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政府も注目するオープンデータは、エンジニアにとって新たなビジネスチャンスの宝庫になる – OKFJに聞いた

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大統領選挙などでも積極的にネットを活用してきたオバマ米大統領。同氏は「オープンガバメント」を全面的に打ち出している

2008年に初当選したバラク・オバマ氏は、大統領就任直後の2009年1月に『透明性とオープンガバメント』政策を発表した。政府が持つ情報を、よりオープンにすることで市民の政策立案プロセスの参加を促し、市民や企業が政府行政と連携して新しいイノベーションを生み出すことを掲げたものだ。

こうした動きは、市民や民間企業が参加する参加型社会の流れを生み出している。

日本でも次第に広まりつつある「オープンガバメント」の考えは、政治行政の透明化や官民協働、それによる行政の効率化や経済の活性化へと結びついていく。

オープンガバメントは、ソーシャルメディアを活用し、双方向のコミュニケーションによって国民の側から意見を吸い上げる取り組みによって、政治主導ではなく市民主導の社会へと移っていく。市民の側からの自発性と創発的なアイデアを作り出し、アジャイル開発でスピードのある意思決定が生まれる環境の一つとして、データをもとにした仮説検証は重要となってくる。

日本でも注目を浴びるようになったオープンデータ

その中でも、政府が持っている情報を公開し、その情報をもとに新しいサービス開発やビジネスチャンスを促進する「オープンデータ」に対する取り組みが、日本でも注目を浴びるようになってきた。

Where Does My Money Go?』は、自身の年収のうちいくらが市税や町税で、それらが何の目的で使われているのかを1日当たりの金額で可視化するWebサービスだ。まさにオープンデータを用いて作り上げたサービスであり、現在では全国10カ所以上もの地域に広がるムーブメントとして、各地に広がっている。

(写真左から)高木祐介氏と庄司昌彦氏

こうした政府行政などの公共部門が所持するデータを公開することの具体化と、世界的なオープンデータの事例共有や普及を目指し、2012年7月に設立されたのが「Open Knowledge Foundation Japan(以下、OKFJ)」だ。

これにかかわっている、国際大学グローバルコミュニケーションセンター(GLOCOM)の庄司昌彦氏と自動処理の高木祐介氏に話を聞いた。

2009年当時、庄司氏はアメリカに訪問し、オバマ氏が提供するオープンガバメントの動きを研究。その後日本での政権交代後には、民主党が実施した事業仕分けのネット中継の企画を行うなど、政府のオープンガバメントに対する取り組みにかかわっている人物の一人だ。

高木氏は、インターネットを使って国民からアイデアを募集する、経済産業省が運営する『アイディアボックス』に開発者側として携わっていた。これまで、官公庁は国民からの意見を吸い上げるパブリックコメントを実施しているが、意見を聞く一方向のやり取りだけで、公開の場で双方向のやり取りができる場が存在しておらず、また国民同士でも議論を行い、より意見を深めてもらう場もなかったという。

『アイディアボックス』では公開の場に意見を投稿できるとともに、投稿された意見にコメントや投票を行うことで参加者や行政職員が討論ができる設計にした。

この試みは日本の行政としては初めての取り組みであり、パブリックコメントでは一般的に意見が10件集まればいい方と言われている中、『アイディアボックス』では1500以上のアイデアと9000件以上ものコメントが集まるなど、活発なやり取りが行われた。

「事業仕分けの中継や『アイデアボックス』など、政府行政の活動に関して参加性を持ち、自発的に情報を集めたりまとめをする動きが次第に起き始めてきているのを強く感じています」(高木氏)

震災をきっかけに広がる技術者のソーシャルアクションとOKFJ設立

その後、「アラブの春」におけるSNSによる社会運動の盛り上がりや、アノニマスによるハッカー行動など、インターネットを通じた行動やエンジニアが社会に関与する動きが世界中で起こり始めた。

2011年に東日本大震災では、震災に対して自発的に問題解決に対して行動する人たちが増えるなど、ネットを使い社会に参加する機運が日本でも高まり始めてきたといえる。

未曾有の大震災を皮切りに、エンジニアが人々のため、地域のためにできることが見え始めたという

「震災によって、エンジニアの力が社会に貢献できるということが次第に見えてきました。クライシスマッピングの 『sinsai.info』などの動きは、まさにデータとエンジニアの力によって社会に必要なサービスを提供する手段の一つの事例です」(庄司氏)

