼のイラストが登場するが、例えば「この狼カワイイ」というような反響が、Twitter上で相当数登場した。

「長く使ってもらえるサービスって、それまでの人の行動を変えるものだと思うんですね。だから、『イヤな帳票管理の仕事を楽し気に演出する』ことも大事だろうと話した結果、キャラクターも作っちゃおうってことになりました」(澤田氏)

機能面での課題はまだまだあると2人は言う。今後は帳票作成ツールとしての完成度をもっと上げつつ、管理会計への対応や、経費管理のオンライン化なども検討している。それらも、彼らの「木を見て森も見る」エンジニアリングが近いうちに実現するはずだ。

取材・文/森川直樹 撮影/竹井俊晴

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