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[対談:家入一真×鶴田浩之②] 本当に使えるアイデアは、「遊び」と「抑圧」の際(きわ)で生まれるもの

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鶴田 実はあの時、合宿地の那須に行く前に、仲間と一緒にある「決め事」をしていたんです。免許を取るまでの間に、何かWebサービス作って帰ろうぜって。

家入 ほぅ。

鶴田 で、自動車免許の教習所に通ったことのある人なら分かってくれると思うんですけど、教習所の教官についての情報って事前にほしいじゃないですか。だから、「教官のクチコミ情報サイト」を作ろうか、なんて話をしていたんですよ。

家入 分かる、分かる。それ面白いね。

『prayforjapan.jp』が驚異的な速さで生まれるには、ある「伏線」があったと話す鶴田氏

『prayforjapan.jp』が驚異的な速さで生まれるには、ある「伏線」があったと話す鶴田氏

鶴田 もともとそんな考えがあったので、あの日の夜、気づいた時には『prayforjapan.jp』のドメインを取っていて、毛布にくるまりながらコードを書いて、その場で公開しました。最初は友人など数人に見せるつもりだったものが、数100万人がアクセスしたサイトになりました。

家入 すごいね、それ。

鶴田 でも全然難しい技術は使っていなくて、実はこれ、WordPressで構築されているんです。1週間後には世界中のボランティアが30名近く集まり、12言語に対応しました。

家入 へぇー。確かに、何か一つ「仕組み」を組み立ててしまえば、それを軸にいろいろな動きが生まれるよね。

鶴田 今まで僕が作ってきたサービスって、簡単に言ってしまえば「ユーザーとユーザーをつなぐ仕組み」ばかりなんですね。違うのは、「何でつながってもらうか」だけだったりすることも多い。システム上のベースが同じだから、「手が速い」と思われる部分もあるのかと思います。

家入 でも、その「何でつながるか」がとても大事だし、そこでアイデアの力が問われるのかもしれない。僕が前に作ったWeb本棚サービスの『ブクログ』なんかも、文字通り「本でつながる仕組み」。このアイデアは遊びから始まったんだけどね。

鶴田 どんな遊びですか? けっこう興味あります。

画像を「ビュンと縦長にする」気まぐれから生まれた『ブクログ』 

Web本棚サービスとして有名な『ブクログ』は、家入氏の

Web本棚サービスとして有名な『ブクログ』は、家入氏の”意外な遊び”から生まれた

家入 ある時にPCでいろんな画像を眺めてるうちに、ビュン!ってその画像を縦長にする遊びをしていたことがあったわけ。そしたら「ん? これ、本の背表紙みたいだな」と。僕、読書が趣味だから。

鶴田 まず、その「遊び」と「読書」がつながっちゃう思考回路が面白い(笑)。

家入 それで、『ブクログ』の構想が浮かび始めた。実は前から、人の家の本棚とか覗き見するのが好きで。背表紙の並び方で、その人の人間性がちょっと分かったりすることが多いなぁと。「あ、この人意外とマジメな本も読むんだな」とか。

鶴田 それ、めちゃめちゃ共感します。僕もよく見ます、人の本棚。そうかぁ、遊びが原点なんですね。そういえば、そもそもWeb業界の人たちって、けっこう遊び心持った人が多いですものね。

家入 うん、遊び心はすごく大事だとも思うよ。僕はくだらないことをやって、くだらないまま終わることの方が多いけど(笑)。時にはそれがサービス開発のひらめきにつながったりするからね。

――「遊び心」が大事ということですが、お2人は普段どんな遊びをされるんですか?

鶴田 僕の会社のメンバーもけっこう遊び心があるんですよ。仲の良い友だちのTwitterアイコンがイケメン風になって周りでチヤホヤされてた時があったんですが、Chromeの拡張機能としてインストールすると自動でその人のアイコンに鼻毛が出てくる、そんなネタを作って配布したり。

家入 意外だね。鶴田くん、けっこうマジメな印象なのに。

鶴田 内輪では、しょっちゅうそういう遊びをやっているんです。

家入 でも、ブラウザの拡張機能は確かに遊べるよね。僕も前に、アマゾンの本紹介ページを開くと、すべての表紙画像がオレの顔写真になるってゆー機能を作って遊んでた。作ってから当面の間、会社のヤツらが誰も気付かなくって、ちょっとヘコんだけど。

