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[連載:高橋信也⑥] 起業を考える技術者へ。「技術やアイデア」より経営術を学べる「人脈づくり」にこだわろう

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PMOの達人・高橋信也のプロジェクト最前線
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株式会社マネジメントソリューションズ  代表取締役/CEO
高橋信也

外資系コンサルティングファーム2社を経て、大手メーカー系システム会社へ転職。PMとしてグローバル案件などを手掛けた後、2005年に各種プロジェクトマネジメント支援を行うマネジメントソリューションズを設立。著書に『PMO導入フレームワーク』(生産性出版/税込2310円)がある

ソーシャルメディアやスマホアプリの領域が活発になってきたこともあって、最近再び、ベンチャー起業や起業家の話題をよく耳にするようになってきました。そこで今回は、プロジェクトのマネジメントではなく、企業や組織のマネジメントについて書こうと思います。

「起業」「経営」と書くと、やるべきことが膨大にあるように思えるが、大別すると2つの道に集約される

「起業」、「経営」と言われると、やるべきことが膨大にあるように思えるが、大別すると2つの道に集約される

わたし自身6年前に起業したばかりで、今も試行錯誤の連続ですが、一つハッキリしていることがあります。それは、起業家やベンチャー企業には大きく分けて2つのパターンがあるということ。一つは、「景気の波」に乗っかる形で成長をしていくタイプ。もう一つは、自分で「波」を作っていくタイプです。

どちらが良くて、どちらが悪いなどという持論を語りたいわけではありません。その時代のマーケットが求める価値を提供することで経営の基礎を築いたベンチャー企業はたくさんありますし、他方でトレンドに左右されず、独自の発想によるサービス・製品開発でその道の開拓者になったベンチャーもあります。

理想を言えば、この2パターンを同時に実現するのがベストなのでしょう。

例えば、新しいサービスや技術を提供して「波」を作り上げ、その波を大きくしながら成長していく形。あるいは、ゲームアプリ開発のように時代が求めているものを提供する事業を営みながら、別チームが”ステルスプロジェクト”として独自の技術やサービス開発に従事し、双方で収益を上げられるようにしていく形もあります。

ちなみに、マネジメントソリューションズはこの理想型を追求しています。PMOソリューションの専門家集団になるという方向性は創業当初から不変で、ありそうでなかった「波を作る」活動の結果、幸いなことに比較的すぐに企業ニーズを掘り起こすことができました。ですから、今となっては「波に乗る」パターンになり始めています。

が、それとは別に、ソフトウエア開発事業にも早い段階から取り組んできました。すでに商品化している『ProViz5』は、プロジェクトマネジメントをより効率的に進めていける機能を持ったソフトです。多数のPMOソリューションを持っているのが当社の価値ですから、そのノウハウをツールに落とし込んで、他社にはできない独自の「波」を生み出そうとしています。

フロー型事業で稼ぎながら、ストック型事業を育てる

さて、「波に乗る」と「波を作る」の2つは、こう言い換えることもできます。「すぐに収益を上げていく事業」と「いずれ独自の価値を生むはずの事業」。わたしはこの2つをフロー型、ストック型と呼んでいます。

スタートアップの難しさは、「生きるための日銭稼ぎ」と「大成するための下準備」をどう両立していくかにある

スタートアップの難しさは、「生きるための日銭稼ぎ」と「大成するための下準備」をどう両立していくかにある

フロー型事業は、すぐにお金を生み出します。けれども、時代の「波」が変わったり、競合企業が乱立してきたりすることで停滞してしまうリスクも抱えている。

ストック型事業はその逆で、当初はただただお金がかかります。製品にしろ、サービスにしろ、それが完成して市場で評価が高まるまでは、ほとんど収益を生み出しません。それでも、一度時流をつかんでしまえば、独占的に収益を得る可能性を秘めている。

この2つを同時に追うスタイルを、わたしが最初に「理想」だと位置づけた理由もここにあります。つまり、フロー型事業で成長をしている間に、ストック型を大事に育てることができたなら、仮にフロー型が停滞する時期を迎えても、今度はストック型が収益フェーズを迎えることができる。

この理想追求は相当難しいチャレンジですし、わたし自身も日々模索の状態です。大事なのはバランス感覚と決断力。どれだけフロー型にお金や人や労力をつぎ込み、どれだけストック型に投資をするか。ストック型で取り組んでいる事業は必ず成功するとは限りませんから、どこまで粘り強く引っ張るか、あるいは、どうなったら見切りをつけて撤退するかという決断力も問われてくるでしょう。

もう一つ言うならば、一貫性も大事なポイントです。経営状況は日々変化しますし、それによって軌道修正をすべきタイミングも来るでしょう。そこで柔軟に対応することが大切になるわけですが、その変化の舵取りに一貫性がないと、社内のメンバーはついてきません。

経営者は皆が納得できるポリシーをハッキリ示して、それに基づく形で変化し、バランスの取り方を変えていくことがとても大切なのです。そうしないと、フロー型で汗を流している”スーツ組”が腐ってしまったり、ストック型でコツコツ努力している”ギーク組”がモチベーションを下げてしまう。どんなに優れたビジネスモデルや技術を持っていても、マネジメントはうまくいきません。

