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[連載:高橋信也⑤] プロジェクトマネジメントの主眼が、「ロジック」から「感性」に変わりつつある

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PMOの達人・高橋信也のプロジェクト最前線
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株式会社マネジメントソリューションズ  代表取締役/CEO
高橋信也

外資系コンサルティングファーム2社を経て、大手メーカー系システム会社へ転職。PMとしてグローバル案件などを手掛けた後、2005年に各種プロジェクトマネジメント支援を行うマネジメントソリューションズを設立。著書に『PMO導入フレームワーク』(生産性出版/税込2310円)がある

先日、わたしはアメリカ西海岸に約一週間行ってきました。

PMI(米国プロジェクトマネジメント協会)サンフランシスコ支部のPMO担当者や、アクセンチュア時代の同僚で現在salesforce.comで活躍中の友人らに会いに行くのが目的の出張でした。

最大の収穫は、われわれマネジメントソリューションズが提供しているPMOソリューションが、北米市場でもブルーオーシャンだと分かったこと。実はこうしたサービスを提供する企業はアメリカにもほとんど存在しておらず、会った人のほとんどから「もしアメリカで展開すれば、多くの会社やサービスプロバイダーからニーズが集まるだろう」と評価をしてもらえたのです。

From boborosh プロマネ先進国であるアメリカでは、今「違った形」のPMへのニーズが高まっているという

From boborosh 

プロマネ先進国であるアメリカでは、今「違った形」のPMへのニーズが高まっているという

アメリカでは近年、急速にプロジェクトマネジメントに関する専門知識が重視されています。多くの成長企業で有望な人材たちがPMPなど関連資格を取得しているのもその証拠。大手企業に就職するため、学生がPMPを取得する動きまであると聞きました。

そんな状況だからこそ、多くの企業人がPMOの価値を理解しています。「プロジェクトマネジメント先進国」と思われている北米でも、ITをはじめとしたプロジェクトの多くがどんどん大規模で複雑なものになっていて、マネジメントのプロフェッショナルが足りない状況になっているのです。

そしてもう一つ、PMOソリューションに対するニーズが浮かび上がってきた背景には、ビジネス動向の変化、もっと大きな言い方をすれば「時代の変わり目だから」という点があるように感じました。

ビジネスライクに物事を整理するだけでは人はついてこない

PMIサンフランシスコのPMO担当者には、わたしから以下のような話をしました。
 

「プロジェクトマネジメントやPMOは、知識やロジカルシンキングだけではうまくいかない。エモーショナルクオリティー(感情・感性の質)やヒューマンセンス(人間性)という根源的なものが非常に重要だ。当社の中途採用ではまさにその点を重要視している」

彼はアメリカでもまったく同じ状況であり、そこを重視した採用は正しいとおっしゃってくれました。

カナダのマギル大学の教授である経済学者ヘンリー・ミンツバーグが、5年前に『Managers not MBA』という原題で発表した著書は、世界でベストセラーとなりました。日本でも『MBAが会社を滅ぼす』(日経BP社刊)という邦題で出版され、話題を集めましたから、読んだ方も多いかもしれません。この本も、MBAホルダーを万能視する考え方に警告を鳴らしています。

誤解しないでほしいのが、ビジネススクールなどで学ぶことのできるロジカルシンキングには、大きな価値があるということです。しかし反面、ロジカルシンキングに傾倒したマネジメントには、重箱の隅をつつくようないやらしさもある。微に入り細に入りダメ出しをして、”完ぺきな正しさ”を追求するような姿勢は、多様な人間が集うプロジェクトの現場ではむしろ逆効果を生むこともあるのです。

インテグレーションというものが望まれる場でモノを言うのは、全体を俯瞰しながら大きな方向性に目を配り、そこで働く人々の気持ちを汲み取りながら活かしていく姿勢です。だから、プロジェクトマネジメントにはエモーショナルクオリティーやヒューマンセンスが大切なのだとわたしも思っています。

