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[連載:西田 宗千佳②] アナログ停波後のテレビ開発を巡る「汎用」と「高付加価値」の戦い

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ジャーナリスト・西田 宗千佳のデジMONO先端研
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IT・家電ジャーナリスト
西田 宗千佳

「電気かデジタルが流れるもの全般」を守備範囲に執筆活動を続ける気鋭のフリージャーナリスト。主要日刊紙や経済誌、MONO系雑誌にあまねく寄稿し、書籍の執筆も多数。最近は電子書籍関連の著書が多い。近著は『電子書籍の真実~未来の本 本のミライ』(ビジネスファミ通/税込1500円)など

テレビの世界では、地デジへの完全移行後の需要を考えた「次世代成長戦略」を模索する動きが始まっている。

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From na0905 

東芝が2008年に超解像技術搭載の『REGZA』を発表するなど、画質へのこだわりが日本メーカーの売りだったが……

完全デジタル化が完了したテレビにおいて、追求する方向性は2つある。

一つはいうまでもなく「画質」。地デジが画質は向上した、と言われることが多いが、実際には「解像度が向上した」、「アナログ起因のノイズが減った」だけであり、総体として見ると、デジタル化によってむしろ画質が下がった部分もある。

それを補正して見やすくする、というのは、AVにこだわるメーカーとしては当然のアプローチといえる。

もう一つは「スマート化」。携帯電話がモダンなWebブラウザの搭載とアプリの搭載によってスマートフォンへと変化していったように、テレビもスマートTVへと変わっていく。単純にWebを見るだけでなく、映像ソースとして放送電波以外の、インターネットを経由した映像が利用されることになって、映像産業を含めたテレビの位置付けが変わることになる。

とりあえずここでは、放送などのコンテンツ産業の話題は本論ではないのでは省く。重要なのは、テレビを構成する技術がどのように変わるのか、という点だ。

率直に言って、テレビはシンプルに作るという前提に立てば、デジタル機器の中では、もはや製造が難しくない製品の一つといえる。重要なのは「どこから液晶パネルなどの供給を受けるか」であり、製造も台湾などのODMを活用することですぐに行える。製品作りとしてはPCに近く、エンジニアリング能力はさほど必要にならない。

だが、その発想で作れるのは「今のテレビ」だ。これから必要とされる要素を持ったテレビを作るには、発想の転換と先行的な技術開発が必要になる。

Android OSを軸としたスマホ的な開発スタイルが隆盛

特に重要なのが後者、すなわちスマート化である。スマート化には大きく分けて2つの手法があるのだが、ここで注目しておきたいのは「汎用技術の水平展開」である。

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From @boetter 

発表後、Web閲覧とテレビ視聴がよりシームレスになったと話題になっている『Google TV』

スマートTVの先駆けとして、昨年末、ソニーはGoogleと共同で『Sony Internet TV Powerd by Google』(通称Google TV)を北米市場で発売した。実はこの製品、中身はPCとテレビをニコイチにしたような構造になっている。CPUにはネットブックに多く使われているIntelのAtomを使い、OSはスマートフォンでお馴染みのAndroidをテレビ向けにカスタマイズしたものだ。

テレビという製品に仕上げたのはソニーだが、Google TVの心臓ともいえるマザーボードの設計とソフト周りの開発を行ったのは、PCやスマートフォンの設計で実績のある台湾系大手ODMの手によるものである。

Androidの汎用性に期待する企業は少なくない。家電関連展示会などでは、中国系企業がスマートフォン向けのAndroidをそのままテレビに搭載した製品を展示する姿まで見られた。もちろん、スマートフォン向けのものをそのまま乗せても使いづらいだけであまり意味はない。しかし、「スマートTVを作る汎用OS」として見た場合、Androidを軸に技術開発を行うノウハウは大切なものになる。

特に、単純にクオリティーを狙うのでなく、ある程度コストと量産を中心に考える低価格製品や新興国向け製品では、調達が容易な汎用パーツを使った製品については、かなりPC的、スマートフォン的な製造・開発スタイルを採るものが増えていくだろう。

低価格な専門LSI開発が差異化戦略のカギに

象徴的なのが東芝の動きだ。同社は4月1日に組織改編を行い、これまで別々に存在していたPCとテレビ/AVの事業部門を統合し、一体となってビジネス展開していくと発表した。また、4月20日には、2013年までに「全世界で6000万台・シェア10%」を目指すと目標を公開した。これはテレビやノートPC単独のものではなく、両者を合わせた数字である。

今後のテレビ作りにおいては、PC作りのノウハウが重要である、ということがこの点から見えてくる。エンジニアリングの観点でも、ODMのコントロールや汎用OSを使ったソフトウエア開発の効率化といった点が求められる。

他方、汎用技術での開発は、他社との差異化という点で問題がある。PCでは企業間の差異化がうまくいっておらず、スマートフォンでも、HTCやサムスン電子といった「スピード重視」の企業は成功を収めつつあるが、それ以外の企業はPCと同じ「同質化サイクル」に落ち込みつつある。

テレビという観点で見ると、ここで最初に挙げた「画質」面での差異化技術が効いてくる。画質向上には長期にわたる基礎研究とノウハウが必要で、PCとは違う。

ただし、「高画質だが高価」となってしまっては、今後は商品としての展開が厳しく、ビジネスにならない。事実、2005年から2010年にかけて、日本企業がサムスン電子やLG電子といった韓国勢に対し、北米を中心としたテレビ市場で劣勢だったのは、高画質な分だけ高価である、という価値が市場にマッチしなかったためである。

その点を改善するために、ソニー・東芝・パナソニックなどが取り組んだのは、高画質化LSIの集積だ。独自のLSIに高画質化ノウハウを詰め込み、部品点数を増やすことなく、高機能・高画質を全世界共通の設計で展開できるようにすることで、市場とのマッチング問題を解決しようとしているわけだ。

パナソニックは2005年以降、長く同社の『ユニフィエ』シリーズの開発で取り組んできたテーマだが、今年はソニーが『X-Reality』と『XCA7』、東芝が『CEVO Engine』という独自開発LSIを用意し、高価格モデルのコストパフォーマンス改善に努めている。

カスタムLSIの低価格製造と、高度な演算系の「専用LSI化」は、今後タブレット型端末にも広がっていくだろう。汎用環境と専用LSIのコンビネーションをどう活かすかが、今後数年間の、日本メーカーの差異化戦略の中心になっていくと考えられる。

撮影/芳地博之(人物のみ)