ベンチャーの成否を分けるのは「情報収集」の視点とやり方

マネジメントソリューションズは今、努力の甲斐あってうまくバランスが取れており、ストック型事業だったソフトウエア開発も収益を生み始めています。けれどもここまで来るには、何度も難しい決断を迫られました。その中で、わたしが特に腐心したのは「情報収集」でした。

ここでいう「情報」とは、技術情報でもマーケット情報でもありません。経営にかかわる情報や知識、知見のことです。分かりやすい言い方をすれば、「収益を上げるためにどうするか」、「会社がつぶれないようにするにはどうするか」という事柄です。

会社経営は綺麗事では回りません。収益を生み出さないベンチャーは、「世界に価値を提供する」という美しい理想を持っていても、結局実現できず、マーケットから去らざるを得なくなります。海外の起業家が持っていて、日本の多くの起業家が持っていないものの筆頭が、この「収益を上げるどん欲さ」ではないか、とわたし個人は思います。

では、どん欲になろうとしてきたわたしが、これまでどんな「情報収集」をしてきたか。簡単に言うと、いろいろな人と出会い、ふれ合う努力です。

わたしと同じように起業をした人たちと交流をして、「どんな経験をしたのか」、「その時何を思い、何をして、結果どうなったのか」みたいな話題で情報交換します。

中には、スタートアップの時期は好調だったのに、数年後に何千万円もの負債を抱えて廃業した人もいましたから、そういうネガティブ情報にこそ熱心に耳を傾けてきました。

ふらりと立ち寄った飲み屋での会話も、「経営」や「事業展開」を学ぶソースになる

ふらりと立ち寄った飲み屋での会話も、「経営」や「事業展開」を学ぶソースになる

そればかりではありません。ちょっと立ち寄った飲食店などで、そこのマスターや従業員さんと「景気はどうですか?」みたいな話をすることも意識してやってきました。どんな業種の人でも、世の中の動きについて思うところがあるものです。そういう話を聞くことで、それが会社経営のヒントになったりします。

例えば、素人なりにお店を眺めて「これだけの席数で、このロケーションだと、客層は若い人中心ですかね?」みたいに水を向けたりするわけです。そうすると、全員ではないけれど、「いや、実はこの辺は大人の客層が多いので、集客にはこういう工夫をしています」などと、プロならではの分析や対応手段を快く話してくれるものです。

また、うちの会社にもさまざまな業種の営業マンが来ますから、そういう人たちからもいろいろと話を聞くようにしています。公私を問わず、とにかく経営につながるような話を聞き出す努力を繰り返してきました。このように考えれば、多様な立場の人から情報収集をするのが、そんなに難しいことではないとお気づきになるでしょう。

エンジニアの場合は、自分の好きな言語の勉強会や、同じサービス領域に従事する人同士の会合に参加することも多いと思います。そこに「出席」するだけでは意味がありません。起業して間もないころ、わたしは誰にも知られていない若者でしかなかったので、何とか自分の存在を相手に印象づけていく工夫をしていました。

「ヒゲの高橋」から「PMOの高橋」に変わる瞬間が次の一歩に

小さなところで言うと、ヒゲを生やして見た目で印象づけようとしたり、会社のロゴを自分で作って印象的な名刺にする、などです。最初は「ヒゲの高橋」でも「面白い名刺の高橋」でも、覚えてもらえれば何でもいいと思っていました。

ほかには、事務所が六本木なので、マネジメントソリューションズという会社名ではなく、「六本木のコンサル会社」と覚えてくれた方もいました(苦笑)。

こうしていろんな人たちに印象を残しながら仲を深め、さまざまな経験談や機知を聞き出し、それを経営成功のための情報として吸収していきました。それこそが、わたしの「どん欲さ」を磨く鍛錬になっていたと思います。

ただし、いつまでも「ヒゲの高橋」や「六本木の高橋」という印象づけを続けていたわけではありません。経営のヒントやアドバイスをくれるような人、あるいはゆくゆくビジネスパートナーやクライアントになってくれるような人と出会い、つながりを維持していこうと考えれば、キャラではなく自分の付加価値でもって、印象づけをしていかなければいけません。

わたしの場合、前職時代からPMOに携わってきたこともあって、早い段階で「PMOに詳しい高橋」として多くの方々が記憶してくれるようになりました。カギはここにあります。

ビジネスに直接つながる価値によって印象を残すことができて初めて、良い情報収集ができ、本当に役立つ人脈を築くことができるようになっていきます。

皆さんにも、自分を表現する上で軸となる「人と違う価値」が必ずあるはずです。これを上手に磨き、活用しながら人脈を築き、そこで知恵や情報を得ていくこと。これが、ベンチャー企業のマネジメントにチャレンジする最初の一歩だと考え、トライしてみてほしいと思います。

撮影/外川 孝(人物のみ)