わたしなりの言葉でいえば「人間に対する理解」。これがプロジェクトマネジメントに限らず、企業経営で求められるのです。

人間の持つ感性的な生身の力、影響力や指導力といったものが、ロジックや専門性以上に重要な位置を占め、プロジェクトや会社経営の行方を左右する。そんな発想でやってきたわたしにとって、アメリカで見聞きした新しい傾向は歓迎すべき事柄でした。

そんなことを感じながら帰国して、すぐに目に止まったビジネス書もあります。それは『「PULL」の哲学 時代はプッシュからプルへ― 』(主婦の友社刊)という本。まだ全部読んではいないのですが、マッキンゼー出身の人らによって書かれたこの本は、人と人とのつながり、つまり組織のあり方についても書いているようです。

既存の組織はプッシュ型でした。つまり、知識や情報をより多く持つ上司が、部下に命令を下していくスタイルです。乱暴な言い方をすれば、押しつけ、押しつけられる関係だったわけです。

しかし、特定の少数の者にだけ情報や知見が集中していた時代は、ソーシャルネットワークなどの登場でもう終わりつつあります。個人は技術やネットワークの進化で情報力を得て、皆が強くなった。

こうなってくると、誰かが物事を型にはめて「こうあるべき、こうしなさい」と言っても、集団は動きません。「知っているかどうか」や「正しいかどうか」よりも、「この人には惹きつけられる」という力がリーダーに求められる資質となっていく。文字通り「プル=引き寄せる」力が求められるのです。

「プル型リーダー」を目指すならば、まずは情熱から

ここまで、新しい時代のマネジメントについて考察してきましたが、実はこれらは過去に「すでにあったもの」です。ロジック以上に人間力が大切、ということを示す事例も、70年代、80年代の日本にはたくさんありました。

From Travis Isaacs 「世界のHonda」として名を馳せるホンダは、本田宗一郎氏ほか歴代リーダーの人間力あってこそと高橋氏は言う

From Travis Isaacs 

「世界のHonda」として名を馳せるホンダは、本田宗一郎氏ほか歴代リーダーの人間力あってこそと高橋氏は言う

例えばホンダをベンチャー企業から一躍、世界を代表する自動車メーカーにまで育てた本田宗一郎さん。残念ながらお会いしたことはありませんが、数々の本などから伝わってくるのは、本田宗一郎さんが圧倒的な人間的魅力の持ち主だったこと。

ロジックの正しさや技術の高さもあったかもしれません。しかし、ホンダが一枚岩となって成長の道を駆け上がった最大の要因が、リーダーの人間性にあったことは疑いようもありません。

わたしが言いたいのは、時代は繰り返すということ。コンピュータが「分散」型から「集中」型へシフトし、そして今はクラウドによって違った「分散」の道を歩んでいるように、組織のあり方、マネジメントのあり方も、時代とともに移り変わります。

安定成長の時代に真価を発揮したのがロジック優先のマネジメントだったのなら、世界中の企業と市場が先の見えない航海を続けている今は再び人間的魅力が価値を高めている。そういうことなのだと思います。

では、どうすれば人間的魅力を高めることができるのでしょう? 実は、わたし自身もその答えを探し続けています。技術やロジックならば、書籍やネットなどを通じて勉強すれば身につきます。しかし、「人間性」となると、あまりにテーマが大きい。

以前、この連載でも書いたことがありますが、人間的魅力というものも、まるで筋力トレーニングをするように、少しずつ、さぼることなく継続することで、徐々に身についていくものなのでしょう。

ただし、ヒントらしきものをわたしは見つけています。先の『「PULL」の哲学』にある、こんな一説が参考になるでしょう。

「情熱を追求すれば、自分の力でセレンディピティを起こすことができる」

セレンディピティとは偶然性のこと。ということは、「情熱さえあれば望んでいる偶然をも手に入れられる」ということになります。情熱は、確実に人を引き寄せる魅力の一つになる。そう考えて、高め、維持していく努力ならば、わたしたちにもできそうですよね。

撮影/外川 孝(人物のみ)