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「時には会社を『健全に私物化』する」有名エンジニアが趣味を仕事にする発想力とは?【対談:法林浩之×川崎有亮】

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お酒を片手に「一流エンジニアの人生論」を紐解くトークイベント『TechLION』のファシリテーター・法林浩之氏が旬のエンジニアを招き、ゲストの「オン(仕事)とオフ(プライベート)の考え方」からキャリア形成のヒントを掘り起こす連載企画。今回のゲスト・川崎有亮氏はどんな仕事観や人生観を持ち、それをどう共存させて成長してきたのか……。キーワードは、「会社を健全に私物化する」ことと、「テーマ設定」そして「自然発生した成長欲求」であった。
法林浩之のトップエンジニア交遊録

法林浩之

大阪大学大学院修士課程修了後、1992年、ソニーに入社。社内ネットワークの管理などを担当。同時に、日本UNIX ユーザ会の中心メンバーとして勉強会・イベントの運営に携わった。ソニー退社後、インターネット総合研究所を経て、2008年に独立。現在は、フリーランスエンジニアとしての活動と並行して、多彩なITイベントの企画・運営も行っている

法林浩之のトップエンジニア交遊録

川崎有亮

千葉大学工学部在学中に学生ベンチャーを起業。2006年リクルートに入社し、同社の R&D 機関であるメディアテクノロジーラボを通じてMashup Awardsの運営や新規事業開発に取り組む。米国シリコンバレー子会社 Recruit Strategic Partners での活動を経て、2012年に独立。エンジニア、起業家、カンファレンスのスピーカー、イベント企画者など幅広い顔を持つ。クルキューズ取締役。ホームページはコチラ

法林 川崎さんとお会いするのは、今年1月ののTechLION vol.11以来ですね。相変わらずの人気ぶりでしたが、今日はちょっと昔のことも思い出してもらいつつ、今の川崎さんに至るまでをお聞きしたいと思うんです。まずは学生時代のことを聞きましょう。起業していたんですね?

川崎 はい、ちょうどiモードができたぐらいの時代ですね。今ならスタバでもマクドナルドでも仕事できちゃいますけど、当時はネット関連のビジネスをするとなると、線を引いてくる場所が必要で(笑)。千葉大の裏門あたりに4畳半の部屋を仲間と借りて、OCNエコノミーを引いて、という感じでした。

ベテランエンジニア同士の対談となると、「OCNエコノミー」などしばしば昔を懐かしむ話題が上がってくる

法林 何か懐かしいな(笑)。「OCNエコノミー」とか聞いちゃうと、時代を感じますね。ともあれ、リクルートに入社されたのは起業が一段落した後、ということですね?

川崎 わたしは起業することを目的にするようなタイプでもなかったですし、リクルートという会社がやりたいことを好きにできそうな会社だったので、すんなり移りました。

法林 それで、リクルートでは何を?

川崎 良いタイミングで入ったなぁ、と思います。入社翌年にメディアテクノロジーラボという組織ができました。リクルートは紙媒体からネット媒体への事業転換で積極的にR&Dを行っていたわけですが、ラボにネット好きの人間が集まって「面白いことしようよ」という空気だったんです。とにかく新しくて面白いことにどんどん着手できる環境でしたし、その上Web2.0で盛り上がっていた時代背景のおかげもあって、次々といろんなことをしていきました。

法林 マッシュアップアワードもその1つですよね?

川崎 そうです。Web API からスマートフォン・各種デバイスとフィールドが広がって、500作品も応募いただくようになりました。

法林 すごいなぁ。そうして日本最大の開発コンテストに育っていったわけですね。僕の場合、勉強会やイベントを長く続けることには自信があるんですが、マッシュアップアワードのように規模が劇的に大きくなってはいきませんから(笑)、拡大する枠組みの秘訣というのをぜひ川崎さんに教えてもらいたいですよ。

川崎 いえいえ、法林さんの長く続けるパワーにはかないません(笑)。でも、マッシュアップアワードが上手くいった理由を考えると、何よりも「企業が乗っかりやすい枠組み」になっていたことにあります。要するに、企業がお金を出して自社だけでは実現しないような技術開発を応援していく形で、マッシュアップアワードはこの形に上手くハマったんですよね。しかも複数の企業が協賛できる枠組みにしたから、それまで1社単体でイベントなどを開けなかったような企業も乗ってくれたんです。

法林 なるほど。たしかに企業単体で技術開発支援をしようと思ったら大変だけど、乗りやすい枠組みを提示されたなら、熱心な企業は前向きに参画していきますよね。個人だけでなく企業も次々と巻き込んでいく仕掛け作り、というのは大いに参考になります。

そろそろオフの話も聞こうと思うんですが、川崎さんはオン・オフをどのように切り分けたり、考えたりしていますか?