放射能の問題や電力問題などに対して、言説ではなくデータ分析をベースに議論しよう、といった動きも盛んになった。その後、庄司氏もかかわっていた政府IT戦略本部が「電子行政オープンデータ戦略」を2012年7月に発表する動きを見せるなど、日本におけるオープンデータの可能性を見据えた人たちによってOKFJが設立された。

「オープンデータを実施しようとした時に、政府がただ情報を出しただけでは誰も使いません。そこで、わたしたちが旗振り役として民間側として利用用途を示すなど、政府主体ではなく民間主体で形を作っていくべきだと考えたのです。多様なデータの生成・公開・利用を支援促進していくことで、経済や日々の生活の質を向上する社会を実現したいですね」(庄司氏)

OKFJの主な活動は、政府に対する提言やオープンデータを推進する地方自治体の発掘、オープンデータの情報共有やアドバイス、データを使ったハッカソンなどの実施を中心に、エンジニアのみならず多様な人とともにモノづくりを行っている。

「イベントでは、政府が提示するデータをもとにわたしたちの生活に役立つアプリやサービスを企画・開発したりしています。行政や技術者、デザイナーなど、業種や職種の垣根を越えた交流がきっかけとなり、たくさんのアイデアが生まれています。先に述べた『Where Does My Money Go?』も、OKFJのイベントから生まれました。こうした活動を通して、誰でもデータを使ってモノづくりができる実感をみんなが持ちつつあります」(高木氏)

データを扱って何かを作り出すことは、エンジニアの得意分野だと語る高木氏。エンジニアの技術力をより活かす環境を作り出すことで、日本が持つ技術力を有効活用できるのでは、と話した。

オープンデータを活用したビジネスチャンスの広がり

海外では、オープンデータをきっかけに様々なビジネスチャンスを模索し始めている。

アメリカの『The Climate Corporation』は、農家向け保険サービスとして、農作物の収穫を左右する天気に対して年間を通じた収穫補償の保険などを提供している。サービスの基盤には、国立気象サービスがリアルタイムに提供する250万カ所から得た気象データ、農務省が提供する過去60年間の収穫量データ、1500億カ所の土壌情報をもとに統計を行い、保険商品を作り上げている。

また、『MRIS(Metropolitan Regional Infomation Systems)』という不動産情報サービスは、家賃や間取り、エリアといった従来の不動産情報に加え、地域の人口統計や先生や生徒数から導き出す教育水準、気候や医療経費指標、環境汚染状況などのデータを分析・提供している。オープンデータをもとにした様々な統計データから、その地で暮らすことをよりリアルに実感できる高度な不動産情報サービスへと昇華させたのだ。

こうした例のように、海外では、データと分析結果をもとにした新たなサービスやビジネスモデルが構築され始めている。これらを踏まえ、「オープンデータの活用は、Webの新たなビジネスマーケットとして今一番ホットかもしれない」と両氏は話す。

オープンデータを活かしたビジネスチャンスで社会に働きかける

今後の課題は、オープンデータの促進はもちろんだが、公開されたデータをどのように利活用し、市民や民間企業を中心に新しい価値を生み出すかが重要となってくる。

「オープンデータをどう活用するか。アイデアソンやハッカソンにくれば、そのヒントはたくさん落ちている」と話す高木氏

「オープンデータはまさにネタの宝庫。課題は、そのネタをどのように調理するか、です。今の日本で行われているデータの活用は単純なものしかありません。だからこそ、データの活用の可能性はこれから開拓する余地が多く存在しています。先駆者として道を切り開く価値は、十分あるのではないでしょうか」(高木氏)

これまで活用されていなかった公益情報が今後積極的に活用されることで、社会問題を可視化することができる。さらに、利用するデータが公益データであるため、おのずとわたしたちの身近な生活にも直結してくる。

オープンデータの活用は、ビジネスチャンスをつかみ、さらに市政への働きかけや身近な社会問題を浮き彫りにする可能性を秘めている。オープンデータの利活用とビジネスモデルの構築によって、生活を豊かにするだけではなく、地域の課題や社会問題に対する大きな施策にもなり得るのだ。

「オープンデータによって地域社会を可視化し、考えるきっかけを与え、そして行動する。こうした社会と向き合うきっかけをエンジニアが作ることの社会的意義は大きい。まだまだやれることはたくさんあると思います」(庄司氏)

インターネットと政治・社会の関係は、今後ますます強くなっていくことは間違いない。その中で、どんなツールを活用し、社会にどのように働きかけ、行動していくか。未来を作るサービスのアイデアは、まだまだ世の中にあふれている。

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取材・文/江口晋太朗 撮影/小禄卓也(編集部)