鶴田 (笑)。

家入 あ、あとは、アクセスしたサイトのロゴマークが全部『肉のハナマサ』のロゴに変わるように設定して遊んでたこともある。これがけっこう難しくてね。ロゴの出る位置をどうやって決めるかっていうロジックづくりが大変で。技術的には相当勉強になったけど。

自由すぎる環境だと、発想は次第に枯渇していく 

―― 今のお話にもありましたが、技術力に軸足を置いているエンジニアの方だと、そういう場合「技術的に無理」、「ウチじゃできない」という反応を示す人も多い気がしています。

「技術的にできるかどうかより、『これがあったら生活が楽しそうか』を先に考える」(家入氏)

「技術的にできるかどうかより、『これがあったら生活が楽しそうか』を先に考える」(家入氏)

家入 あー、それ、あるある。マジで多いですよね。

鶴田 プログラマーやエンジニアからそういう返答をもらったとき、家入さんはどうしているんですか?

家入 (突然猫撫で声になって)ねぇ~、頼むよぉ~、ねっ! ムリとか言わずにつ・くっ・てぇ、って。

鶴田 あはは。

家入 でもマジメな話、面白いと思うアイデアがあったら、何はともあれまず作ろうとしてみる姿勢って、ものすごく大事だと思うんだよね。

鶴田 確かに。アイデアも同じで、すごく真剣に考え込んで、吟味したからといって、必ず良い発想が出てくるわけではないですしね。だからこそ僕も、今言っていたような遊び心が大事なんじゃないかと思うんです。

家入 鶴田くんが言うように、もっと力を抜いていいんじゃないかって思うよね。いきなりすごい機能を盛り込んだ立派なサービスを作ろうとするよりも、「オレ、こういう機能が欲しい」みたいなシンプルな欲求から始めれば良いと思う。作りながら、さらに面白いアイデアがひらめくことの方が多いしさ。

鶴田 ホントに。僕もそっち派です。

家入 それに、たいていのWebサービスって、決して”突き抜けた技術”を必要としないんだしさ。今はPHPでも覚えれば、それなりのサービスがすぐ作れちゃうでしょ。

―― お2人のようにどんどんアイデアを生み、サービスを生み出していける人と、そうでない人の間には何か違いがあるんでしょうか? 例えば行動習慣、考え方のパターンなど。

家入 答えになっているかどうか分かりませんが、僕がpaperboy&co.を立ち上げたころ、組織的な制約を一切取っ払って「ユルーイ会社」を目指したことがあったんです。「好きなことだけやっていればいいよ」という感じで。でも、やってみて驚いたのは、そこまで自由にしちゃうと、かえって何も発想できなくなる人が少なくなかったってこと。

鶴田 へぇー。何でなんですかね? たぶん、paperboy&co.さんに転職してこられる方って、皆さんアイデアマンな気がしますが……。

写真撮影の最中も、お互いに考えるWebサービスの構想をひたすらブレストし合う2人

写真撮影の最中も、お互いに考えるWebサービスの構想をひたすらブレストし合う2人

家入 そうなんだよ、paperboy&co.に来る前は「こんなサービスが作りたいっ」って熱く語っていたような人でも、だんだん発想が枯渇していくの。もしかして、人には、仕事とか役割上「やらなきゃいけないこと」ってのがあって、そういう制約があって初めて、「オレはこういうのを作りたい」という発想が湧いてくるのかもしれないなと。

鶴田 僕はまだ20年しか生きていないのでよく分かりませんけれど、もしかしたら抑圧があることでハジける部分って、人間にはあるかもしれないですね。僕自身も思い当たる節があるので。

―― 力を抜いて「まずはやってみる」という姿勢が大事な一方で、抑圧や制約があった方がグッドアイデアが生まれやすいという……。アイデアメーカーになる道はなかなか奥深いですね。

家入 そういえば、鶴田くんの会社は9月に新しいWebサービスをローンチする予定なんでしょ。じゃあこの話の続きは、そのサービスができ始めたころにやろうよ。どんなサービスをリリースするのかも聞きたいしさ。

鶴田 はい、ぜひ! 

取材・文/森川直樹 撮影/小林 正

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[対談④] 愛されるWebサービスを創るには、「何をやるか」より「面白がってやる」ことの方がずっと大切