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[連載:理系脳の素‐松井龍哉] ロボットデザイナー「異才」の源は、立志の書とアートの恍惚

公開

 
エンジニアリングの脳とユニークな視点でものづくりをする理系な人々。そのヒラメキの素となる愛読書やブックマークサイトをノゾキ見するこの連載。第1回は、ロボットデザイナーの松井龍哉氏。松井氏のモノづくり哲学の秘密がここに……! 
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プロフィール
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フラワー・ロボティクス株式会社  代表取締役社長
松井龍哉氏

1969年生まれ。日本大学芸術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団研究員の後、起業し現職。2001年にヒューマノイドロボット『SIG』、『PINO』でベネチア・ビエンナーレ、MoMA特別企画展に招待出展。ロボット開発を行う傍ら、航空会社スターフライヤーのトータルデザイン、ALFRED DUNHILL銀座本店の店舗設計なども手掛ける

ロボットデザイナー松井龍哉氏が率いるフラワー・ロボティクスのロボットたちは、とても「美人」である。そして、マシンでありながら、そこに「ある」というよりまさに「いる」という存在感を放っている。

「これまでの”道具としてのロボット”というのは、工場で人間に変わってより強い力を発揮したり、あるいは精密に作業をしたりと、使う人間の能力を拡張してくれるものでした。僕たちが開発・販売しているのは、その次の世代のロボット。『自律型ロボット』といって、環境を認識して判断することができる、道具とは違う目的を持って僕たちの生活に存在する第三者なんです」

例えば、美しい動作のマネキン型ロボット『Palette』は、マネキンとしてその動きで洋服を美しく見せるだけではなく、前方に来た人がどのポーズに注目したかを学習して、ポーズの構成を自ら選定する。そんな製品である。

そんな新しい概念のロボットを開発そして販売する上での松井氏の哲学が、「技術というのは、人や社会が幸せになるためのものでなくてはならない」ということ。その哲学を学生に伝えるために、松井氏が早大理工学部の教壇で勧めるのが『竜馬がゆく』だ。司馬遼太郎のベストセラー時代小説に描かれている坂本龍馬の生き様は、エンジニアとして生きていく上で、どんなヒントになるのだろう。

どうやって技術と社会の接点をつくるのかを知る

「坂本龍馬のストーリーは去年の大河ドラマ以降、皆さんかなり詳しくなっているので説明するまでもないですが(笑)、龍馬は北辰一刀流という剣術を学びます。でも、彼の目的は剣の達人になることではないんですね。彼にとって剣は、もっと大きな志を成すために身に付けた技でしかない。エンジニアも同じだと思うんです。学生になぜ機械工学を勉強するのかと聞くと、好きだから、という答えしか出てこない。もちろんそれは良いのですが、技術を学ぶのであれば、いずれ自分のためでなく、社会のためとか誰か他者のためという志がないと、先がないと思うんです」

そう話す松井氏の傍らにあるソニー創業者・盛田昭夫氏の著作『Made in Japan』は、いわく「昭和の『竜馬がゆく』といってもいいくらい価値のある本」。

松井氏がいかに読み込んでいるかは、ボロボロになったそのカバーからも見て取れる。

「これを読むと、盛田さんが技術者はもちろん、マーケティングや広告担当者などのさまざまな能力を一つのチームとしていかに綿密に設計し、会社を経営していたかが分かります。そういったマネジメントにより、技術は社会との接点を得て、より多くの人たちの生活を豊かにすることができたんです」

世界中の人を笑顔にするものの秘密を探る

盛田氏がマネジメントしたソニーというチームは、高い技術をマーケティングをベースにユーザーが求める製品に落とし込み、広告を利用してその製品を広く世の中にアピールすることで、技術を社会に共有した。一方、デザインの力で技術を誰もが使えるものにしたのがアップル社。そのアップル製品の機能美の総集編ともいえる『アップルデザイン』も、ずっと松井氏が手元に置いている愛蔵書の一冊だ。