「健全なる私物化」にはちゃんと意義も価値もある

「興味の範囲が広いがゆえに、オフでやっていることをオンに転換させる」という川崎氏

川崎 やりたいことがいっぱいあるので、それがオンタイムだろうとオフタイムだろうと関係なくやってしまおう、って感じですかね。ただ、マッシュアップアワードみたいなことは、リクルートのような自由で前向きな会社があって、そこのお金やリソースを使えなかったら実現できなかったとは思いますが。

法林 言うなれば、会社の私物化でしょうか(笑)。いや、成功させたんだから、「健全なる私物化」ですね。これはすごい。実現したいと思っていてもオフでは到底できないことを、しっかり仕事につなげて、なおかつ成果を上げてる。

川崎 いいですね、その「健全なる私物化」っていう言い方。でも、本当にその通りでしたね。わたしが仲間内で作ったJavaScript好きのコミュニティ『Shibuya.js』はもっと普通に「何かやろうよ」という同士が集まって始めたことでしたから、オフの取り組みになるんですけれど、結果として『Shibuya.js』のコミュニティ運営や勉強会の経験もマッシュアップアワードに活かされたりもしました。

オンとオフの取り組みがクロスオーバーして、相乗効果になっていったんです。考えてみたら、わたしの場合、オンとオフの間に境界線というのがもともとないのかもしれません。出席管理サービスの『ATND』も、変な経緯で生まれましたし。

法林 そういえば、『ATND』もリクルートが作ったサービスなんですよね。それがどんな経緯で開発されたのか、興味ありますねぇ。

川崎 2008年に、jQuery UIの開発リーダーがドイツから日本にやって来るという情報を聞きつけて、「すごいじゃん、イベントやっちゃおうよ」となったんです。もうこれ、仕事とは関係ないんですけど(笑)、100人規模を収容できる会場を突然用意できるわけもなく、許可を得てリクルートの大会議室を使わせてもらうことにしました。

法林 またもや私物化! 良い会社ですね、リクルートって。

川崎 でも、「jQuery UIの大物が来日」と言ったって、当時はどんな人がどれくらい来場してくれるか分からなくて、「何か良いツールないかなぁ」と悩んでいたら、隣の席のエンジニアがRuby on Railsに熱中していて、「Railsのトライアルにもなるから作ってみるよ」と。そうして生まれたのが『ATND』のプロトタイプでした。

法林 それはすごい……。でも、本来の開発はこうあるべき、とも言えますよね。必要があるから、良いツールが生まれる。そこはやっぱり「健全」だと思います。でも、そんな恵まれた環境だったリクルートを去年お辞めになりましたよね?何かきっかけのようなことがありましたか?

川崎 きっかけと言えるほどではないんですが、昨年、リクルートのシリコンバレー・オフィスの立ち上げにかかわっていて、何度も向こうに行っていたんです。

法林 向こうのエンジニアや開発環境に刺激を受けた?

川崎 そうですね。シリコンバレーで学んだことなんですけど、ハッカソンには3つ形があると思っていて。1つ目が技術者同士がワイワイするようなイベントで、2つ目がそこに企業が参入するモノです。3つ目は何かというと、参加者が「やるからには絶対に小切手をつかんで帰るぞ」と燃え上がっているスタイル。

投資家側の目線でいえば「多額の賞金を提示してでも飛び抜けた開発者やプロダクトを青田刈りしたい」というスタイルですね。これがシリコンバレーでは当たり前になっていて、良くも悪くも日米のエンジニアの姿勢や、投資家とのかかわり方というものに違いを感じてしまったんです。

法林 集まっているエンジニアの数も、投資家からの注目の度合いも、日米では違いますよね。でも、そこで「オレも一発当ててやる」と思ったわけではないでしょ?

川崎 はい。それよりも、「何か始めるのなら早い方がいい」という意味での刺激を受けたのが退職、独立のきっかけです。逆に「シリコンバレーのワン・オブ・ゼムになるよりも、東京で一番エッジの利いた存在になろう」と思いました。

法林 そうして独立をされて今に至るのでしょうけれど、何か具体的な準備みたいなものはしているんですか?事業を興すとか、カンファレンスで面白いものを仕掛けていくとか。

(次ページへ続く)