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ベトナム最大規模のオフショア開発会社をゼロから作った藤田伸一氏に聞く、開発プロジェクトを成功へ導く3つの要因

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わずか10%――現在のオフショア開発の成功確率は、その程度だと言われている。国内の開発プロジェクトでも成功率は約30%と言われる昨今、物理的・言語的な距離がある海外でのオフショア開発が困難を極めるのは火を見るより明らかだ。

そんな環境の中、ハイクオリティでスムーズなサービス開発を武器に、わずか3年でベトナム最大規模のオフショア開発会社を築き上げた男がいる。それが、旅キャピタル執行役員CTOでエボラブルアジア最高執行責任者の藤田伸一氏だ。

オフショア開発経験はゼロだったものの、過去のPM経験を活かしてオフショア開発会社の起業に挑んだ藤田氏

藤田氏は、新卒で大手SIerのCACに入社後、AOLジャパンで技術部門の責任者を務めるなど多彩な経験を積んできた。

その経験を活かし、ベトナム・ホーチミンで2008年に設立したソフトウェア開発会社では、設立当初、藤田氏とベトナム現地スタッフの2人しかいなかった状態から、たった3年で150人規模のオフショア開発会社へと成長させた。

現在は、設立わずか1年で100名規模という成長を続けるエボラブルアジアの最高執行責任者として、ベトナムのオフショア開発業界を再びけん引している。

立ち上げ当初は、品質管理に苦労してクライアントに迷惑をかけるなど、なかなか上手くいかなかったそうだが、その原因はベトナム人エンジニアの技術力にあったわけではない。「当時在籍していたベトナムの技術者は、平均年齢27~28歳と若手が多かったため、トラフィックの負荷分散や例外処理のエラーチェックなどに関する経験値が圧倒的に少なかっただけです」と藤田氏は話す。

明るみになった課題を解決するためにいろいろと工夫を重ねていった結果、開発の失敗は徐々に減少。現在では、どんなプロジェクトでも自信を持って遂行できる体制を築くことができた。

では、藤田氏は開発プロジェクトを成功へと導くためにどんな工夫を行ってきたのか。ポイントは、以下の3つだ。

1) 開発過程の「見える化」を徹底する
2) シンプルかつ、一貫性のあるメッセージを伝え続ける
3) Googleのように開発環境を充実させる

「チケット駆動+タスクのビジュアル化」で、開発効率が劇的に上がる

「開発を担当するのが人間である以上、ミスを100%なくすことはできません。それならばということで、プラットフォームを充実させ、開発環境の見える化を徹底しました。具体的に導入したのは、チケット駆動型の開発手法です。例えば、『ボタンの位置を変更すること』を1024番のタスクにするなど、開発を細かくパーツに分けてチケット化し、そのタスクの進ちょく状況をオフィスの壁にプロジェクターや巨大LCDで映し出して一目で分かるようにしました」

藤田氏は「開発環境を良くし、開発者の環境を改善することがもっとも重要なことだ」と話してくれた

進ちょくに問題がなければブルー、不具合があればイエローというようにビジュアル化しているため、万一の問題発生にも担当者がすぐに気付き、対応できるという。

この仕組みづくりにより、チームの1人1人が緊張感を持って開発に取り組むように。

「また、人事評価の見える化も、オフショア開発を成功させるためには重要です。わたしの場合は、エンジニアの評価をSQL・ACT(Speed、Quality、Leadership、Analysis、Communication、Testing)といった6つの指標により数値化し、それをそのまま給料査定に反映させるようにしています」

この評価制度により、言葉が通じない環境でも、給料の差により不平不満などが出ることなく、全員で、目指すべき方向に向かった開発ができるようになったそうだ。

「日本のPMは余計なことを話し過ぎ」シンプルな言葉が士気を高める

次に大切なのは、プロジェクトマネジャー(以下、PM)が適切な目標を立て、それを伝えるメッセージが一貫していること。

「通常、マネジャーは納期、品質、クライアントからの新たな要望など、多くの懸念点に頭を悩ませています。そんな状況の中で、いろんな問題を一気に現場スタッフに共有してしまうと、混乱を招きやすい。でも、PMが問題をきちんと咀嚼して、一貫したシンプルなメッセージを伝えていれば問題は起こりません」

例えクライアントから厳しい要求が急に来ても、現場に下ろすメッセージの根幹は変えない。急を要する場合は、なぜ緊急なのか、その理由は何であるのか、それだけをお願いすればよい。このように、一度に多くのことを伝えずに、シンプルにメッセージングすることも重要だと話す。

「日本人のPMは余計なことを話し過ぎる傾向にあります(笑)。重要でない課題を即座に判断し、それを捨てる勇気を持つことも大切です。これは、良いPMの条件にもなりますよね」

技術者の能力を引き出す原理は、Googleに学べ

最後に、オフショア開発で軽視されがちなのが、オフィス環境である。最近、Googleが社食をタダにする理由という記事が話題になったが、実はオフショア開発でもまったく同じことが言えるという。

藤田氏は「まだまだ物価が安いベトナムだからこそ実現できることかもしれない」と前置きしつつ、こう話す。

「オフショア開発の、どことなく開発工場のようなイメージを払拭したい」という思いから、職場環境にも気を遣っている

「開放的なオフィス空間で、時々休息を入れた方が、開発の生産性は高まるのです。しかし、残念なことに、アジアで開発を受託する企業は労働集約型のビジネスモデルであるがゆえに、えてして工場のようにデスクをずらっと並べてひたすら開発させるような環境を作りがち。

わたしの会社ではそのイメージを打開するべく、コミュニケーションスペースや昼寝スペースをふんだんに用意し、スタッフに自由に活用してもらうことでストレスフリーな環境づくりを心掛けています。極端な話、Googleのようなオフィスでもいいんですよね」

以上のような3つの工夫を実践することで、藤田氏はベトナム最大規模のオフショア開発会社を築き上げたのだという。

「オフショア開発会社を作るときに大事にしていることがあって、Visionの『V』、Platformの『P』、Staff/Serviceの『S』をもじってVPSと言っているんですが、結局はこの3つを大切にすることが、優秀な組織を作る時に重要なんだと思います」

では、「開発プロジェクトをスムーズに進めるために、今すぐにでも実践できることは何か」と聞いたところ、藤田氏は「現場スタッフのストレスを少しでも取り除いてあげること」だと話す。

藤田氏自身、『ChatWork』や、『Google Apps』、『Redmine』といったビジネスツールを導入したことで、開発メンバーのストレス軽減に奏功した経験がある。「情報交換」、「タスク管理」、「ファイル管理」がすべて効率化でき、かつ社員同士で今の心境をカジュアルに共有することができるようになったからだ。

最後に、藤田氏に今後の目標を聞いた。

「現在わたしが最高執行責任者を務めるエボラブルアジアは、アジアでの5年間の開発ノウハウをすべて詰め込んだ集大成のような会社です。さらに当社は、プロジェクトごとに担当エンジニアやブリッジSEが変わる従来のオフショア開発と異なり、一クライアントに必ず専属の開発チームを設け、クライアントのPMと一体となり開発を続ける『ラボ型開発』に特化。この強みを活かして、将来的にシンガポール市場での上場を視野に入れながら、『アジアNo.1のITプラットフォーム』を目指したいですね」

取材・文/丸吉宏和 撮影/小禄卓也(編集部)