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松井氏の”理系脳”をつくった蔵書の数々。デザイン関連の書籍からディズニー史まで幅広いラインアップだ

「アップルは、一部の人間だけのものだったコンピュータというテクノロジーをデザインの力で『民主化』して、新しい産業にしました。それまでには思いもよらなかった生活を提案し、膨大な新しい雇用を生み、社会を変えたというのが、アップルのすごさだと思うんです」

松井氏が研究所を辞してフラワー・ロボティクスを立ち上げたのも、ロボットを産業として確立したいという思いから。つまりそれは、ロボット技術で人間の生活をより豊かに、幸せにするということ。この一貫した「幸せ」というキーワードは、松井氏の愛蔵本にも共通するキーワードだ。

例えば、本棚に何気なく並べられている『世界文学全集』には「幸せな王子」が収録されていたり、小学生の時から大事にしているという『ディズニーの芸術』には、世界中を笑顔にしてきたディズニーアニメの歴史と秘密が綴られている。

2030年、ロボットはプリマドンナと共演する

そのほか「デザインをやりすぎちゃったときに戒めとして見る(笑)」というのが、デザイン家具メーカー・ヴィッツゥ社のホームページ内にある、ディーター・ラムス氏の「良いデザインの十か条」。あるいは師である丹下健三氏の『現実と創造』や『バウハウス』は、原点に返るための一冊といったところか。

定期的な情報収集は、MITメディアラボやInternational Council of Society of Industrial DesignのWebサイトで。どれも、モダンデザインの美と先端技術を追求する松井氏らしさがうかがえるラインナップだ。

ふと、そのラインナップのなかで目を引くものを発見。パリ・オペラ座のサイトだ。

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『Posy』は、もともと「人間とロボットの共存」を志向して生み出されたナビゲーション・ロボットだ

「ロボットが研究室から社会へ出て、そしていつか家庭へ入っていって人と共存し、人間の生活を豊かに幸せにするためには、しなやかさや柔らかさが重要になってきます。じゃあそれがどういったロボットか、ということを世界中の人が分かるようにしようと思って、20年後にロボットがパリのオペラ座でプリマドンナと共演するというのを目標にしているんです」

そのイメージトレーニングとしてチェックしているのが、オペラ座のサイト。今、「3歳の女の子」という設定で作られているロボット『Posy』がその大役を任される予定だ。もちろん、20年後というのは「技術の進化も、デザイナーとしての自分もいいタイミングだと思う」という現実的な数字。ディズニーのキャラクターたちがわたしたちをハッピーにしてきたように、23歳になった『Posy』もパリで人々に感動と笑顔を与えてくれるに違いない。

取材・文/川瀬 佐千子  撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)

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『Made in Japan -わが体験的国際戦略』

(盛田昭夫著/朝日文庫/※amazon.co.jpにて中古品のみ購入可) 

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『現実と創造』

(丹下健三編/美術出版社/※amazon.co.jpにて中古品のみ購入可)

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『アップルデザイン-アップルインダストリアルデザイングループの軌跡』

(ポール・クンケル著/アクシスパブリッシング/※amazon.co.jpにて中古品のみ購入可)

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『Bauhaus』

(Hans Wingler著/The MIT Press/税込6796円)

 

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『ディズニーの芸術』

(クリストファー・フィンチ著/講談社/※amazon.co.jpにて中古品のみ購入可)

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『都市と建築コンペティション』全7巻

(三宅理一著/講談社/※amazon.co.jpにて中古品のみ購入可)

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ニューヨーク近代美術館(MoMA)
http://www.moma.org/

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ナショナル・ジオグラフィック

http://www.nationalgeographic.com/

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MITメディアラボ

http://www.media.mit.edu/

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パリ・オペラ座

https://www.operadeparis.fr/

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International Council of Society of Industrial Design

http://www.icsid.org/

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ヴィッツゥ社/ディーター・ラムスの「良いデザインの十か条」

http://www.vitsoe.com/en/gb/about/dieterrams/gooddesign